意見書

「宇治市塔の島・橘島の樹木伐採に関する意見書」(2013年11月28日)


2013年(平成25年)11月28日


国土交通大臣    太  田  昭  宏  殿
京都府知事      山  田  啓  二  殿
京都府宇治市長  山  本      正  殿
国土交通省 近畿地方整備局 淀川河川事務所長  田井中  靖  久  殿
塔の島地区景観構造検討会  御中

京  都  弁  護  士  会

会長  藤  井  正  大



宇治市塔の島・橘島の樹木伐採に関する意見書



      近畿地方整備局淀川河川事務所(以下「淀川河川事務所」という。)は、京都府宇治市の宇治川塔の島地区河川整備(以下「塔の島地区河川整備」という。)に伴う宇治塔の島・橘島の護岸工事について、事前に、宇治市民との間で双方向的な議論を尽くした上でどのような工事方法が望ましいのか、どのような景観を形成するべきなのかにつき検討をせず、宇治市民に対して必要十分な情報提供を行うこともなく、サクラ並木の伐採行為に着手した。
そこで当会は、塔の島地区河川整備について、以下のとおり意見を申し述べる。

第1  意見の趣旨
塔の島地区河川整備に伴う宇治市塔の島・橘島の現状改変計画に関し、今後は、宇治市民に対して景観に関して必要十分な情報提供を行い、公聴会等を開催し宇治市民の意見を聴取した上で意見には応答するといった双方向的な意見交換の場を設定するべきである。

第2  意見の理由
  1  問題点の指摘と本意見書作成の経緯
      2012年(平成24年)12月、塔の島地区河川整備の一環として、宇治川にある塔の島・橘島のサクラ並木が淀川河川事務所によって市民の意見聴取なくして大量に伐採された(以下「本件伐採行為」という。)。そのことについて、宇治市民より当会に対し、2013年(平成25年)4月に調査の申立がなされたことから、当会公害対策・環境保全委員会が現地調査、宇治市民からの事情聴取及び淀川河川事務所からの事情聴取を経て本意見書を作成するに至った。
  2  塔の島・橘島の地勢的状況と歴史について
宇治市塔の島・橘島は宇治川の中州として形成された小さな島であり、宇治橋の少し上流に位置し、世界文化遺産に登録されている宇治上神社と平等院の中間に存在し両遺産のバッファゾーン内にある。
塔の島には日本最大の15メートルの高さの石塔がそびえている。これは1286年に西大寺の僧・叡尊が建立したとされ、遅くともその頃には島が存在していたことになる。
      塔の島・橘島は中州という性格上時間の経過によってその形状に変遷が見られるだけでなく、近年の河川改修工事にともなう護岸工事等によってもその姿を変えている。
  3  塔の島・橘島が果たしていた環境的機能・価値について
      塔の島・橘島は世界文化遺産の宇治上神社と平等院の中間に位置し、その二つの遺産と一体となって全体として風光明媚な景観を形成している。
塔の島・橘島は都市公園法が定める都市公園で、自然公園法に基づく琵琶湖国定公園の一部でもあり、145本のサクラのほか黒松111本、イロハモミジ35本、ケヤキ11本等の樹木が市民や観光客に散策・憩いの場を提供していた。特にサクラ並木は毎春「桜祭り」が開催され、咲き誇った見事なサクラ並木の有り様は、世界文化遺産と相まって優れた景観を現出させ、大勢の市民や観光客に愛されていたし、市民の誇りであった。景観法に基づく宇治市景観計画でも、景観区域内の重点地区3の宇治シンボル景観に指定されている。
さらに、塔の島・橘島は、文化財保護法に基づく重要文化的景観に指定されており、同法が定める埋蔵文化財包蔵地でもある。また、京都府風致地区条例に基づく特別風致地区にも指定されており、河川内の島であるため河川法の適用も受ける。
  4  淀川河川事務所による本件伐採行為の経緯
      宇治川は淀川水系に属する一級河川である。従って、国土交通大臣が河川管理者であり(河川法第4条、第9条)、具体的には、その出先機関の淀川河川事務所が所管している。2012年(平成24年)12月に淀川河川事務所は、塔の島・橘島のサクラ並木145本のうち59本を伐採した。淀川河川事務所は、伐採をするにあたって同事務所長の諮問機関である塔の島地区景観構造検討会に諮っただけで、宇治市民一般に対して必要十分な情報提供を行わず、また、宇治市民一般からの意見を聴取することもしなかった。そして、上述のとおり塔の島・橘島のサクラ並木は市民の誇るべき景観であったことから、突然の本件伐採行為に対し、宇治市民から驚きと批判の声が相次ぎ、サクラ並木の保存を求める署名活動などが行われるようになった。
この点、淀川河川事務所は、本件伐採行為は淀川水系河川整備計画の一部である塔の島地区河川整備計画としてなされたとしているが、本件伐採行為は治水事業工事にとって不可避ないし必要不可欠なものとは認められない。現に、淀川河川事務所は、本件伐採行為に対する市民からの抗議を受けて計画の一部を変更したが、そこでは、残存するサクラ並木の伐採を回避する方向での計画が立てられている。よって、本件伐採行為に着手する前に、宇治市民から意見を聴取していれば、145本のサクラ並木の伐採も避けられたのではないかと考えられる。
  5  適用法令等の趣旨と淀川流域委員会の意見について
      前記3記載の適用法令等のうち、自然公園法、文化財保護法、景観法、及び京都府風致地区条例はいずれもその趣旨としては環境と景観を保全することを目的としている。従って、現状を改変する行為については特に慎重な配慮を要するものというべきである。
      また、河川法は、1997年(平成9年)の改正により第16条の2を新設し、河川行政について治水・利水等の観点だけでなく環境保全の観点も盛り込むことを趣旨として河川整備計画策定にあたって学識経験者の意見を聴くこととした。それを受けて、淀川水系についても流域委員会を組織し、同委員会は「ダム下流の塔の島地区の歴史的、文化的景観を考慮して河床掘削を極力抑制した流下能力の増大法を検討するべきである。」と塔の島・橘島地区の環境や景観には配慮を要するとの意見を述べている。
      以上のことからすれば、塔の島・橘島地区における樹木の伐採行為等の改変行為については、環境と景観に対する十分な配慮が必要であったことは明らかである。
  6  市民参加の必要性
そして、景観法は、第6条に「住民の責務」を定め、その地域の住民が景観法の理念にのっとり、良好な景観の形成に積極的な役割を果たすよう努めることを求めている。景観法を受けて制定された宇治市景観計画においても、冒頭の第1章1-3-1において、住民主体の景観づくりを掲げ、住民に景観について話し合い、考える機会を設けることを宇治市の努めとしている。すなわち、景観は、市民と共に作り上げることが求められている。
河川法第16条の2第4項も、河川管理者が河川整備計画の案を作成しようとする場合において必要があると認めるときは、公聴会の開催等関係住民の意見を反映させるために必要十分な措置を講じなければならないと定める。
      また、塔の島・橘島が果たしていた環境的機能は前記3で述べたとおりであり、特にサクラ並木の景観の歴史は約30年となり、市民や観光客にとってはすでに定着した景観価値を形成していたと言える。その景観価値の保護という観点からは宇治市民は密接な利害関係を有していたと言うべきである。
以上のような法の定めやサクラ並木等の価値と宇治市民との関係性からすれば、本件伐採計画については、事前に宇治市民に対して必要十分な情報提供を行い、宇治市民の意見を聞き、また、議論を尽くす必要があったことは明らかである。
なお、上述の景観構造検討会は、第8回から会議を一般に公開し、護岸のイメージについてアンケートを聴取するなどしているが、そもそも景観構造検討会には市民から選ばれた委員はおらず、市民に対する説明会や市民が意見を述べる機会も与えられていない。
この点、景観構造検討会では、塔の島・橘島の景観として河川整備に伴い水面が下がることから、塔の島・橘島の護岸を削り従前の中州に近い状態に戻すことが景観としてふさわしいとして本件伐採行為を行ったものであるが、宇治市民をはじめとする多くの市民は中州の状態に戻すよりサクラ並木の維持が景観としてふさわしいと考えている。
このように塔の島・橘島の景観については多様な意見があることからすれば、事前に十分な情報提供を行い、多くの宇治市民から景観に関する意見を求めたうえであるべき景観を模索すべきであったということができる。
7  まとめ
      以上、述べたとおり、サクラ並木等を中心とした塔の島・橘島の環境・景観について宇治市民は密接な利害関係を有していたこと、他方、各種法令の趣旨や淀川流域委員会の意見を踏まえ、さらに、本件伐採行為が治水工事にとって不可避・必要不可欠とは認められないことも合わせ考慮すると、塔の島・橘島地区の現状改変行為である本件伐採行為に着手するにあたっては事前に宇治市民に対し必要十分な情報提供を行い、宇治市民との間で双方向的で活発な議論を尽くした上でどのような工事方法が望ましいのか、どのような景観を形成するべきなのかにつき検討をするべきであった。
そこで、淀川河川事務所は、今後、塔の島・橘島の現状改変計画を進めるにあたっては、宇治市民に対して景観に関して必要十分な情報提供を行い、公聴会等を開催し宇治市民の意見を聴取した上で意見には応答するといった双方向的な意見交換の場を設定するべきである。
以  上



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