「法曹養成制度検討会議・中間的取りまとめ」に関する会長声明」(2013年4月26日)


  政府の法曹養成制度検討会議は、2013年(平成25年)4月12日、「法曹養成制度検討会議・中間的取りまとめ」を公表した。今後、パブリックコメントに付された後に最終的な取りまとめが行われ、これを踏まえて法曹養成制度関係閣僚会議が政府としての措置を決定するものとされている。
  同取りまとめは、法曹有資格者の活動領域、今後の法曹人口、法曹養成制度の在り方という、法曹養成制度及びこれに関連する法曹の在り方に関わる重要事項についての検討結果を取りまとめたものであるが、法曹志願者の減少や司法修習生の就職難など、司法試験合格者数の急増により発生してきた様々な問題に対する処方箋としては、極めて不十分なものであると言わざるを得ない。

  第1に、今後の法曹人口の在り方についてであるが、弁護士人口の大幅な増加にもかかわらず、訴訟事件や法律相談件数は増加しておらず、企業や自治体等における雇用など、法廷以外の分野への法曹資格者の進出の広がりもあまり見られない中、司法修習修了者の就職難が深刻化し、実務経験による技能習得の機会が十分得られない新人弁護士が増えている現状からすれば、「司法試験の年間合格者数3000人という数値目標は現実性を欠く」として事実上撤回したことは当然の帰結と言える。加えて、単に司法試験の年間合格者数3000人という数値目標を事実上撤回するだけでは不十分であって、法曹に対する需要の増加について実証的な検証がなされない中では、これらの状況が改善されない限り、当面の合格者数については適正な状況に至るまで減少させる方針を明確に示すべきである。
  さらに、現状を踏まえるならば、何よりも司法機能の充実とそのための司法基盤の整備、法曹の役割拡大に向けた真摯な取り組みが求められるべきであるが、同取りまとめはその点についての検討が不十分である。
  すなわち、同取りまとめは、この間、弁護士人口だけが増加してきたことに対する問題意識に乏しい。司法試験合格者数を大幅に増やすことの論拠の一つとして、裁判官・検察官の大幅な増員が掲げられていたにもかかわらず、この間、裁判官・検察官の大幅な増員はなされていない。そのため、弁護士のみが大幅に増員する結果となり、「ひずみ」が生じている。家庭裁判所における事件処理の遅滞は利用者の不便を生じさせている状態にあるし、裁判官が不足しているため、本来的には支部が設置されるべき地域にも支部の設置がなされない状態となっている。また、検察官が不足しているため、検察官が常駐していない支部も全国各地に存在している。同取りまとめは、このような観点についての検討がなされていない点で不十分であり、裁判官・検察官の大幅な増員がなされなければならないことを明記すべきである。
  また、日本司法支援センター(法テラス)については、市民にとってより利用しやすいよう、償還の免除要件のさらなる緩和が求められており、併せて、現在低額に抑えられている法テラスにおける報酬基準の見直しも行うべきである。さらに、国選弁護事件の範囲の拡大、全面的国選付添人制度の導入、国選弁護人・国選付添人の報酬の増額など、刑事分野の司法基盤整備も行うべきである。
  これらの司法基盤整備は、司法制度改革において、司法試験合格者数の増加とともに車の両輪とされてきたものであって、これを整備することは国の責務でもある。司法基盤整備を実現するための司法関係予算の大幅な増大と併せて、同取りまとめの中に明記すべきである。
  以上のとおり、かかる司法基盤整備が現時点で何ら現実化できていない以上、単に司法試験の年間合格者数3000人という数値目標を撤回するのみならず、当面の司法試験合格者数については、大幅に減少させる方向性を明確にすべきである。

  第2に、司法修習生に対する経済的支援の在り方については、「より良い法曹養成という観点から、経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないよう」という目的が掲げられてはいるが、あくまで貸与制が前提とされたままとなってしまっている。しかるに、貸与制を前提とした司法修習制度は、司法修習時における債務負担の重圧が法曹を志す者の意欲を減退させ、就職難とも相まって、法曹志願者減少の大きな要因となっている。
  したがって、司法修習生に対する経済的支援については、給費制の復活を明記すべきである。

  第3に、司法試験及び司法修習の制度改革については、司法試験受験回数制限の緩和についての議論が不十分であるし、司法修習の効果を実のあるものとするために修習実務担当者が一致して求めている前期修習の復活を明記すべきである。

  当会は、法曹養成制度検討会議が、これらの諸課題について、司法機能の充実と法曹の役割拡大を図る司法制度改革の理念に基づき、また、今後パブリックコメント等を通じて寄せられる国民各層からの意見を十分に受け止めて更に検討を深め、最終取りまとめにおいては、現在の法曹養成制度等の問題の解決に向けた具体的な施策を提言されることを強く求めるものである。
  また、当会においても、法曹養成制度等の歪みの解消に向けて、引き続き全力を尽くす所存である。

2013年(平成25年)4月26日

京  都  弁  護  士  会

会長   藤  井  正  大


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