「司法修習費用給費制の復活を求める会長声明」(2013年8月29日)


1  政府の法曹養成制度検討会議(以下「検討会議」という。)は、2013年(平成25年)6月26日、関係閣僚会議に提出する「取りまとめ」を公表した。また、政府は、同年7月16日、検討会議の意見等を踏まえ、「法曹養成制度改革の推進について」と題する法曹養成制度関係閣僚会議決定(以下「関係閣僚会議決定」という。)を公表した。
関係閣僚会議決定では、司法修習生に対する経済的支援の在り方について、司法修習費用を貸与制とする前提の検討会議の取りまとめの内容をそのまま是認した。
また、この取りまとめでは、司法修習生に対する具体的な経済的支援施策として、貸与制を前提とした上で、可能な限り第67期司法修習生(本年11月修習開始)から、次の措置を実施すべきであると提言している。
(1)分野別実務修習の開始に当たり現居住地から実務修習地への転居を要する者本人(関係閣僚会議決定においては、「本人」が削除されている)について、旅費法に準じて移転料を支給する(実務修習地に関する希望の有無を問わない。)。
(2)集合修習期間中、司法研修所への入寮を希望する者のうち、通所圏内に住居を有しない者については、入寮できるようにする。
(3)司法修習生の兼業の許可について、法の定める修習専念義務を前提に、その趣旨や司法修習の現状を踏まえ、司法修習生の中立公正性や品位を損なわないなど司法修習に支障を生じない範囲において従来の運用を緩和する。具体的には、司法修習生が休日等を用いて行う法科大学院における学生指導をはじめとする教育活動により収入を得ることを認めることとする。

2  しかし、取りまとめ及び関係閣僚会議決定は、そもそも貸与制を前提としている点で不当である。
本来、司法修習生は、進路が不明な法科大学院生と異なり、司法試験合格者から法曹になることを前提に最高裁に採用された者であり、将来、三権分立の一角たる司法の人的インフラを担うことが予定されている。しかも、それは、将来、弁護士が裁判官、検察官の給源になるとの法曹一元の理念(現在、弁護士任官の形で具体化)に支えられている。そのため、司法修習生はアルバイト等の兼業が禁止され、修習期間は修習に専念する義務を負うことが当然とされていた。その代わりとして、修習生の生活の基盤を確保し、身分を安定させるため給与が支給されてきた。
これにより、①司法修習生は経済的理由にかかわらず、修習に専念することができ、法曹の質の向上に大いに資することとなった。②また、国から給与をもらうことで、修習生は「法曹三者」が国民のための公共的な仕事であることを自覚し、「自分たちは、今後、国の司法制度の一翼を担っていくのだ。」という使命の自覚と高い公共心を醸成する機会が得られた。③さらに、裁判官や検察官になる者だけでなく弁護士になる者についても、全く同じ待遇で平等に給与を支給することは、法曹一元実現に向けての契機になってきたとともに、法曹三者の一体感を醸成し、裁判官、検察官になる者が過度に特権的・官僚的性格を持つことを防ぎ、司法の独立を保つ上で効果があった。
すなわち、司法修習は司法制度を担う法曹を育成するための国の根幹をなす制度であり、給費制はそれを経済的に裏付ける重要な制度なのである。司法修習生の生活費の問題といった単なる個人的利益を図るものではなく、司法修習の実を上げ、社会の人的インフラを整備するという公共の目的のため、給費制が存在していたのである。
したがって、司法修習費用を私費負担とさせるべきものではない。

3  しかも、検討会議は、約1か月にわたってパブリックコメントを公募したが、3119通もの意見が寄せられ、うち法曹養成課程における経済的支援に関する意見数は2421通にのぼり、その大多数が「司法修習生に対する給費制を復活させるべきである」との内容であった。
しかしながら、検討会議では、給費制復活を求める大多数の意見が無視され、同時にパブリックコメントを考慮しない形で取りまとめ案が提出された。そして、従前どおり貸与制を前提とする取りまとめが公表されたのである。このような同検討会議の態度は、司法修習の意義を理解せず、公募されたパブリックコメントをないがしろにするものであり、極めて不当である。
そして、検討会議においては、このような大多数の給費制復活の意見を一顧だにせず、貸与制ありきの結論を前提として、旅費の支給や研修所への入寮配慮、修習専念義務の緩和といった付け焼き刃の施策を論じるにとどまっている。もっとも、研修所への入寮については、入寮希望者が入寮できない場合もあるようである。
旅費の支給だけでは抜本的対策としては不十分であるし、研修所への入寮配慮についても既に行われてきたことである。また、修習専念義務の緩和は、司法修習の期間が短期化され、充実した修習を行うことが困難となっている現状に照らせば、司法修習の質をより低下させることにつながり、法曹養成の改善策としては本末転倒のものである。
このような検討結果は、検討会議が司法修習生を取り巻く環境の実情や司法修習・給費制の意義について真に理解しているのか疑問と言わざるを得ない。

4  当会は、貸与制を前提とした取りまとめ及び取りまとめの内容を是認した関係閣僚会議決定に抗議するとともに、公募されたパブリックコメントを速やかに公表することを求める。また、貸与制は、「給費制は国民の理解が得られない」という理由で導入されたのである。今になって給費制を求めるパブリックコメントを無視することは妥当ではない。政府がパブリックコメントの結果を尊重し、司法修習生費用の給費制を復活するよう強く求める次第である。

2013年(平成25年)8月29日


京  都  弁  護  士  会

会長  藤  井  正  大



関連情報