「弁護士法72条問題に関する基本指針(案)」に対する意見書(2000年8月22日)


2000年(平成12年)8月22日

日本弁護士連合会

会  長    久保井  一  匡  殿

京都弁護士会

会  長    三  浦  正  毅









  1. 基本的立場



    1. 当会は、72条問題について、平成11年10月14日付け「司法改革に関する意見書」において、すでに次の趣旨の意見を述べた。




      1. 弁護士法72条の理念は維持、尊重されるべきである。
      2. 司法書士等の隣接他士業に簡易裁判所の訴訟代理権を付与することは認められるべきではない。もし仮にこれを認めるものとする場合は、少なくとも簡易裁判所判事登用試験と同等の試験を行うこと及び自治権が与えられることを要件とすべきである。
      3. 隣接他士業がそれぞれの専門業務を行うにあたって、それに付随する限度で法律相談を行うことは認められるが、その範囲を越えて法律相談を行う権限を付与することは認められるべきではない。


    2. また、同意見書において、弁護士偏在問題(地域的偏在・事件的偏在)について、次の趣旨の意見を述べている。




      1. 弁護士が法律事務の取扱等を専有する以上、弁護士の偏在を解決する責務があり今こそ解決のため具体的方策を実行しなければならない。また今こそ、そのための絶好の機会である。
      2. 弁護士の地域的偏在を解消するためには、その前提条件として弁護士人口を適正規模に増加すること、くわえて弁護士会が中心となって過疎地に公設事務所を開設すること等が必要である。
      3. 弁護士の事件的偏在を解消するためには、弁護士会に少額事件センター、消費者・サラ金被害救済センターを設置、充実させること等が必要である。


    3. 当会の上記意見は、基本的に改める必要は認められない。

      (なお、知的所有権など特殊専門的分野については、上記弁護士人口の増加と、弁護士と隣接専門他士業との協同化を推進することにより対処すべきである。)



  2. 「基本指針(案)」に対する意見



    1. 確認事項1について




      1. 基本的に賛成である。
      2. 但し、「法律事務は、本来的に弁護士が行うべきである」との点は誤解を生むおそれがあり、「弁護士法72条の理念は維持、尊重されるべきである」と改めるべきである。
      3. 弁護士人口の適正な増加に関しては、法律事務等を弁護士が担うためにはどの位の弁護士人口が必要か等との観点から、弁護士会としての具体的意見を述べるべきである。
      4. 弁護士の地域的偏在については、過疎地問題と密接に結びついており、弁護士人口の適正な増加だけではなく、総合的な過疎地対策の観点からの検討が不可欠である。たとえば医療の分野においては、過疎地活性化特別措置法により僻地医療事業が展開されているが、弁護士の地域的偏在問題についても同様に、国又は自治体が積極的にその責任をはたすことが必要である。


    2. 同2について




      1. 趣旨には賛成である。
      2. 但し、確認事項としてあげる必要はなく、理由中で記載すれば足りる。
      3. また、これまでに地域的偏在、事件的偏在の解消のために弁護士会が過疎地法律センター、消費者サラ金センターの設置などの努力をしてたきたことを指摘しておくべきである。


    3. 同3、4について

      当会の意見は上記1の通りであるが、弁護士法72条問題は政治問題化していることから、仮に隣接各士業者の活用が避けられないとすれば、以下の通り考える。




      1. はじめに




        1. 隣接各士業者は、各士業法で規定されている業務についての専門職であるが、法律事務一般についての専門職ではない。したがって、当然のことながら各士業の資格取得に際し法律事務一般についての能力・適正をテストされていない。また、実態においても、(弁護士法72条との関係は別として)隣接各士業者が一般に専門とする業務以外の法律事務にかかわっているとは思われない。たとえば司法書士においても、試験合格者ではない認可・認定資格取得者が多数含まれているほか、法律相談、訴訟支援などを行っているのはごく一部の者と思われる。これらのことからすると、
        2. 隣接各士業者に訴訟代理権限の付与を認めるべきではない。
        3. 法律相談については、専門業務(たとえば、司法書士については登記・供託、書類作成業務)を行うに当たり、それに必然的に付随する法律相談は別として、一般的な法律相談権限は認めるべきではない。
        4. 示談交渉代理権についても認めるべきではない。


      2. 司法書士について




        1. 補佐人資格

          自ら作成した裁判所に提出する書類にかかる、簡易裁判所の少額訴訟事件、通常民事事件に限って補佐人資格を認めるのが限度であろう。この場合、憲法、民法、商法、民事訴訟法について、相当レベルの筆記による試験を資格取得の要件とすべきである。(補佐人資格を認められると、裁判所の許可は要しないことになる。)

          なお、この制度を過渡的対応と位置づけるならば、弁護士人口の適正な増加等により対応できるようになれば、廃止することになるであろう。


          (理由)

          司法書士は、裁判所に提出する書類の作成を業務としており、自ら作成した裁判所に提出する書類にかかる民事事件について、その延長として補佐人となる資格を認めることは考えうる。しかし、上記 I の事実、補佐人は当事者又は訴訟代理人とともに出頭しなければならず、当事者又は訴訟代理人に取り消し、更正権があるとしても、相当の訴訟行為ができる地位であることに違いはないことからすると、司法書士一般に補佐人資格を認めるべきではなく、資格取得試験を要件とすべきである。そして、上記補佐人資格は、司法書士の専門業務以外にかかわることからすると、上記内容の試験が必要である。

          なお、上記意見は現在の事物管轄を前提としており、簡易裁判所の事物管轄の拡張には反対である。


        2. 法律相談権限

          「基本指針(案)」の法律相談権限を認めることには反対である。上記iiiの通りである。


        3. 示談交渉代理権限

          示談交渉代理権限を認めないことに賛成である。




      3. 弁理士について




        1. 共同訴訟代理権限

          共同訴訟代理権限を認めることには反対である。

          (理由)

          弁理士は、取消訴訟等に関する訴訟代理権(同法6条)、特許等に関する事項の裁判所における補佐人資格(同法5条1項)が認められている。侵害訴訟についても補佐人資格があるのであるから、共同訴訟代理資格を認める必要はない。


        2. 法律相談権限

          「基本指針(案)」の法律相談権限を認めることには反対である。


          (理由)

          弁理士は、特許等の手続に係る事項に関する鑑定(弁理士法4条1項)、特許等の売買契約、通常実施許諾に関する契約等に関する相談(同法同条3項)を認められており、これ以上の法律相談権を認める必要はない。


        3. 示談交渉代理権限

          「基本指針(案)」の示談交渉代理権限を認めることには反対である。


          (理由)

          弁理士は、特許等の手続についての代理権(同法4条1項)、特許等に関する仲裁事件の手続についての代理権(同法同条2項二号)、特許等の売買契約、通常実施許諾に関する契約等に関する代理権(同法同条3項)を認められており、これ以上の法律相談権を認める必要は認められない。




      4. 税理士について




        1. 出廷陳述権

          「基本指針(案)」の一般的な出廷陳述権を認めることには反対である。

          自ら作成した税務書類にかかる税務訴訟について、補佐人資格を認めることが相当であろう。









                                                                    



以    上

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