意見書

京都市都市計画マスタープラン素案に対する意見書についてNo2(2001年9月17日)


 
第1部  はじめに

  「京都市都市計画マスタープラン素案」(以下「マスタープラン素案」という。)は、都市計画
の「目標とする6つの将来像」のなかで、「歴史や文化を継承し優れた景観を保全・創造する京都
のまち」「歩いて楽しい魅力的な京都のまち」「住みやすく個性のある生活圏が息づく京都のまち」
を挙げ、「歴史特性をベースとしたコンパクトで個性的な地域の連合体としての都市構造の形成」
「地域コミュニティの強化」「三山の優れた自然景観を保全するとともに、自然と人工が調和した
優れた景観保全育成」「鉄道を主軸としながら、バス、新たな市街地公共交通システム、自転車な
どの交通手段を有機的に結び付け、歩くまちづくりの特性に応じた快適な市街地公共交通システム
の形成」等を都市計画の基本的考え方として挙げており、これらは的確な視点である。
  しかし、既に、1991年(平成3年)1月21日、京都市は、「地域のコミュニティの希薄化
や都市景観の悪化……など深く憂慮すべき状況が見受けられます。……こうした状況を考えますと
き、大胆かつ、きめの細かい対応策を早急に講じる必要があると考え」「伝統と創造の調和したま
ちづくり推進のための土地利用についての試案」を発表した。この試案を受けて、「京都市土地利
用及び景観対策についてのまちづくり審議会」が設置され、同審議会の1992年(平成4年)4
月9日の第2次答申においては「施策についても早期に実施することが望まれる。」とされている。
しかるに、京都市においては有効な施策は実施されず、住環境及び歴史的景観の破壊が進行するに
任せてきたといわれてもやむを得ない状況であった。そのため、京都市建築審査会は、平成11年
度第1号審査請求事件の裁決書において、「より厳しい規制……の必要を現実とするほどの状況に
立ち至っているとも言えよう。……本件のような建築物を規制できない現状では、京都市の進める
『まちづくり』は、根底から破壊される危機はらんでいると危惧される。……歴史的都市としての
京都市をどのように保存しかつ発展させるかが問われ議論されて、既に相当の時間を経過している。
様々な研究、提言がなされているが現実に効果をあげるには至っていない。京都市民の叡知を結集
して的確な対応、対策を打ち出すべき時期に至っていると考え、これを希望したい。」と指摘し、
京都市の対応を批判した。京都市は、「京都市土地利用及び景観対策についてのまちづくり審議会
の答申〔第1次は1991年(平成3年)11月7日、第2次は1992年(平成4年)4月9日
に答申〕において示された土地利用の基本方針である『調和を基調とする都心再生』の実現に向け、
職住共存地区を中心に、具体的な都市計画施策のあり方について研究及び提言を行うため、京都市
都心部のまちなみ保全・再生に係る審議会を置く。」(京都市都心部のまちなみ保全・再生に係る
審議会設置要綱  第1条)としているが、まちづくり審議会の第2次答申からでも既に9年を経過
しており、住環境及び歴史的景観の破壊が進行してしまっている現在において「研究及び提言を行
う」というのは遅きに失しているというべきである。このような状況の下で策定されたマスタープ
ランであるからには、その内容は、具体的且つ実効のあるものでなくてはならない。
  上記目的を達成するため、現状、法規制の問題点、当会としての提言を以下に述べる。





第2部  都心部のまちづくりについて

第1  京都の中心市街地の現状(主に、中京区、下京区などの中心市街地について)

1.都市としての京都の特徴

  平安京以来の歴史的文化的都市としての京都の特徴は、市街地を三方から取り巻くなだらかな山
並み、鴨川・桂川とその水辺などの自然環境、自然景観と、無数に点在する神社仏閣などの歴史的
建造物及びそれを取り巻く木造の町家建築を中心とする中低層を基本とした碁盤目状の町並みから
なる都市景観が見事に調和しているところにあった。
  また、京都は、140万を越える市民が生活し、産業を営む大都市でもある。しかし、東京や大
阪などとは異って、職住一体・近接の産業構造の下、中心市街地にあっても、多数の市民が暮らし、
小学校の旧学区を中心とした地域コミュニティが残っている。この地域コミュニティは、京都の長
い歴史的過程の中で徐々に形成され、地域の教育・祭礼・文化・産業を育み、支えてきた。このよ
うな地域コミュニティは、都市が発展するにつれて希薄化するともいわれるが、京都においては、
今なお市民の生活の一部として存在している。このような中心市街地における地域コミュニティの
存在も、マスタープラン素案が指摘するように、大都市としての京都が有する、他にはない特徴の
一つである。

2.居住空間としての京都と近時の変化

  京都において、中心市街地に多数の市民が暮らすことを可能にしてきたのは、中心市街地であっ
ても、人々が人間らしい生活を営むことのできる住環境が現在に至るまで維持されてきたからであ
る。そして、この住環境を支えてきたのは、冒頭に述べた木造町家建築を中心とする中低層を基本
とした歴史的都市景観であり、地域コミュニティの存在であった。
  このような自然と共生した歴史的都市景観及び都市構造は、世界に誇るべき価値があるといって
よいものである。しかしながら、その価値ある都市景観、都市構造は、現在重大な危機に瀕してい
る。
(1)高層マンション問題
  まず第一に挙げられる問題は、無秩序な高層マンションの建設に伴う、住環境及び歴史的都市景
観の破壊である。
  この問題は、いわゆるバブル経済期から指摘されてきたものであるが、実際にはバブル経済崩壊
以後の方が深刻である。不況の影響で土地を手放さざるを得なくなった地権者から、大手デベロッ
パーが土地を購入して開発を行うという例が目立つ。
  高層マンションは、これまでの京都の歴史的景観を破壊するだけでなく、通風・日照・風害・圧
迫感・プライバシー侵害など、既存の住民がこれまで享受してきた住環境、日照権等人格権確保と
の関係で深刻な問題を引き起こしている。

(2)地域コミュニティの問題
    第二に挙げられる問題は、地域コミュニティの弱体化である。
  京都の中心部においても、他の大都市ほどの速度ではなかったにせよ、徐々にドーナツ化現象に
より人口が減少する傾向にあった。近年の小学校の統廃合はその一つの現れである。その上に、高
層マンション等の建設に伴う住環境の悪化で、なお一層の人口流出が見られる地区もある。当然の
ことながら、人口の減少は、地域コミュニティの活力をそぐことになる。
  人口の減少、長引く不況、規制緩和による大型店の進出などのために、まちなかの商店街が衰退
するという現象も見られるようになった。まちなかの商店街は、単に消費財を購入する場という役
割だけではなく、地域コミュニティの核という役割も持っている。商店街の衰退は、地域コミュニ
ティの崩壊を招きかねない。
  地域コミュニティの存在は、子供から高齢者まで安心して暮らせるまちという観点からは、なく
てはならないものである。この点で、地域コミュニティも広い意味での住環境を形成する要素であ
る。地域コミュニティの崩壊は、住環境を悪化させ、人々が暮らしにくいまちを生み出すことにつ
ながる。

第2  法規制の問題点

  前述の京都市の中心市街地の現状を前提として、中心市街地の住環境・景観に関わる法令の問題
点を検討する。

1.容積率、建ぺい率の制限

  1990年(平成2年)に新建築技術者集団が行った中心市街地の街区ごとの容積率調査による
と、京都市内の700%の容積率指定の街区で、建物の平均容積率は殆どが100〜150%、4
00%の容積率指定の街区で、建物の平均容積率は100%をやや越える程度であった。2000
年(平成12年)12月8日に設置が決定された「京都市都心部のまちなみ保全・再生に係る審議
会」のリムボン委員が同審議会に提出した意見書によると、「都心部の商業地域の指定容積率は4
00%であるが、実質的な容積消化率は平均すると150%程度である。」とのことである。
  ところが、中心市街地の多くは、建ぺい率60%、容積率200〜300%の商業地域に、また
は建ぺい率80%、容積率200%の近隣商業地域に指定され、高い高度、高容積の建物の建築が
可能であり、低層木造建築物の連なる中心市街地の歴史的町並みと住環境の保全を困難にしている。

2.高度地区

  京都市は、建築物の高さの最高限度等を定める高度地区指定を定めている。これは、低層建築物
が比較的多いという特徴、町並み景観の保全の必要を勘案し、また日照の確保を目的としたもので
ある。この指定区域は、市街化区域のうち、一部の工業系地域を除く約14,000ha、市街化
区域の約92.5%に及び、大都市では唯一、市街地の大部分について高度地区規制を行っている。
指定は、地域性を考慮して、計10種類に細分化されている。
  しかし、高度地区の指定は、用途地域指定と連動しており、中心市街地の殆どが指定対象とされ
ている商業地域で31m(マンションでは11階建まで建築可能)、北側斜線制限がなく且つ幹線
道路沿いは45mである。
  京都市内の市街地の大部分は20m高度地区(同7階建まで建築可能)である。10m高度地区
(同3階建まで建築可能)は、北山通以北か山裾部分に限定されている。1996年(平成8年)
の建築基準法改正で15m高度地域が新設されたが、この適用は同じく北山通以北か山裾部分に限
定されているし、15mでは、5階建相当まで建築が可能であり、土地利用の現状と比較して緩や
かすぎる。
  一方、日照、通風、プライバシー等住環境の保全のためには、前面壁面線指定、敷地背後の斜線
制限、主採光窓に対する後退距離の指定、空き地率指定等の規制が必要であるが、現状は、用途地
域毎の北側斜線制限があるのみである。北側斜線制限も、31m高度地区並びに20m高度地区第
4種にはなく、このことがいっそう、中心市街地における中低層建物の日照等の確保を困難にして
いる。

3.緩和規定

  総合設計制度や特定街区制度により、さらなる高さ、容積率の緩和が認められており、これは、
緩やかな容積率・高度規制をいっそう緩和することになっている。
  地域別構想では、総合設計制度の活用により、民地内のオープンスペースの確保のために、総合
設計制度の活用するとしているが、それでは、容積率・建ぺい率・高さが過大なこととなってしま
う。民地内のオープンスペースの確保のためには、後述のダウンゾーニングによるべきである。

4.住民参加

(1)都市計画法上の住民参加手続
  まちづくりのためには、住民参加が必須であるが、都市計画法は、計画案の縦覧、公聴会の実施
等を定めているのみであり、住民参加手続としては不十分である。1996年(平成8年)の用途
地域の指定替えにあたっても、当該街区の実態や住民の意識と指定との乖離が指摘されている。

(2)地区計画、建築協定等
  マスタープラン素案は、地区計画の活用に言及しているが、地区計画は、対象地域の土地所有者
等の相当多数の合意が必要であるため、合意の形成が難しい、あるいは、計画策定に時間がかかり、
当面の問題に対応できない、計画地域隣接地に効力が及ばない等の問題点がある。
  住民によるまちづくり合意のための制度として、建築協定もある。建築協定にあっても、合意形
成の困難性に加えて、協定不参加者による不適合建物の建築、協定地域の隣接地に効力が及ばない
等の限界がある。そのため、中心市街地における住民合意による建築協定は、笹屋町、釜座町、天
主町、夷町、百足屋町の5地域に止まっている。

(3)まちづくり憲章
  住民合意によりまちづくりを進めようとする動きに、まちづくり憲章の制定があり、1988年
(昭和63年)以来35以上の地域が「まちづくり憲章」を採択した。これは、地域住民が合意の
上で当該地域のまちづくりのあり方について宣言を行い、この理念のもとに建築等を行うことを地
域住民が建築事業者に求めることを目的とし、殆どの場合、4〜5階、最高でも6階までの高さ制
限を宣言している。
    しかし、まちづくり憲章には、法的効力が付与されないという限界がある。

(4)まちづくり支援事業
  市民の目主的なまちづくりを支援する事業として、(財)京都市景観・まちづくりセンターが設
置され、地域共生の土地利用を促進するための、土地所有者と近隣住民の住民合意の調整役として、
一定の成果をあげている。しかし、ディベロッパー取得型のマンション建設計画においては限界が
ある。

5.市街地景観整備条例
  市内約1,804haが市街地景観整備条例が規定する美観地区に指定されている。また、19
96年(平成8年)改正で、対象地域を拡大するとともに、美観地区の種類を5種に細分化し、き
め細やかな規制と誘導を図っている。
  しかし、中心市街地については、美観地区、建造物修景地区の指定に止まっており、規制の内容
が、高さやデザインの誘導等緩やかな規制に止まっている。

第3  提言

  京都市の現状、法規制の問題点を踏まえて、京都市の都市計画につき次のとおり提言する。

1.まちづくりについての基本方針の具体化

  前述のとおり、マスタープランの内容は、具体的且つ実効のあるものではならない。
  マスタープラン素案では、全体構想において「1  都市計画の目標  2  都市計画の基本的な考
え方  3  都市計画の主な方針」が、地域別構想において「区の都市計画の方針  区の都市計画の
課題  区の都市計画の目標」が述べられている。
  マスタープラン素案に記載されている都市計画の目標や方針は、抽象的ではあるが、それ自体結
構なものである。
    全体構想が抽象的であることはやむを得ないであろう。しかし、地域別構想は、具体的且つ
  実効のあるものでなければ、マスタープラン素案に掲げられた目標を実現することはできない。
  しかるに、地域別構想では「…誘導します。」「…促進します。」「…図ります。」「…誘導を
図ります。」「…充実を図ります。」「…推進します。」「…進めます。」などと述べられている
のみで、その内容は全く抽象的であり、このような内容では、どのようにして目標を実現しようと
しているのかは全く明らかではなく、実現されるのか否かさえ心もとない。
  マスタープラン素案の推進方策に記載された内容も抽象的であり、これによっても、目標の実現
策ははっきりしない。
  京都市の現状において、今必要なことは、都市計画の目標の推進策を早急に具体化すべきことで
ある。この観点からは、マスタープラン素案は不十分である。京都市のまちづくりの推進策として
具体化すべき内容は、大幅なダウンゾーニング、用途地域の詳細化、これらの実行に向けての市民
的合意形成の具体化、住民参加の具体策、地域レベルでのまちづくり協議会の設置等である。

2.ダウンゾーニング

(1)京都市の中心市街地は、用途地域は全て「商業地域」になっている。その容積率は、「田の
  字」の幹線道路沿いで700%、田の字の内部地区及び御所南地区で400%という過剰な指定
  になっており、高度地区の制限も同様に45m、31mの過剰な指定になっている。
  これにより、内部地区及び御所南地区においては、建築基準法上の日影規制も適用されないまま
11階建てのマンションが建築可能であり、住環境、町並み、景観の大きな阻害要因となっている。
  したがって、中心市街地における容積率、建築物の高さ制限を大幅に引き下げることは、歴史都
市京都の中心部の住環境と町並み、景観を保全し、再生させるための緊急課題である。

(2)その制度手法については、現行の用途地区指定である「商業地域」を、田の字の幹線道路沿
  いを除き、内部地区及び御所南地区について、その実態に合わせて「近隣商業地域」に指定替え
  をすることが、まず必要である。
  これに伴い、高度地区の制限は20m(マンションでは7階建まで建築可能)となり、あわせて
建築基準法上の日影規制が適用されるようになるため、最低限の住環境が確保できる。
  容積率については、近隣商業地域の指定の範囲で、室町通などの商業中心街区については300
%、その他の生活中心街区については200%に指定する。
  田の字の幹線道路沿いについては、商業地域のままで、現行の過剰容積、高さを是正し、容積率
を600%、高度地区の制限を31mとする。
  マスタープラン素案は、「活力ある産業」に言及しているが、京都市には、高さ45mや31m
を越えるような高層ビルを林立させるような産業需要が存在するとは考えられない。そもそも、京
都の産業にとって、どの程度の床面積が必要であるのかを調査することなしに、実質的な容積消化
率を無視して、高さや容積率を決定してきたことが誤りである。用途地域、容積率、高度地区を上
述のように指定しても、マスタープラン素案が言及する「活力ある産業」には十分であろう。

(3)これらの都市計画の変更とともに、中心市街地全域を美観地区として都市計画決定し、市街
  地景観整備条例により、地域の実情、景観形成の状況に応じて、きめ細かく高さ、形態、意匠な
  どの美観地区基準を定める。
  具体的には、室町通などの商業中心街区については形態、意匠などの美観地区基準を定めるにと
どめるが、生活中心街区については形態、意匠とともに、12mないし15mの高さの基準を定め
る。
    その上で、地域住民の合意形成の状況により、地区計画により、別段の基準を認める。

(4)地域別構想は、地区計画の活用に言及しているが、京都市では地権者の80〜90%の賛同  
がないと地区計画決定を行わない方針のようであり、このような方針の下においては地区計画決
  定がなされることは不可能または極めて困難である。したがって、地区計画だけでまちづくりの
  理念を現実化することはできない。ダウンゾーニングを実施した上で地区計画を活用するのが早
  急にまちづくりの理念を現実化する途である。また、ダウンゾーニングを実施した上で、地域毎
  に、地域に適合した地区計画を活用することがきめ細かなまちづくりに資することとなる。

(5)前述の「京都市土地利用及び景観対策についてのまちづくり審議会」の第2次答申も、「都
  心部における住環境の向上と地域の発展の調和」の箇所において、「現行の高さ、容積率を一旦
  引き下げるとともに良好なまちづくりのため、一定の条件に適合するものについて、高さ、容積
  率を制限内に戻す」として、ダウンゾーニングを実施すべきことを答申している。この答申から
  9年を経過した現在でも、ダウンゾーニングは実施されていない。この答申の後早急にダウンゾ
  ーニングが実施されていれば、近時の無秩序な高層マンションの乱立は防止できていたであろう
  と思われる。

(6)日本弁護士連合会も、1993年(平成5年)10月29日に、京都で開催された人権擁護
  大会において、「まちづくりの改革を求める決議」の中で、「まちづくりの理念を、土地の高度
  利用を重視し経済効率を優先した考え方から、豊かな生活環境の保全と創造を基本とした考え方
  に転換し、容積率や建物の高さ規制、町並みに配慮した建築規制など、土地利用に対する公共的
  コントロールを強化すること。」を提言している。

3.世界遺産条約の都市計画への組み入れ

  1994年(平成6年)12月、ユネスコの世界遺産委員会は、京都地域(宇治、大津の一部を
含む。)の17社寺・城を「世界遺産」として登録することを承認した。
  それには、「推薦遺産」=17社寺・城(1,056ha)とその周辺地域の「推薦遣産緩衝地
帯」(3,579ha)に加え、これらをつなぐ中心市街地を含む京都市域の大部分、総面積23
,200haが、「歴史的環境調整区域」として位置づけられている。これは、神社、仏閣がポイ
ント(点)として指定されたにとどまらず、これらをつなぐ中心市街地を含めた歴史都市京都が包
括的に保全されるべきであることが示されたものと言わなければならない。
  したがって、世界遣産条約の推薦遺産緩衝地帯、歴史的環境調整区域の趣旨をふまえて、歴史都
市京都の包括的保全・再生の方向を示した都市計画が策定される必要がある。
  具体的には、都市部の歴史的環境調整区域の全域について、市街地景観整備条例の美観地区に指
定し(山麓部、郊外住宅地は歴史的風土特別保存地区制度、風致地区制度を活用)、その上で、地
域の特性に応じた詳細計画(高さ、形態、意匠など)を定めていく必要がある。

4.包括的な景観保全の必要

  京都市の中心市街地において、景観の保全を図るためには、単体としての建物の保全だけではな
く、地域全体の保全、さらには、地域の背景景観をも含めた包括的な景観の保全が図られなければ
ならない。そのためには、次のような方法が有効である。

(1)歴史的景観保全修景地区(市街地景観整備条例)の活用
  市街地景観整備条例には、歴史的景観保全修景地区の制度が規定されているが、この制度の指定
を受けている地区の範囲は、あまりにも限定されすぎている。したがって、まず、この指定範囲を
拡大すべきである。

(2)背景景観保全制度の導入
  包括的な景観保全のためには、地域の高度制限、意匠の統一だけでなく、その背景をも含めた景
観の保全が必要である。そのためには、基本的には、歴史的景観保全修景地区の拡大やダウンゾー
ニングで対応すべきであるが、これらの施策にあわせ、倉敷市背景保全条例による背景保全制度と
同様の制度を導入すべきである。

5.町家、歴史的建造物の保全・再生の支援

(1)歴史的意匠建造物(市街地景観整備条例)の活用
    市街地景観整備条例には、歴史的意匠建造物の制度が規定されている。
  歴史的意匠建造物の指定がなされると、当該建造物を移転、除却または外観の変更が原則として
禁止される一方、修理または修景に要する費用の一部を補助できることになっている。この制度の
景観保全における役割は決して少なくないと思われるところから、この制度の積極的な活用が必要
である。

(2)登録制度の活用
  1996年(平成8年)の文化財保護法の一部改正によって、従来の「指定」制度に加えて、新
たに「登録」制度が創設された。「指定」制度が、修理に対する命令または勧告、現状変更の厳し
い制限など、所有権の行使についての制約の多い、いわばハードな制度であるのに対し、「登録」
制度は、登録がなされても、現状変更や所有者の変更について、届出をもって足りるものとし、そ
の保存については、国の指導、助言、勧告がなされるにとどまるなど、ソフトな制度となっている。
さらに、登録すると、家屋の固定資産税の2分の1以内の減税、家屋の改修に必要な資金の低利融
資が行われるなどの財政上の優遇措置がとられることになっている。
  歴史的建造物を生かし、住み続ける権利を保証するという観点からすれば、この登録制度のさら
なる活用を促進するため、広報の充実、財政措置の飛躍的充実等の施策を実施すべきである。

6.「まちづくり憲章」の法的認知

(1)「まちづくり憲章」採択の現状
  地域のマンション建築計画反対運動をきっかけに、1988年(昭和63年)にまちづくり憲章
が採択されてから、今日まで、京都市内において35件以上の「まちづくり憲章」、「まちづくり
宣言」が採択されている。この憲章・宣言は、町内会の総会などの議決によって採択されている。
その内容は、まちづくりの理念を表明するのみのものから、地域内の建築物について具体的な規制
を取り決めているものまでさまざまである。

(2)現行の都市計画制度の問題点と「まちづくり憲章」の役割
  現行の用途地域の指定など都市計画制限がマクロ的な視点から行われているために、必ずしもき
め細かなものとなっておらず、地域によっては、都市計画制限が地域の実情に適合していないこと
がある。まちづくり憲章は、都市計画制限が地域に適合していないために生じたマンション問題を
契機に採択されたものである。したがって、その内容は、必然的に地域の実情を反映したものであ
り、マクロ的な都市計画制限を補完するものとなっている。
  まちづくり憲章は、マンション建築をきっかけに、地域住民が真摯に、当該地域の住環境・町並
みはどうあるべきかを考えて採択されたものである。当該地域にもっとも利害関係のある地域住民
が考えたものであるから、行政が住民参加のまちづくりをすすめる以上は、「まちづくり憲章」を
尊重すべきことは当然である。

(3)「まちづくり憲章」に対する法的効力の付与
  「まちづくり憲章」は、町内会の総会での議決に基づくものであるから、そのままでは法的効力
を有するものではない。
  マスタープラン素案は、市民の自主的なまちづくり活動の支援を謳っているが、そのためには、
まちづくり憲章に法的効力を付与しなければならない。
  1.市街地景観協定の利用とその問題点
  市街地景観整備条例は市街地景観協定について規定している。「まちづくり憲章」に法的効力を
付与する手法として、市街地景観協定を利用することが考えられる。市街地景観協定の効果は、協
定区域内において建築物等の新築等をしようとする場合における市長への届出に止まる。地域の実
情を無視した建築物等を建築しようとする者の多くは地域住民以外の者である。このような者は市
街地景観協定の協定者にはなっていない。したがって、市街地景観協定の効力を協定者以外の者に
及ぼすことが重要なのである。現行の市街地景観協定の市長への届出だけでは全く不十分である。
  「まちづくり憲章」の採択の手続きが必ずしも厳格なものではないにしても、「まちづくり憲章」
の尊重義務、これに適合しない建築物等の新築等の行為については、「まちづくり憲章」に適合す
るように指導、助言、勧告、不適合行為の公表程度の効果は持たせるべきである。
  市街地景観協定は、「市街地景観の整備」を主たる目的としており、中心市街地の住環境・町並
みの保全・再生の目的よりも狭いものとなっている。協定の目的を、より広く、「住環境・町並み
の保全・再生」とすべきである。市街地景観協定は、「土地所有者等」の協定であり、地区内の居
住者や、建築事業者の協定ではない。この点において、必ずしも住民の意思が反映したものとは言
えない。また、市街地景観協定の認定の申請には1号から7号の要件に該当しなければならないな
ど、協定の要件が厳格に過ぎ、住民が容易に利用しづらいものとなっている。協定は住民が締結す
るようにするべきであり、協定の要件も、より緩和すべきである。
  「まちづくり憲章」に対する法的効力を付与するについては、神戸市地区計画及びまちづくり協
定等に関する条例を参考とすべきであろう。
  2.「まちづくり憲章」に対する法的効力付与の要件
      「まちづくり憲章」に法的効力を付与するための要件としては、次のようなことが考えられ
    る。
    A.「まちづくり憲章」が一定のまとまりのある区域内の住民等(区域内の居住者、建築事業
      者及び土地または家屋の所有者)の多数により締結されていること
    b.「まちづくり憲章」に次に掲げる事項が定められていること
        1.  「まちづくり憲章」の名称
        2.  「まちづくり憲章」の対象となる地区の位置及び区域
        3.  対象となる地区のまちづくりの目標、方針その他住み良いまちづくりを推進するた
            め必要な事項(建築物その他の工作物の整備並びに土地の利用に関する基準を定め
            るものを含む)
        4.  「まちづくり憲章」の運営のための組織(締結者の代表者に関する定めを含む)及
            び手続き
        5.  「まちづくり憲章」の変更及び廃止の手続き
    c.「まちづくり憲章」がa.及びb.の要件を備えていることについての市長の認定
  3.「まちづくり憲章」の法的効力の内容
  「まちづくり憲章」の法的効力としては、次のようなことが考えられる。
    A.区域内の住民等(「まちづくり憲章」を締結しない住民を含む)の「まちづくり憲章」の
      尊重義務
    b.区域内において建築物等の新築等の行為をしようとする者の市長及び「まちづくり憲章」
      の締結者の代表者への届出義務
    c.「まちづくり憲章」に適合しない建築物等の新築等の行為に対する、「まちづくり憲章」
      に適合するようにするための、市長の指導、助言及び勧告
    d.C.の指導、助言または勧告に従わない者の氏名及び不適合行為の内容の公表(掛川市
      「生涯学習まちづくり土地条例」は、「まちづくり計画協定」に適合しないと認めたときは
      中止等を助言・勧告することができ、助言・勧告に従わない者の公表を定めている。)
  「まちづくり憲章」に法的効力を付与するために、京都市市街地景観整備条例のなかの市街地景
観協定の部分を改正するか、新しい条例を制定すべきである。

7.建築協定締結の支援

(1)建築協定の機能
  「まちづくり憲章」の効力は、前述のように限定されたものであり、住環境・町並みの保全・再
生のためには、「まちづくり憲章」を法的に認知するだけでは不十分である。住環境の保全のため
の制度としては、ほかに建築協定がある。建築協定の締結を促進することも必要である。

(2)建築協定締結の困難性
  京都市内には50余の建築協定地区があるが、その過半数は1人協定または分譲時に設定された
ものである(建築協定地区の大半は住宅地であり、申心市街地の建築協定は先に述べた5地域に過
ぎない)。このことは、合意協定の締結がいかに困難かを物語っている。建築協定の締結の促進の
ためには、締結に対する行政の援助が必須である。
  建築協定を締結するためには、地域の土地所有者等が話し合って、協定の内容、協定の区域、協
定の期間、協定違反の場合の対処方法、代表者を決めなければならない。協定内容は、必然的に土
地所有権の制限を伴うので、土地所有者等の合意を得ることは極めて困難である。土地所有者等が
地域に居住していなかったり、地域で事業を営んでいないため、土地所有者等が遠方にある場合は、
話し合うことさえ困難である。土地所有者等の合意に至るまでには何度も話し合わなければならな
いが、土地所有者等の各自が仕事があるなかで何度も話し合いの時間を持つことは、非常に負担が
大きい。話し合いのなかでは、建築協定の内容について種々の疑問が述べられ、また、合意に達す
るためには、土地所有者等に対する説得も必要である。土地所有者等が多数の場合は、話し合いの
場所の確保も難しい。
  また、協定内容について合意に達したとしても、建築協定締結のためには、土地所有者等の合意
書への署名・押印と印鑑証明書が必要である。それぞれの土地所有者等に合意書の作成方法を説明
して署名・押印及び印鑑証明書の徴求を要請するためには、多大の労力を必要とする。
  広い協定区域で多数の土地所有者等から合意書への署名・押印・印鑑証明書の添付を求めること
はほとんど不可能に近い。京都市内の合意協定の区画数は最多のものでも300区画に達しない。
このことは、300区画以上の合意を取り付けることは不可能であることを物語っているのではな
かろうか。

(3)建築協定締結への支援
  マスタープラン素案は、市民の自主的なまちづくり活動の支援を謳っている。
  建築協定を自主的なまちづくり活動のための有効な手法と位置づけるのであれば、建築協定締結
に伴うこのような困難を少しでも軽減し、住民が利用しやすいように、行政からの積極的な援助が
必要である。
  具体的には、協定取組費用補助、話し合いの場などへのアドバイザーの派遣、話し合いの場所の
提供、取り組みにおいて必要となる文書の作成・配布等である。
  今後、建築協定を積極的に活用していくためには、京都市内の合意協定締結において困難であっ
た点や援助を必要とする事項を、合意協定区域で調査し、建築協定を活用するために何が必要かを
明確にしなければならない。

(4)建築協定の目的達成のための方策
  建築協定区域内の協定に参加しない土地所有者等の協定を無視した行為や、協定区域に被害を与
える協定区域の隣接地の行為を防止することなくしては、建築協定締結の目的を達することはでき
ない。
  建築協定の目的を達するためには、建築協定の効力を、不参加者や協定区域の隣接地に拡張する
仕組みを策定しなければならない。
  1.地区計画などの利用
  そのような仕組みの例として、不参加者や協定区域の隣接地における、建築協定の尊重義務、建
築協定に適合しない建築物等の新築等の行為については、建築協定に定める「協定違反があった場
合の措置」の程度を越えない範囲において、建築協定に適合するように指導、助言、勧告、不適合
行為の公表などを京都市建築協定条例で定めること、建築協定地域及びその隣接地を区域とする地
区計画を決定することが考えられる。京都市でも、建築協定と地区計画の併用を勧めているところ
でもある。
  2.建築協定委員会の同意(押印)の利用
  現在、建築協定区域内においては、建築物の確認申請を京都市に提出する前に、建築協定地区の
建築協定委員会の同意(押印)が必要とされている。この取り扱いを、行政指導として、建築協定
地区内の建築協定区域隣接地及び建築協定地区の隣接地に及ぼす方法も考えられる。このような取
り扱いを講じたとしても、建築協定委員会の同意のない建築確認申請を留保したり却下したりする
ことはできないが、建築協定を締結している区域に対する配慮を求めるとの趣旨での適法な範囲内
での行政指導は、建築協定の目的を達成するための有力な方法として検討するべきである。

(5)住民に対する建築協定の周知の必要性
  建築協定は、住環境の保全のために有力な制度であるにもかかわらず、京都市内に占める協定区
域の面積は少ない。これは、住民が建築協定制度に必ずしも通暁しているわけではないからである。
建築協定を積極的に活用して「まちづくり」を推進していくのであれば、建築協定を広報するに止
まり、住民からの建築協定の取り組みを待つのみではなく、「まちづくり」に取り組んでいる住民
団体に行政が積極的に働きかけて、建築協定の活用を図らなければならない。住民が高層マンショ
ンによる被害からの救済を最初に求めてくるのは、京都市の建築指導課であろう。そのような場合、
指導課の職員は、住民に対して建築協定の活用を積極的に勧めるべきである。

8.地区計画の活用

(1)地区計画の必要性と有効性
  「まちづくり憲章」に7.記載のような効力を付与したとしても、これのみでは、「まちづくり
憲章」を無視した行為を防止することはできない。建築協定についても、協定区域内の協定に参加
しない土地所有者等の協定を無視した行為を防止することができない。
  また、住民の多くが建築協定の締結を望んでいながら、前述のような困難があるために、建築協
定の締結ができない場合もあろう。
  このような事例に対処するためには、地区計画は有効な方法であり、これを積極的に活用すべき
である。現行の用途地域の指定など都市計画制限がマクロ的な視点から行われているために、必ず
しもきめ細かなものとなっておらず、地域によっては、都市計画制限が地域の実情に適合していな
いことがあるが、そのような場合に地域の実情に適合した規制を実現するためにも、地区計画は有
効である。
  マスタープラン素案においても、地区計画の利用が随所に言及されている。

(2)住民に対する地区計画の周知の必要性
  地区計画を積極的に活用するためには、行政が、7.に記載した「まちづくり憲章」に法的効力
を付与する相談を受けた機会に、また、建築協定締結の相談を受けた機会に、地区計画についても
アドバイスをし、その実現に努めるべきである。建築協定の場合と同様に、地区計画の広報に止ま
り、住民からの地区計画の取り組みを待つのみではなく、「まちづくり」に取り組んでいる住民団
体に行政が積極的に働きかけて、地区計画の活用を図らなければならない。住民が高層マンション
による被害からの救済を求めてきた機会に、建築指導課の職員は、住民に対して地区計画の活用を
積極的に勧めるべきである。

(3)地区計画策定の緊急性
  京都市は、「職住共存地区高度集積地区整備ガイドプラン」により、「地域協働型地区計画」の
策定に取り組んでいるようであるが、その対象地域の住環境が急速に破壊されているのに、地区計
画の策定の進行速度はあまりに遅い。また、このガイドプランは「一律に基準容積率や高さを引き
下げることは、住民合意の面で極めて困難であると考えられる」としているが、京都市がこれまで、
京都市のもつ「まちづくり」の理念を示した上で住民合意の形成の努力を図ってきた事例は極めて
少ない。住民合意に向けての努力を行わずに「住民合意の面で極めて困難である」とはいえない。
今後は、地区住民や住民団体に積極的に働きかけて、住環境保全のための地区計画の策定に早急に
取り組むべきである。そのための職員の増員も図らなければならない。
  マスタープラン素案は、市民の自主的なまちづくり活動の支援を謳い、さらに、地区計画の利用、
地域協働型地区計画の活用に随所で言及している。マスタープラン素案が地区計画を活用しようと
するのであれば、その策定は早急になされなければならない。

9.景観誘導税制

  地方税法6条1項は「地方団体は、公益上その他の事由に因り課税を不適当とする場合において
は、課税をしないことができる。」と規定し、同条2項は「地方団体は、公益上その他の事由に因
り必要がある場合においては、不均一の課税をすることができる。」と規定している。これらの規
定の範疇に関しては慎重な検討を要するが、これらの規定を活用することによる、京都のまちづく
りの理念に合致する建物に対する非課税、まちづくりの理念に合致しない建物に対する課税の強化
等の検討を開始することも考えられる。

















第3部  道路交通体系の整備について

第1  マスタープラン素案の交通政策に関する記述

  マスタープラン素案は、第2部「全体構想」、第1章「都市の動向と都市計画の課題」では、
「地球環境保全や利便性に配慮した、総合的な交通体系の確立。環境負荷の大きい自動車交通需要
の抑制。鉄道やバスなどの公共交通体系の充実と利用促進。歩行者や自転車が安全で快適に移動で
きる都市空間の形成」を挙げ(8頁)、また、第2章「都市計画の目標」として、地域ネットワー
クの形成のために「総合的な交通体系を構築し、公共交通を軸とした交通体系への転換を図ります」
(11頁)と述べている。以上の記述内容は、極めて正当である。そして、第3章「都市計画の方
針、都市の基盤をつくる」では、「歩いて楽しいまちの実現と環境負荷の低減をコンセプトとして、
公共交通の優先を基本に、市民の多様な都市活動を支えるために、鉄道網やバス網等の公共交通機
関の総合的でシームレスな交通体系の整備を進める」(20頁)と述べている点は、前記都市課題
及び都市計画目標の設定からして当然の結論である。
  ところが一方で、広域幹線道路網の整備の促進(京都第二外環状道路、第二京阪道路等)、自動
車専用道路である都市高速道路網の整備促進を掲げている(21頁)。都市高速道路とは、すでに
都市計画決定がされている新十条通、西大路線、堀川線、久世橋線及び油小路線を指すものと思わ
れる。

第2  高速道路建設計画の問題点

1  これらの道路建設は自動車交通需要の抑制政策とは矛盾する政策であって、広域幹線道路・京
  都高速道路5路線が建設された場合、どのような弊害を京都市及び京都市民にもたらすかを考え
  れば、その計画が見直されるべきものである。

2  第一に、道路建設が自動車交通を増加させるという事実である。高速道路について、近畿自動
  車道や阪神高速東大阪線などが供用開始になった1987年(昭和62年)から1994年(平
  成6年)までの間に、渋滞時間は62時間から100時間に増え一層深刻化しているなど、道路
  建設による道路容量の拡大が交通流の円滑化をもたらすのではなく、一層の混雑化をもたらして
  いることが指摘されている。1986年に完成したロンドン外周道路M25は予想を超える自動
  車交通量を担うことになったことから、それを契機として英政府に提出された報告書「幹線道路
  と交通の創出」は、明確に道路建設が交通量を増加させていることを指摘し、これを誘発交通と
  命名している。マスタープラン素案の計画・整備推進すべきとして挙げられている道路の建設を
  推進することは誘発交通を発生させ、なお一層自動車公害を激甚化させ、渋滞、事故を増加させ
  ることは必至である。

3  第二に、広域幹線道路・京都高速道路建設計画は自動車公害を増悪させることになる。198
  0年代を通して、大都市における自動車交通量の増大は、工場排煙型大気汚染から自動車排ガス
  による窒素酸化物・SPM(浮遊粒子状物質)汚染へと変質させ、また、騒音等の公害の外、地
  球温暖化の原因である温室効果ガスのCO2の排出量増大をもたらした。道路建設による自動車
  公害増悪の事実を前に、近年の司法判断も国等の道路公害責任を認める流れを定着させている。
    すなわち、国道43号線訴訟1995年最高裁判決、一定数値以上のSPMの排出差止めを認
  めた尼崎大気汚染公害訴訟一審判決や名古屋南部大気汚染公害訴訟一審判決がそれである。
    京都市における大気汚染物質の環境基準達成状況(平成11年度)を、自動車排ガス測定局に
  ついてみると、二酸化窒素では6局中4局の達成状況に過ぎない。これを、京都市の保全基準に
  照らしてみれば、全局で未達成である(当分の間の保全基準に照らしても達成した測定局は1局
  に過ぎない)。このような劣悪な大気環境に、さらなる悪化をもたらす原因を作るというのは、
  膨大な費用をかけて環境悪化、健康侵害の装置をつくるようなものである。とりわけ、大量の自
  動車を都心に招き入れることになる京都高速道路5路線については、環境負荷の影響が大きいと
  考えられる。
    また、広域幹線道路・京都高速道路建設計画について実施された環境アセスメントでは、SP
  Mについての調査が行なわれていないという致命的な欠陥がある。大気中に漂う微粒子SPMは、
  肺がんなどの呼吸器疾患を引き起こす危険性が高く、急速にその研究が進んでいる現在において
  は、SPMについての評価を欠いたアセスメントは意味をなさないと考えられる。

4  以上から、広域幹線道路・京都高速道路建設計画は見直されるべきである。都市計画決定済み
  の計画であっても、「時のアセスメント」の視点に立って、勇気をもって見直すべきは見直すと
  の決断をするべきである。

第3  提言

  京都市が本当に「歩いて楽しいまちの実現と環境負荷の低減をコンセプトとして、公共交通の優
先を基本に、市民の多様な都市活動を支えるために、鉄道網やバス網等の公共交通機関の総合的で
シームレスな交通体系の整備を進める」(20頁)のであれば、道路建設によって自動車交通を誘
発させるのではなく、自動車乗り入れ規制、パークアンドライド、ロードプライシングなど本当の
意味での自動車交通需要管理政策を導入し、あわせて車線削減のうえ自転車専用道の設置、新型路
面電車の導入など、今や欧米等の成熟都市の多くが取り入れている具体的政策こそが検討されるべ
きである。

                                                                以  上

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