「司法修習生に対する給費制の復活を求める会長声明」(2013年1月24日)


  「多様な人材を法曹界に」という司法改革の理念の下に導入された新しい法曹養成制度では、法科大学院を修了した者に司法試験受験資格が付与され、司法試験合格後、司法修習を経て、法曹資格を得るものと制度設計された。
  ところが、近年、法科大学院進学希望者(すなわち法曹志願者)が激減している。
  法曹志願者の減少は、つまるところ、「多様な人材を法曹界に」という司法改革の理念の実現を困難にするものであり、法曹養成制度ひいてはこの国の司法そのものの崩壊を招きかねない由々しき事態というべきものである。

  かかる事態を招いている重大な原因の一つが、司法修習生に対する給費制の廃止であり、貸与制の導入であることは、疑いようのない事実である。

  そもそも、現代の統一司法修習制度は、戦前の司法制度が国家権力の濫用から人権を十分に保障できていなかった反省に鑑み、人権を守るべき司法権の人的基盤たる法曹を国の責任において養成するという理念のもとに採用されたものである。この理念は、現在の新しい法曹養成制度のもとでも不変である。
  そして、この司法修習にあっては、司法修習生は全国各地の実務修習地へ配属されるうえ、充実した修習効果を実現するため、司法修習生には修習専念義務が課され、兼職が禁止される。すなわち、司法修習生は、1年間の修習期間中、転居費用(昨年の日本弁護士連合会調査によれば、6割の修習生が転居を要し、その費用は平均257,000円)及び生活費(同連合会の調査によれば、住居費負担がない場合で月額138,000円、住居費負担がある場合には月額215,800円)の負担を余儀なくされる一方、収入を得る途は法律上断たれているのである。
  かかる状況を踏まえ、新第64期及び現行第65期までの司法修習生に対しては、これらの支出を賄うため国費から修習資金が支給されていた(給費制)。
  ところが、平成23年の裁判所法改正により、この司法修習生に対する給費制が廃止され、新第65期以降の司法修習生に対しては、上記支出を賄うための資金が貸与されることとなった(貸与制)。

  この貸与制については、昨年7月27日に成立した裁判所法の一部を改正する法律において、「司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から、法曹の養成における司法修習生の修習の位置付けを踏まえつつ、検討が行われるべき」ことが確認されたところである。
  現在の司法修習生は、その半数が大学及び法科大学院時代にすでに多額の奨学金等の負債(同連合会の調査によると数百万円~1千万円)を抱えており、貸与制のもとでは、貸与金の返済負担がこれに追い打ちをかける状況にある。
この点、当会が、昨年2月に行った新第65期司法修習生との懇談会では、「毎日少しずつ借り入れた金銭を費消していることに対して焦る」との声が聞かれ、それ故に「修習に必要な書籍を購入することもためらってしまう」といった実情が吐露された。まさに、貸与制が充実した司法修習の実現を阻害していることの顕著な表れといえ、貸与制が「司法修習生に対する適切な経済的支援」であり得ないことは明らかであるといえる。
  そして、前記の司法修習の理念に鑑みれば、その実現手段として、司法修習生に対する給費制は、必要不可欠な制度的保障であるいうべきである。

  当会は、法曹志願者の激減、司法修習生の実態及び司法修習の理念を踏まえ、有為で多様な人材が経済的事情から法曹の道を断念することがないよう、早急に給費制の復活を求めるとともに、新第65期及び第66期司法修習生に対しても遡及的に適切な措置が採られることを求めるものである。


2013年(平成25年)1月24日

京  都  弁  護  士  会

会長  吉  川  哲  朗



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