声明

「生活保護基準の引き下げに反対する会長声明」(2012年11月22日)


  政府は、2012年(平成24年)8月17日、「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」を閣議決定した。そこでは、「特に財政に大きな負担となっている社会保障分野についても、これを聖域視することなく、生活保護の見直しをはじめとして、最大限の効率化を図る。」との方針が強調されている。また、厚生労働省が公表している平成25年度の予算概算要求の主要事項では、「生活保護基準の検証・見直しの具体的内容については、予算編成過程で検討する」とされた。さらに、2012年(平成24年)10月22日に開催された、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会財政制度分科会において、生活保護受給者の生活費が受給していない低所得者を上回る「逆転」状態を是正する必要があるとの意見が相次いだなどとして、来年度以降、物価下落に見合った生活保護基準の引き下げが必要との内容を含む答申を行う見込みとの報道がなされている。

  このように、内閣、厚生労働省及び財務省のいずれも、来年度の生活保護基準引き下げ方針を明示したことからすれば、生活保護法8条に基づき生活保護基準を設定する権限を有する厚生労働大臣が、次年度予算編成過程において生活保護基準の引き下げに着手することが、極めて強く予想される。
しかしそもそも、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の具体化であり、地方税の非課税基準、国民健康保険料・同一部負担金の減免基準、介護保険料・同利用料・障害者自立支援法における利用料の減額基準、公立高校の授業料の減免基準、生活福祉資金の貸付対象基準、就学援助の給付対象基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準にも連動している。生活保護基準の引き下げは社会全体への広範な影響を招くことからすれば、当事者を含む市民各層の意見を十分に聴取したうえで、多角的な検討を行い、慎重に決すべきであることは当然である。

  この点、生活保護基準についてはこれまで、2011年(平成23年)2月以降、社会保障審議会生活保護基準部会において学識経験者らによる専門的かつ多角的な検討が続けられてきた。ところが、2012年(平成24年)10月5日の第10回部会では、厚生労働省により、全世帯を所得の低いほうから高いほうに順に各世帯数が等しくなるように十等分して並べた「所得の十分位階級」のうちのもっとも低いグループである第1・十分位層の消費水準と現行の生活扶助基準額とを比較するという検証手法が「とりまとめ案」の中で提示され、前記「逆転」状態を強調し生活保護基準引き下げの結論に導こうとする姿勢が露骨に示された。同省のかかる「とりまとめ案」は、部会における議論の蓄積を反映させることなく、生活保護基準の引き下げという結論先にありきで低所得層との比較のみに強く誘導しようとするものであり、学識経験者らによる真摯な検討過程をないがしろにするものとさえ言わざるを得ない。
2010年(平成22年)4月9日付けで厚生労働省が公表した「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」によれば、わが国の生活保護の「捕捉率」(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は15.3%~29.6%と推計されている。つまり、生活保護基準を下回る所得しかない世帯のうち実に7割以上が生活保護を利用していないことになる。このように、生活保護基準以下の生活を余儀なくされている「漏給層(制度の利用資格のある者のうち現に利用していない者)」が大量に存在する現状においては、低所得世帯の消費支出が生活保護基準以下となるのは当然のことである。にもかかわらず、低所得世帯の中でも極めて所得の低い第1・十分位層の消費水準との比較を根拠に生活保護基準を引き下げることを許せば、保護基準を際限なく引き下げていくことにつながりかねない。

  格差と貧困が拡大する中、最後のセーフティネットとしての生活保護の重要性は増すばかりであるところ、ナショナルミニマムの崩壊を招きかねない生活保護基準を合理的理由もなく引き下げることは許されない。

  よって、当会は、来年度予算編成過程において生活保護基準を引き下げることについて、反対する。


          2012年(平成24年)11月22日

京  都  弁  護  士  会  

会長  吉  川  哲  朗


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