「水俣病の認定基準に関する会長声明」(2013年7月25日)


1  2013年(平成25年)4月16日、最高裁判所は、水俣病患者が公害健康被害の補償等に関する法律(以下「公健法」という。)に基づき水俣病の認定を求めた申請に対し熊本県知事が申請棄却処分をした2つの事件について、水俣病患者の訴えを認める判決を言い渡した。
すなわち、水俣病患者の訴えを認め、熊本県知事がなした申請棄却処分を取り消し、熊本県に申請者を水俣病として認定することを義務づけた福岡高裁判決についてはこれを維持し、他方で、水俣病患者の訴えを認めなかった大阪高裁判決についてはこれを破棄し、審理を大阪高裁に差し戻した(以下2つの判決を「本最高裁判決」という。)。

2  本最高裁判決は、水俣病の認定について、「客観的事象としての水俣病のり患の有無という現在または過去の確定した客観的事実を確認する行為であって、この点に関する処分行政庁の判断は、その裁量に委ねられるべき性質のものでない」とした上で、「申請者につき水俣病のり患の有無を個別具体的に判断すべきものと解するのが相当である」とし、「後天性水俣病の判断条件について」と題する通知(昭和52年環保業第262号環境庁企画調整局環境保健部長通知)において示された判断条件(以下この判断条件を「昭和52年判断条件」という。)の定める各症候の組合せが認められない水俣病患者についても、公健法に規定される水俣病として認定される場合があることを示したものである。
    本最高裁判決は、水俣病関西訴訟最高裁判決(2009年(平成16年)10月15日)に引き続き、国の誤った判断基準によって切り捨ててきた水俣病患者を救済する道を開くものである。

3  ところが、2013年(平成25年)4月18日、環境省事務次官は記者会見において「認定基準を変える必要はない」旨述べ、また、翌19日には、環境大臣も記者会見において、「認定基準そのものを否定しているわけではないという解釈だと思っています。その結果として、見直しは考えていない」旨述べ、今後の水俣病の認定について、従来の認定基準を改める必要がないとの姿勢を明らかにした。
このような環境省の姿勢は、国の判断基準に基づく処分が誤りであったとの判断をした司法判断を軽視し、法の支配の精神や三権分立を定める日本国憲法の精神にも反するものであり、到底許されるものではない。

4  水俣病は、公式に確認されてからすでに57年もの年月が経過した未曾有の人権問題である。当会も、1990年(平成2年)11月10日の総会において、水俣病和解勧告関連決議として水俣病の全面的救済を求める決議を行うなどしてきたが、いまだに全面的な解決に至っていない。
国は、司法判断を真摯に受けとめ、「昭和52年判断条件」により本来水俣病として認定されるべき患者が認定されず、救済がなされてこなかったことの誤りを率直に認めるべきである。そして、水俣病問題の全面的な解決を図るため、いまこそ、「昭和52年判断条件」そのものを抜本的に見直し、感覚障害等一症候のみであっても、患者の居住歴や魚介類の摂取状況、家族の認定の有無等総合的に考慮して、水俣病と認定するという基準に改めるべきである。
当会は、国及び水俣病認定の法定受託事務を担う熊本県、鹿児島県及び新潟県に対し、認定基準の抜本的見直しと、本最高裁判決を踏まえた認定業務の運用により、すべての水俣病患者を救済するよう強く求めるとともに、水俣病問題の全面的解決、すべての水俣病患者の救済に向けて今後も全力を尽くす所存である。


2013年(平成25年)7月25日

京  都  弁  護  士  会

会長  藤  井  正  大

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