「事前登録型本人通知制度の導入に反対する意見書」(2012年9月20日)


2012年(平成24年)9月20日

京都府知事   山  田  啓  二   殿
福知山市長   松  山  正  治   殿
京 都 府 下 市 町 村 長    各 位

京  都  弁  護  士  会

会長  吉  川  哲  朗



事前登録型本人通知制度の導入に反対する意見書



意見の趣旨


1  京都府下の市町村は、京都府が提案する住民票の写し等の交付に係る事前登録型本人通知制度をはじめとする如何なる内容の事前登録型本人通知制度も導入すべきでない。
2  福知山市は、福知山市住民票の写し等の第三者交付に係る本人通知制度実施要綱(福知山市告示第103号)に基づく事前登録型本人通知制度の実施を中止し、同要綱を廃止すべきである。

意見の理由

(要旨)
  京都府が京都府下の市町村に対して検討案を提案し、福知山市がすでに導入した事前登録型本人通知制度は、戸籍謄本や住民票の写し等の不正取得の抑止・防止を目的としているが、同制度導入による不正取得防止の効果は大いに疑問である一方、同制度導入により、市民が依頼する弁護士・司法書士等の専門家による他方当事者や紛争の相手方の戸籍謄本や住民票の写し等の取得が困難または事実上不可能になる場合が生じ、多くの市民が希求する、遺言、後見、不動産登記、民事保全、交渉・訴訟等の法に基づく正当な権利の円滑な実現が妨げられるため、導入すべきでない。

(詳細)
第1  事前登録型本人通知制度
1  本人通知制度とは
本人通知制度とは、一般に、本人以外の者が戸籍謄本や住民票の写し等(以下「住民票の写し等」という。)を請求したときに、市町村が、その請求があったことを、当該対象となる戸籍に記載された本人に通知する制度をいう。事前登録型本人通知制度は、事前に市町村に登録した者に限り、請求があったことを通知する制度である。
異なるものとして、不正取得本人通知制度とは、不正取得が判明した場合に、市町村がその旨を本人に通知する制度である。これは、京都府によれば、すでに京都府下の全ての市町村において導入されている。
2  京都府の検討案
京都府は、本年8月、当会に対し、「住民票の写し等の交付に係る事前登録型本人通知制度(検討案)の概要」「住民票の写し等の交付に係る事前登録型本人通知制度について(検討案)」の2通の文書を提示し、同2通の文書をもって、京都府下の市町村に対し、その検討案を、事前登録型本人通知制度の導入案として提案していることを明らかにした。
上記文書によると、事前登録型本人通知制度導入の目的は、「平成20年改正住基法等施行後も不正取得事案が後を絶たないため、不正取得を抑止する新たな方策が求められており、不正取得にかかる早期対応を可能にする」とともに、「代理人・第三者請求による住民票の写し等の不正取得による個人の権利利益の侵害の抑止及び防止を図る」こととされている。
また、検討案の内容は、事前に登録をした場合、以下の書類について代理人又は第三者から請求(公用請求を除く。)があったときは、住民票の写し等の交付請求書に被請求者として記載された者に対し、交付年月日、交付種別、請求種別(代理人、第三者)及び交付枚数並びに各市町村個人情報保護条例による交付請求用紙等の開示が可能である旨を、原則として速やかに郵送による通知を行うものとなっている。ただし、例外として、遺言作成事務等密行性の高い事務にかかる請求ついては、請求者が疎明資料を提出し、市町村長が要否を認定することにより、通知を行わないか、又は一定期間後に通知することができるものとされている。
・住民票(除票を含む。)の写し(本籍が記載されたものに限る。)
・住民票記載事項証明書(本籍が記載されたものに限る。)
・戸籍附票(除附票を含む。)の写し
・戸籍謄抄本(除籍を含む。)、戸籍記載事項証明書
事前登録型本人通知制度は、弁護士・司法書士等の専門家から住民票の写し等の請求があった場合、市町村長が認めた例外的な場合を除き、事前登録者に交付の事実等を通知するものである。更に、各市町村の個人情報保護条例を利用すると、請求者名も事前登録者の知るところとなる。また、通知の対象となる請求に、行政機関による請求(公用請求)は含まれていない。
3  福知山市の導入した事前登録型本人通知制度
      福知山市は、本年7月24日、福知山市住民票の写し等の第三者交付に係る本人通知制度実施要綱(福知山市告示第103号)を定め、本年10月1日から事前登録型本人通知制度を実施しようとしている。
      上記要綱によれば、その目的は、住民票の不正請求又は不正取得による個人の権利の侵害の防止とされ、内容は、代理人又は第三者から請求(公用請求を除く。)により住民票の写し等を交付したとき、(1)交付年月日、(2)交付証明書の種別、(3)交付枚数、(4)交付請求者の種別及び(5)その他市長が適当と認める事項を、事前に登録した者に通知するものになっている。なお、登録期間は申請をした日の翌日から3年間とされ、引き続き登録を希望するときは、登録機関の満了日の1か月前から再度申請をしなければならないものとされている。
      福知山市の導入した事前登録型本人通知制度は、京都府の検討案と異なり、弁護士・司法書士等の専門家から遺言作成事務等密行性の高い事務に関する住民票の写し等の請求があった場合についての例外要件すら全く設けられていない。

第2  戸籍・住民基本台帳制度の目的及び職務上請求の必要性
1  戸籍・住民基本台帳
  戸籍とは、戸籍法に基づき、日本国籍を有する者につき、氏名、住所、本籍、生年月日、出生及び死亡、婚姻関係並びに親子関係等に関する事項が記載された、親族法上の身分関係を公証する制度である。
また、住民票の写し等の元となる住民基本台帳とは、住民基本台帳法に基づき、日本に住居を有する者につき、氏名、住所、本籍、世帯主、生年月日、前住所等の事項が記載された、居住関係を公証する制度である。
戸籍及び住民基本台帳に記載される事項は、一般に他人に知られたくない情報を含むが、個人の内面に関わるもの(思想、信条、政治活動歴等)や前科、病歴、信用状態等のような秘匿性の高い情報とまで言うことはできず、人が一定の社会生活を営む上で一定の範囲の他者に対しては開示されることが予定された情報である。
そして、戸籍及び住民基本台帳は家族関係・居住関係等の個人の属性についての公証制度であるから、不動産取引、相続、調停・訴訟等の手続に際して証明が必要な場合に、利害関係人が円滑に利用することができるものでなくては、市民の権利実現が妨げられるおそれがあることに留意しなければならない。
2  行政機関の管理責任
      情報化社会といわれる現代においては、大量の個人情報を収集蓄積し、コンピュータによって処理利用する組織体が市民のプライヴァシー保護にとって最大の脅威となっており、その最たるものが行政機関である。
戸籍及び住民基本台帳についても、国や地方公共団体といった行政機関が情報を大量に収集・処理しており、その情報管理責任が厳しく問われなければならない。たとえば、情報の保管の場面では、行政機関やその職員による不正閲覧、公用請求による不正取得は決して許されるものではないが、他方、情報の提供の場面においては、過度に円滑な提供を妨げることにより、戸籍・住民基本台帳を利用した市民の正当な権利実現を妨げることは許されない。
3  専門家による他方当事者の住民票の写し等の取得
弁護士・司法書士等の専門家は、その職務遂行のため、受任している事件について、必要がある場合は、職務上請求書に必要事項を記載するなど所定の手続を踏み、他方当事者や紛争の相手方の住民票の写し等を取得することができるとされている(以下「職務上請求」という。戸籍法第10条の2第4項、住民基本台帳法第12条の3第2項)。
      この職務上請求は、市民が弁護士・司法書士等の専門家に対し、遺言、後見、不動産登記、民事保全、交渉・訴訟等の手続や事件を依頼した場合、他方当事者や紛争の相手方の戸籍謄本や住民票の写し等を取得する必要があるため、法が特別に認めたものである。もし、このような専門家による職務上請求が認められなければ、遺言の作成、後見の申立て、不動産登記、債権の回収や保全、交渉、訴訟提起等を行うことが不可能もしくは著しく困難になる場合が生じ、結局は弁護士・司法書士等の専門家に依頼して行う市民の権利の実現が妨げられることになる。
すなわち、弁護士・司法書士等の専門家が他方当事者や紛争の相手方の戸籍謄本や住民票の写し等を取得する職務上請求は、市民の法に基づく正当な権利の円滑な実現こそをその目的とするのであり、市民の正当な権利利益の保護のため、職務上請求の円滑な行使が確保されなければならない。
      ところが、事前登録型本人通知制度が導入された場合、弁護士等の専門家が職務上請求により、他方当事者や紛争の相手方の住民票の写し等を取得すると、取得の事実が当該相手方に直ちに知られることになる。そうすると、その事態を避けるため、職務上請求が困難又は事実上不可能になる場合が生じ、結局、多数の市民が希求する、専門家に依頼して行う法に基づく正当な権利の実現が妨げられてしまうのである。
      このような本制度の持つ重大な弊害について、次項で改めて述べる。

第3  事前登録型本人通知制度の弊害
1  事前登録型本人通知制度の一般的な弊害
まず、事前登録型本人通知制度が導入された場合、住民票の写し等の取得を契機として様々な問題が誘発され、市民の正当な権利の行使を阻害する弊害が想定される。
すなわち、例えば、弁護士の行う業務についていえば、多くの場合において相手方に知られることなく作業を進めるいわゆる密行性が求められる。このような密行性の求められる業務について、本人通知が行われた場合には、その密行性は当然に破られてしまい、①相手方が仮差押え、仮処分、強制執行等の執行免脱行為をなし権利の保全や実現が果たされなくなる危険、②遺言書作成の事実を秘密にしたい場合でも相続人らに知られてしまう危険、③訴訟等の準備のための資料収集を察知され訴訟等をしないように圧力をかけられる危険、④相手方からの「住民票等を勝手に見られた」という被害感情や反発を招き円滑な交渉が図れなくなる危険等が招致される。そして、その結果、⑤相手方に住民票の写し等の取得を知られることによる上記危険の招致を恐れて正当な権利行使そのものを控えてしまう事態(萎縮効果)すら招きかねない。
なお、上記弊害に対して、一定の例外を設けて運用することでこれを回避しようとする向きもあるが、そもそも、弁護士は、市民の正当な権利を実現するため、あらゆる法律事務を取り扱っており、その業務範囲は無限定である。そして、前述のように、その業務は、密行性を原則にして遂行されている。したがって、弁護士が遂行する業務の密行性の外延について、限界を画することは極めて困難であり、むしろ、非現実的であると言うべきである。従って、例外を設けて運用することは、そもそも、不可能を強いることであり、当該制度の導入に伴う弊害を除去することはできない。
なお、上記弊害は、弁護士業務において顕著なものであるが、職務上請求が認められている他の士業の場合においても当然に問題となりうることであり、京都府と八士業団体との意見交換でも当会以外からも多数の意見が寄せられている。
そして、国レベルでは、戸籍法等の改正時において、事前登録型本人通知制度における上記のような弊害を払しょくすることができないとの判断に至り、明示的に導入を見送った経緯もあることは周知のとおりである。
2  京都府の検討案の弊害
      京都府の検討案では、上記のような弊害を想定し、本人通知により業務に支障が生じるおそれのある業務を予め類型化した上で、請求者が疎明資料を提出し、市町村長が密行性が高いと判断した場合には、通知を行わない又は一定期間後に通知することを提案し、これにより弊害を回避するとしている。
しかしながら、以下に述べるとおり、京都府の検討案が提案する例外措置は、なんら弊害回避措置たり得ず、むしろ、新たな問題すら惹起するものであり、相当でない。
(1)  市町村長が判断することについて
        まず、検討案では、密行性の高い業務といえるかどうかについて、市町村長が判断するとしている。
しかしながら、前述のとおり、密行性の高い業務を網羅的に予め類型化すること自体不可能なものである。
さりとて、市町村長が、類型化の枠を離れて、個別の事案について、その密行性の有無を個別具体的に検討し判断することも事実上不可能である。けだし、本人以外の者による住民票の写し等の請求は日々大量になされるものである一方、密行性の有無を個別具体的に検討するためには、当該個別の事案について具体的事実関係に踏み込んで検討することが必要となるからである。
しかも、市町村長が、具体的事実関係に踏み込んで密行性の有無を個別具体的に判断しようとすれば、例えば、弁護士による職務上請求についていえば、必然的に、弁護士の秘密保持の権利及び義務(弁護士法第23条)との衝突を生み、弁護士の秘密保持の権利を侵害することになりかねない。
さらに、かかる事態を嫌気して、市民が、住民票の写し等の請求、ひいては、正当な権利行使自体を諦めてしまうことにもなりかねない。
(2)  疎明資料の提出について
次に、検討案では、密行性の有無の判断にあたり、請求者より疎明資料を提出させるものとし、具体的には委任契約書、委任状などの写しの提出を求めることとしている。
        しかしながら、相続問題や離婚の場合など、依頼者が弁護士に依頼していること自体知られたくない場合が多く、委任状等の写しの提出を求めることは依頼の躊躇、ひいては、正当な権利行使自体の躊躇につながる。
そもそも、戸籍法第10条の2第4項及び住民基本台帳法第12条の3第4項第5号括弧書きにおいては、弁護士等が裁判手続又は裁判外における民事上若しくは行政上の紛争処理の手続についての代理業務についてする職務上請求については、依頼者の氏名又は名称を明らかにする必要がないとされているにも関わらず、密行性の有無の判断という法の予定しない目的のために委任契約書や委任状などの写しを提出させるということは、法の趣旨を逸脱し、職務上請求に法律に定める以上の制約を課すものと言わざるを得ない。
しかしながら、このように、住民票の写し等の請求者に疎明資料を提出させることは、まさに、戸籍法及び住民基本台帳法が想定する以上の情報を市町村が取得・集積することに他ならないのであり、このことは、市町村による個人情報の過度の収集として、むしろ、個人情報の適正管理の観点から好ましくない事態である。
(3)  一定期間後に通知することについて
        更に、検討案では、密行性が高いと判断された場合には一定期間後に通知をすることも検討されている。
しかし、遺言書の作成などの場合には、いつまで通知を遅らせるのか、住民票の写し等の請求を受けた時点で、市町村長が判断することは不可能である。
また、通知の時期を遅らせたとしても、紛争が継続している限りは、事前登録型本人通知制度の弊害のほとんどは相変わらず生じうる。
さらに、すでに紛争が一旦解決した事案においても、その後に本人通知がなされることにより、被請求者本人に「住民票等を勝手に見られた」という被害感情や反発を引き起こさせ、紛争の蒸し返しを惹起する危険がある。
  3  福知山市の制度の場合
  上述のとおり、福知山市では、平成24年10月1日より、独自の事前登録型本人通知制度を導入することとなっている。
      同市の事前登録型本人通知制度は、京都府の検討案と異なり、密行性のある業務であるか否かに関わらず、一律に本人通知を行うこととされている。
かかる制度は、本項1で述べた事前登録型本人通知制度の弊害について全く配慮がなされておらず、市民の正当な権利行使を阻害することは明白である。
  4  本人通知制度を市町村がそれぞれ独自に導入することの弊害
市町村がそれぞれ独自に本人通知制度を設計し、区々にそれを導入するとなると、本人以外の者で住民票の写し等を請求しようとする者は、その都度、請求先の市町村が本人通知制度を導入しているか否か、又、どのような内容の本人通知制度を導入しているかの調査を要することになる。
しかしながら、弁護士・司法書士等の専門家を含む一般市民が、全国に1,742も存在する市町村について、それぞれが本人通知制度を導入しているか否か、導入しているとしてどのような内容の制度なのかを的確に把握しておくことは、事実上不可能である。
そのため、現実問題としては、住民票の写し等の請求の各場面において、都度調査を要することになり、その結果権利行使の機を逸してしまったり、本人通知を行わない例外的取扱いに気付かずに本人通知されてしまったりする事態が生じる虞が大きい。
さらに、かかる事態を恐れて、又はかかる調査の煩を嫌気して、住民票の写し等の請求、ひいては、正当な権利行使自体を躊躇してしまう事態すら生じかねない。
この点については、前述の国レベルにおいて戸籍法等の改正時に事前登録型本人通知制度の導入が見送られた際にも、「本人通知制度の導入を検討するとしても法律で扱いを全国一律にするべきである」と指摘されていたところである。
これに対し、京都府においては、京都府下において各市町村が導入する本人通知制度の内容が区々になることがないように検討案を提示するとするものであるが、京都府下の各市町村が京都府の検討案をそのまま採用するかどうかは不明であり、現に、福知山市のように独自の制度を採用する自治体もある。
この問題は、市町村がそれぞれ独自に本人通知制度を制度設計し、導入することに本質的に内在する問題であり、京都府が検討案を提案することにより解決される問題ではないのである。
5  結論
      以上のとおり、事前登録型本人通知制度を採用することで生じる弊害は多大なものであり、これを各自治体が導入することによって市民の正当な権利行使が阻害されることは明らかである。

第4  本制度導入の必要性・手段としての合理性が認めらないこと
  事前登録型本人通知制度は、弁護士・司法書士等の専門家による不正取得の防止を制度導入目的とするが、すでに不正取得防止のために必要な制度が存在し、導入の必要性自体が高いとはいえない上、目的達成のための手段としての合理性も認められない。
1  不正取得防止のための制度
  (1)  刑罰法規による処罰・資格剥奪の制裁
      そもそも、弁護士・司法書士等の専門家が不正に住民票の写し等を取得することは、犯罪であり、戸籍法、住民基本台帳法、刑法等による処罰が予定されている。
そして、それに加え、弁護士法・司法書士法等の士業法に基づく資格の剥奪等の制裁がある。
弁護士・司法書士等の専門家にとっては、資格剥奪は業界における死に等しい制裁であり、そのような危険を冒してまで不正をなすことは極めて稀な例である。
弁護士・司法書士等の専門家は、法の専門家としての自らの使命感に加え、刑罰法規や弁護士法・司法書士法等の士業法の規制によって、不正を防止するための措置が採られている。
  (2)  戸籍法及び住民基本台帳法の平成20年改正
      戸籍法及び住民基本台帳法の改正により、弁護士・司法書士等の専門家が住民票の写し等の職務上付請求を行うに際し、その有する資格、当該業務の種類、依頼者の氏名等所定の事項(ただし受任事件に紛争性があり、弁護士等が代理人として処理する場合は依頼者の氏名、必要とする理由の詳細な記載は不要である。)を明らかにすることが要求され、この改正法が平成20年5月1日から施行された。
      これをふまえ、当会においても不正取得防止のための自主的な規制を強化している。具体的には、弁護士が職務上請求を行う際の申請用紙について、弁護士に対する配布冊数を制限するとともに、配布した申請用紙の番号を管理することにより、どの用紙がどの弁護士の管理下にあったかが調査可能な態勢を整えている。
  (3)  不正取得本人通知制度の導入
また、京都府によれば、すでに京都府下の全市町村において、不正取得本人通知  制度が導入されており、住民票の写し等を不正に取得された場合、取得の事実及び取得者の氏名等が通知されることになっている。
  2  本制度の導入の必要性が高いとはいえないこと
京都府の説明によれば、事前登録型本人通知制度の導入目的は、住民票の写し等の不正取得による個人の権利利益の侵害の抑止及び防止を図るものとされている。
しかしながら、以下に指摘するとおり、戸籍法等の改正法の施行後の経過を踏まえても、事前登録型本人通知制度導入の必要性は高いとはいえないことは明らかである。
(1)  そもそも、住民票の写し等の不正取得により実際に個人の権利利益が侵害されたケースは極めて稀であり、本制度の導入目的の根拠となる十分な立法事実が存在しない。
この点、京都府の検討案には「平成20年改正住基法等施行後も不正取得事案が後を絶たない」と記載されている。しかし、平成20年5月1日の改正住民基本台帳法施行から既に4年以上が経過しているが、現時点では、司法書士等の同一グループの人物による1件の不正取得事例が判明しているのみであり、「後を絶たない」との表現は極めてミスリーディングである。
(2)  しかも、すでに述べたように、不正取得防止のために必要な制度が作られており、事前登録型本人通知制度の導入は、屋上屋を重ねるものである。
(3)  その一方、事前登録型本人通知制度の導入は、住民票の写し等の円滑な取得を阻害するものであるところ、戸籍・住民基本台帳には家族関係、居住関係等の個人の属性を公証する極めて重要な役割があり、住民票の写し等の円滑な取得とその利用により、市民の法に基づく正当な権利の実現に資するという観点が欠落しているといわざるを得ない。
3  上記の導入目的を達成する手段としての合理性が認められないこと
      そればかりか、以下に指摘するとおり、事前登録型本人通知制度は、上記の導入目的を達成するための手段としての合理性も認められない。
(1)  まず、万一不正取得を考えた者がいたとして、請求者の情報が通知されるから不正取得を控えるという関係は、そもそも存在しない。
なぜなら、不正取得はそもそも犯罪であり、資格剥奪のリスクも恐れぬ確信犯的な不正取得者にとっては、事前登録型本人通知制度である本制度が設けられたとしても、被取得者に不正取得だと気づかれないよう偽装するにすぎず、そのような者にとって、本人通知制度はなんら抑止力を持たないからである。
現に、不正取得で従前問題となった事例(上述の司法書士等の同一グループによる不正取得事例)では、職務上請求書を偽造して不正な請求が行われている。
(2) 更に、事前登録型本人通知制度においては、本人通知がされる制度になっているかどうか、実際に通知がされたかどうかは、請求者には分からないこととされている。
そのため、事前登録型本人通知制度を知らない不正取得者にとっては、全く抑止効果を持たないうえ、不正取得を実際に試みた請求者にとっても、本人に通知があったかどうかも分からず、やはり何らの抑止効果も持たない。

第5  結論
以上のとおり、本制度は、市民の権利の円滑な実現にとって、重大な弊害が生じるばかりか、導入の必要性・手段として合理性にも疑問があり、導入されるべきでないとの判断の上、頭書の意見の趣旨記載のとおり意見を述べる。

以  上


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