「原子力損害賠償紛争解決センターにおける人的体制の拡充と、個別事案に即した和解案のあっせん、並びに避難者の避難先における口頭審理の開催を求める会長声明」(2012年9月20日)


1  東日本大震災発生から1年半を経過した現在も、東日本大震災で被災し京都府下に避難した方は、287世帯762人に及んでいる(9月14日現在、京都府ホームページ)。この中には、原発事故による被害によって避難を余儀なくされた被災者が数多く含まれている。
    原発事故による賠償については、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)による和解仲介も実施されているところ、京都府下の原発事故被災者について、2012年(平成24年)7月2日、当会所属の弁護士有志が設立した東日本大震災による被災者支援京都弁護団が代理してセンターへの集団申立てを行った。この集団申立てには6世帯21人もの避難者が参加し、請求賠償金額は総額1億6172万7977円に及んでおり、今後もさらなる申立てが見込まれている。

2  センターの人的体制拡充の必要性
    原発事故被災者の生活再建のためには、東京電力株式会社による迅速かつ適正な損害賠償が不可欠である。しかし、センターへの申立件数3882件に対し、既済は970件に留まる。しかもこのうち、取下げ、打ち切りを除いた全部和解成立件数はわずか559件と6割に満たない(9月7日現在、文部科学省ホームページ)。
    既済件数の少なさは、センターによる和解仲介が当初目論んだように十分には機能していないこと、何より、センターの人的体制が不備であることを示している。センター及びセンターを運営する文部科学省は、和解仲介を申し立てた被災者の被害がセンターでの手続によって回復されていないという現状を真摯に受け止め、まず、十分な人的体制を敷いて迅速な解決を図れるようにすべきである。

3  個別事案に即した和解案あっせんの必要性
    既済件数の中でも、取下げ、打ち切りの件数が多く、和解成立件数が少ないことは、甚大な数の賠償事案を一括的に処理するための損害の類型化・標準化を目指すあまり、センターが個別の具体的事案に即した和解案の提示を躊躇していることが要因である。センターは、個別の具体的事案に即した、個々の被災者の納得を得られるような和解案を提示すべきである。

4  避難先における口頭審理開催の必要性
    個別の具体的事案に即した審理を行うためには、口頭審理を充実させることが期待される。
    ところが、センターは、日弁連における意見交換会において、口頭審理を必ず実施することは約束できないと明言している。言うまでもなく、被災者は自らには何ら落ち度のない原発事故によって故郷を追われ、遠隔地において不自由な避難生活を余儀なくされており、現実的に口頭審理のために東京に出頭するための経済的・時間的余裕がある者は少ない。
    京都府下の原発事故被災者の中には、空気中に拡散された放射性物質による子どもへの健康被害を懸念し、一方の親が子どもを連れ福島県外に避難し、他方の親が留まる世帯が多数ある。これらの世帯は、家族の離別を強いられることで多大な精神的負担を被るとともに、福島県と避難先とで二重の家計負担を強いられている。さらに、避難指示区域外からの避難者の場合は、中間指針でも賠償は制限的であるか、賠償の対象として明記されておらず、現状では二重の家計負担の補填が果たされない。避難指示区域外の被災者は、避難指示区域内の被災者への気兼ねなどから、自ら声を上げることをためらう「声なき被害者」としての性格を持ち、その苦難は現状では埋もれかねない。
    センターは、こうした、声を上げること自体をためらう様々な境遇の被災者とも率先して面談して向き合うべきであり、口頭審理を原則開催とし、かつ避難先でこれを開催する運用とされることが望まれる。

5  よって、当会は、センターが十分な人的体制を整備した上で、個別の具体的事案において被災者の納得を得るような和解案の提示を心がけるべきこと、口頭審理を原則として被災者の居住する地域で開催することを関係機関に求める。


2012年(平成24年)9月20日

京  都  弁  護  士  会

会長  吉  川  哲  朗



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