意見書

小規模個人再生/給与所得者等再生手続要綱に関する意見書(2000年10月27日)



第一  はじめに


   個人の生活再建のための新しい制度が、民事再生法の特則として制定されようとしている。既に、本年9月8日に開催された法制審議会総会で「個人債務者の民事再生手続に関する要綱」(以下、「要綱」と言う)として決定され、法務省サイドは本年秋の臨時国会に法案を提出し、2001年4月1日施行を目指していると伝えられている。

   本手続きの制定は、自己破産申立件数が1999年には12万件を超え、潜在的・予備的破産者やその一歩手前という層を含めると150万人以上とも言われる膨大な多重債務者層が生まれる中で、今まで、破産か任意整理(調停含む)しか事実上選択肢が無かった多重債務者の生活再建にとって、画期的な意味をもつものであり、かねてから弁護士会としても個人の生活再建を容易にする制度の制定を求めてきたところである。

   それだけに、その内容については、多重債務者の生活再建を図るため、できるだけ利用し易い制度であることが求められている。   既に、大綱に対する意見照会の段階で当会としても意見を出しているが(1998年3月)、今般、いよいよ法案が国会に提出されるという時期を迎えるにあたって、法案要綱の問題点について重要と思われる点にしぼって、意見を述べる。

   なお、本意見書は、法案の早期成立には賛成の立場を表明するとともに、指摘の問題点については、修正を求める趣旨である。

第二  要綱案の主たる問題点と意見



  1. 小規模個人再生における債権者の同意要件について



    1.    1998年3月の当会の意見も、日弁連の意見も、債権者の同意は再生計画認可の要件として不要であるとしていた。

         ところが、今回の要綱では、小規模個人再生手続についてのみではあるが、再生計画認可に際して、債権者の頭数かつ債権額の過半数が不同意の意思を表明しないことが再生計画認可の絶対的な要件とされている。

         しかしながら、たとえ消極的な形をとるにせよ、要綱のように、再生計画認可の要件として、債権者の同意を必ず必要とするという制度には、賛成できない。


    2.    今回、どうして小規模個人再生手続についてのみ債権者の同意を認可要件としたのかについて確たる説明はないが、おそらく以下のような理由によるものと思われる。

         すなわち、(1)給与所得者等再生手続においては、給与所得者は予想される将来収入(弁済原資)がはっきりわかるため、再生計画を認可するにあたって必ずしも債権者の同意までは必要ないが、他方それ以外の自営業者・歩合制等の者の場合は将来の収入が必ずしも明らかにるとは限らないため、給与所得者と対比した場合、債権者の意向をより聴く必要がある。(2)そうすると、再生手続の「本則」である民事再生法では、債権者の過半数の積極的な同意が認可要件とされているので、それとのバランスを図る上で、不同意の意思が過半数に満たなければ認可するというように消極的に債権者の意思を反映させた。


    3.    しかしながら、そもそも倒産企業の再生と個人消費者及び零細自営業者の再生を同列に捉えて債権者の同意を確保しなければならないという出発点自体が間違っている。

      すなわち、民事再生法が想定している企業再生の場合、継続的な取引関係のもとで生じた債務を支払えなくなった企業が、今後も従前からの取引先の協力を得ながら再生を図ることをモデルとしているであるから、債権者である従前からの取引先が納得してくれるかどうかが焦点であり、債権者過半数の同意が要件とされることはむしろ当然のことである。

         これに対し、個人再生の場合には、主に貸金業者や信販会社などに対する過重な負担にあえいでいる多重債務者の生活を再建しつつ、債権者に対する弁済をどのように図っていくかが問題なのであるから、生活再建という視点が何よりも重視されなければならない。

         このように、同じく「再生」といっても、両者は理念を異にした全く別個の制度なのであるから、民事  再生法を「本則」とみて債権者の同意を必要と考えることはおかしい。

         ことに、給与所得者等再生手続の場合には債権者の同意が不要であるとしつつ、小規模個人再生手続に限って(消極的な形を取るにせよ)債権者の同意が必要であるとするのは、「足して2で割る」といった理念なき妥協の産物であるとのそしりを免れないものといわざるを得ない。

         給与所得者等再生手続の場合には、債権者の意向を伺う機会として、不認可要件の存否などについて意見を聴く機会が与えられており、かつそれで十分であるとされているのであるから、小規模個人再生手続においても、これと同様の制度を確保すれば足りるはずである。


    4.    百歩譲って、小規模個人再生手続において債権者の同意を認可の要件とせざるを得ないとしても、要綱によれば、債権者の頭数かつ債権額の過半数の不同意があれば機械的に不認可とされてしまうが、この制度設計は問題である。

         すなわち、要綱によれば、債権者は不同意の意思を表明する際に不同意とした理由を明らかにする必要がない。この制度のもとでは、債権者が当該事案の内容に関わらず、単なる嫌がらせ目的で不同意の意思を表明しても、それが過半数に達すれば、それを阻止する手段が制度上存在しない。

         また、具体的な個人再生手続においては、多くの場合、多数の貸金業者や信販会社が債権者となることが予想されるが、これらの業界において、個別の多重債務者の事情を十分配慮せずに何%の弁済がない限り一律に不同意とするとの統一基準が設定され、小規模個人再生手続がその基準に拘束されてしまうという懸念を払拭することができない。このような事態が生ずれば、債権者の同意を要件としていない給与所得者等再生手続との均衡もはかれなくなってしまう。

         これらのいわば「不同意の濫用」の弊害を防止するためには、債権者過半数の(消極的な)同意がない場合であっても、個別事情を斟酌して再生計画を認可することができる制度設計にしておくべきである。

         具体的には、債権者の過半数の不同意がある場合であっても、状況によって裁判所に再生計画の認可を認める裁量権限を与えるべきである。



  2. 再生債権総額の上限の問題について


       個人債務者の生活再建の新たな手続きは、(1)個人事業者などを対象とする「小規模個人再生」と(2)主にサラリーマンを対象とする「給与所得者等再生」の二種類の手続きが設けられることになっている。

       この手続きの要件としては、住宅ローン等の担保付債務を除く債務総額が3,000万円以下で、将来ある程度の収入を見込めることが掲げられている。

       しかし、個人事業者においては債務総額が3,000万円を超えることは少なくなく、むしろ通常とさえいえる。そのため、個人事業者の大半が「小規模個人再生」の手続きを利用できないことになる。制度的には確かに民事再生法による本則の再生手続が利用可能である。しかしながら、民事再生法の本則手続きを利用するには300万円程度以上の予納金の納付が実務上必要であり、事実上民事再生法による本則の再生手続を零細個人事業者が利用することは不可能に近い。零細個人事業者が「小規模個人再生」手続きを利用できるように、債務総額を少なくとも「5,000万円以下」程度にすべきである。

       また、サラリーマンでも、住宅ローン等の担保付債務を除く債務総額が3,000万円 を超えることは決してまれではない。サラリーマンが、「給与所得者等再生」手続きを利用できるように、債務総額を少なくとも「5,000万円以下」程度にすべきである。


  3. 最低弁済基準の問題について


       小規模個人再生手続においては、計画返済額の最低基準が定められている。

       右額についての日弁連案は最低70万円以上で、弁済額の債権額に対する割合については、制限を設けないとするものであった。

       ところが、要綱では、最低返済額が100万円以上で、かつ、基準債権額の5分の1以上(但し、上限は300万円)の最低弁済基準が定められている。この問題は、二の問題が利用者層の負債における上限を画する問題であるのに対し、利用者層の所得における下限を画する問題である。本制度は、できるだけ広く低所得者層に利用できるようにすべきである。特に、何とか破産を避けたいと希望する低所得者層には、広く利用できる制度設計にしておくことが、重要であると考える。

       殊に、連帯保証債務の場合を考えると、例えば次のケースの場合、せっかくの本制度が利用できなくなるおそれがある。従って、少なくとも基準債権額の5分の1以上との制限は不要であり、仮に割合による制限を入れるとしても10分の1以上とすべきである。

       (例)「A子さんは、離婚後保険外務員をして小学生と保育園の2人の子供を育てている。子供に手をとられるため、収入は安定しておらず、給与所得者等再生手続の要件を満たさない。

       商売をしていた離婚した夫は、当初離婚の際に約束していた養育費も支払わなくな り、倒産状態になったようで、A子さんが連帯保証人になっていた分の支払もしなくなったため、サラ金や信用保証協会などの債権者から合計1000万円を超える連帯保証債務の支払を求められている。

       破産すると保険外務員の資格を喪失するため、破産だけは避けたい。何とか分割で一部支払って解決することは出来ないか。

       子供に手がかかるため、収入は月20万までであり、家賃や生活費、養育費等を差引くと月々2万円以上の返済はできるが、3万円は無理である。」

       このようなケースの場合、計画返済期間を5年まで延長できるため、総額100万円以上という要件だけであれば満たすことは可能であるが、基準債権額の5分の1以上という要件が加わると、到底利用できなくなってしまう。

       上記例のように破産に伴う資格喪失が伴なうケースはもちろん、そうでないケースにおいても、やはり我国における多重債務者はできれば破産は避けたいと考えているのが大多数である。

       本手続きの利用は、破産と比較して多くの返済がなされることが前提となっているのであるから、この場面で本制度の利用ができないと、制度的には破産しかないことを考慮すると、本制度では少なくとも破産の場合以上の返済額が確保されるのであるから、債権者の利益をもふまえて考えるとしても、やはりこの場面では本制度の門戸を広げることを考えるべきである。


  4. ハードシップ免責の要件について


       要綱によればハードシップ免責の前提要件として、基準債権の4分の3以上の弁済を終えていることが条件とされている。

       ところで、要綱によれば最低弁済基準は基準債権額の5分の1または100万円のいずれか多い額(上限は300万円)である。但し基準債権額が100万円未満の場合には、基準債権額全額が弁済額となる。

       従って、基準債権額が100万円以上500万円未満の場合、最低弁済額は一律に100万円となる。また基準債権額が100万円未満の場合には、基準債権額がそのまま最低弁済額となる。

       つまり基準債権額が少額であればあるほど基準債権額に対する最低弁済額の割合が高くなる。ところで基準債権額が比較的低額であっても個人再生手続きを申し立て、それが認可されるのは、低所得世帯あるいは所得が相当額あっても必要生活費が大きいが故、支払いが困難な世帯である。これらの層では認可決定により返済総額が多少減少するが、返済負担が大きいことに変わりはない。このように最低弁済基準自体が高負担である層では、所得が減少すると直ちに弁済に影響が生じる。真面目に弁済していても、ひとたび事故や病気などの所得喪失原因が生じると、「4分の3」という基準を満たすのは極めて厳しいと考えられる。従って機械的に「4分の3以上」という基準をあてはめるのは厳格にすぎる。

       このように「4分の3以上」という要件が満たされない場合でも、種々の原因・事情がみられる。破産免責手続きにおいて裁量免責の制度が認められているように、個人再生手続きにおいても事情変更による柔軟な対応を可能にするために上記の基準に対して但し書きを付加して、「4分の3以上」という基準を満たさなかったとしても裁判所の裁量による免責を認める制度設計にすべきである。


  5. 給与所得者等再生手続の利用制限規定について


       要綱は、給与所得者再生手続を申し立てた債務者が過去10年以内に、同手続による認可決定や破産法、小規模個人再生手続による免責決定を得ていたときは、同手続の利用を許さず、小規模個人再生手続に切り替えさせることとしている。

       これは同手続きが小規模個人再生手続と異なり債権者の同意要件なしに計画認可決定を得れることからその安易な利用に制限を加える趣旨のようである。

       しかしこのような規定を置くと小規模個人再生手続で債権者の同意を取り付けられる見込みがなければ破産しか方法が無くなるが、10年以内の再破産は免責不許可事由に該当し、免責は実際上困難であり、「破産せずに生活再建の道を開く、債権者にとっても破産よりは有利になる」との趣旨で本手続を創設した意味が減じられてしまう。

       そもそも小規模個人再生手続において債権者の同意要件を入れたのは、自営業者においては、弁済額の機械的算出が困難であるからその相当性判断のために債権者の意向をきくことにしたのである。給与所得者においては弁済額が機械的に算出されるから債権者の同意要件は必要がない。今回の要綱のように10年以内は給与所得者に対して給与所得者再生手続の再利用を許さず小規模個人再生手続の利用を強制することは小規模個人再生手続とは別個に、同意要件を外した給与所得者再生手続を設けた趣旨にも反する。従って、少なくとも長期間の利用制限規定は削除すべきである。


  6. 届け出債権の利息制限法引き直し問題(再生委員の選任と権限問題)について



    1. 要綱では、利息制限法の上限利率を超える利息分と再生債権の取扱いとの関係を正面から定める規定がおかれていない。しかし再生債権は、債権の適正をはかる上からも、債権者間の公平な取扱いを貫くためにも、利息制限法の上限を超える部分が除かれるべきであり、このことを明示する条項を設けるべきである。]
    2. 上記の条項を設けないときは、少なくとも個人再生委員の権限として、次の趣旨の文言を付加すべきである。

      「個人再生委員は、再生債務者の提出した債権額を職権で調査した上修正しこれを裁判所に報告しなければならない。」

      要綱は、債務者に債権額につき異議を述べることがある旨記載できることとしているものの、他方この旨の記載を欠くときには異議を述べることが出来ないとしている。

      債務者がこれによって受ける不利益を是正すると共に債権の適正をはかり、あわせて貸金業者債権者と一般個人債権者間の公平な取扱いを貫くため、上記文言のように再生委員に利息制限法引きなおし計算についての権限行使を義務づけるべきである。



2000年(平成12年)10月27日

京都弁護士会 会長  三    浦    正    毅

執行先

内閣総理大臣  森  喜朗殿

法務大臣  保岡興治殿

大蔵大臣  宮澤喜一殿

金融再生委員会委員長  相沢英之殿

金融庁長官  日野正晴殿

衆議院議長  綿貫民輔殿

参議院議長  斎藤十朗殿

衆議院法務委員会委員長  長勢甚遠殿

参議院法務委員会委員長  風間  昶殿

各政党

京都の国会議員事務所

日弁連会長

日弁連消費者問題対策委員会

日弁連倒産法改正問題検討委員会

近弁連消費者保護委員会

各単位会




以上

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