「京都府南部地域に地方裁判所及び家庭裁判所支部の新設を求める決議」(2013年5月30日)
京都弁護士会は、最高裁判所に対し、京都府南部地域に地方裁判所支部及び家庭裁判所支部の新設を求めることを決議する。
(決議の理由)
1 最高裁判所は、1990年(平成2年)以降、地家裁支部の「適正配置」の名のもと、多数の地家裁支部を廃止し、他方で僅か2箇所しか支部を設置しなかった。
その後、裁判員裁判や労働審判などの新たな制度が誕生した結果、さらに都市部の裁判所へ司法機能が集中し、全国各地の地家裁支部の司法機能の弱体化がより進んだ。「適正配置」以後、地方における司法機能の充実は全く図られていない状況であり、憲法32条が保障する裁判を受ける権利が、居住する地域によって実質的に平等に保障されず、「法の支配」が日本全国に遍く行き届かない状況にある。
2 地家裁支部が存在しないことにより裁判を受ける権利が十分に保障されていない状況は、京都府南部地域(京都市より南部の地域)においても顕著に現れている。
京都府南部地域には、明治時代以来の沿革において、地家裁支部がこれまで全く設置されていなかった地域である。しかし、京都府南部地域の人口は約57万人にも達しており、京都府全体の人口の約21パーセントに相当する。その中でも京田辺市、木津川市、精華町においては人口がここ10年ほどの間も増加傾向を維持しており、府内全体からみても人口増加地域である。
また、京都府南部地域の経済規模は、2008年度(平成20年度)の京都府の統計によれば、地域内総生産が京都府全体の約18.2パーセントであり、これは京都市と比較しても約3分の1もの規模である。
京都府南部地域に事務所を構える弁護士数も、かつてはゼロであったが、ここ10年の間に10名を超えるまでに増加した。
しかしながら、京都府南部地域の住民にとって、現在の管轄裁判所である京都地方裁判所本庁や京都家庭裁判所本庁へアクセスしようとすると、精華町からは片道55分以上、木津川市からは片道1時間10分以上、最も遠い南山城村からは片道1時間45分以上を要するなど、管轄裁判所へのアクセスは容易ではない。
3 このような地域でありながら、これまで、地家裁支部の新設が検討されたことは一度もなかった。それは、地家裁支部の設置が最高裁判所の権限でなされるものでありながら、これまで最高裁判所が行ってきた地域司法行政において、明治時代以来の沿革に従って既に設置されていた地家裁支部の存在を前提に、どこを減らすか、という考察しかされてこなかったからである。
4 居住する地域にかかわらず、市民には等しく裁判を受ける権利が保障されるべきである。そのような地域司法を実現するために、地域の実情を正確に把握し、把握した実情をもとに検討を加え、必要な司法機能構築のための措置を講ずるという、本来あるべき地域司法行政を行うのが、最高裁判所の役割である。
人口や交通事情の改善といった社会情勢の変化を踏まえつつ、地域司法の実現に向け、真に適正な裁判所機能の配置を行うためには、根本的に、その地域にとって最低限必要な司法機能がどのようなものであるかをまず念頭に置き、その機能を発揮させるためにはどの程度の物的・人的資源が必要であるかを検討し、そのために必要な司法予算を構築するという、地方からの司法構造の見直しが必要である。
5 当会は、京都府南部地域に地家裁支部の新設を求めるべく、2008年(平成20年)11月に「京都府南部地域における地家裁支部設置推進対策本部」を設け、以後、京都府南部地域においてシンポジウムを開催し、地元の諸団体や議員等との懇談を重ね、全国各地における司法機能の実情について調査をし、また、パンフレットを作成するなどして地元住民に地家裁支部の必要性を説くなどの活動に取り組んできた。
今後も、地家裁支部の新設が成就されるまで、京都府南部地域の住民と綿密に連携し、粘り強く活動を継続していく所存である。
6 京都府南部をはじめとする、全国各地の司法機能が十分に行き届いていない地域に地家裁支部を新設し、地域司法の充実を図ることは、法の支配を遍く広めるために不可欠である。その結果、司法制度への市民の信頼が高まり、「安心安全なまちづくり」の実現へ大きく寄与することにもなる。さらには、市民がより容易に利用できるとともに、公正かつ適正な手続の下、より迅速、適切かつ実効的にその使命を果たすことができる司法制度を構築するという司法改革の目的にも合致する。
よって、当会は、上記のとおり決議する。