「『名張毒ぶどう酒事件』第7次再審請求に対する第2次特別抗告審決定を受けての会長声明」(2013年11月28日)


  2013年(平成25年)10月6日、最高裁判所第一小法廷は、いわゆる「名張毒ぶどう酒事件」第7次再審請求に対する第2次特別抗告審について、抗告を棄却する旨の決定をした。これにより、2012年(平成24年)5月25日に名古屋高等裁判所刑事第2部がした、再審請求棄却決定が確定することとなった。
  今回の第7次再審請求では、ぶどう酒に混入されたとする農薬が、確定判決において認定されたものと異なるという鑑定結果が裁判所に提出されており、本来は、その鑑定結果に対する科学的知見に基づく検討がなされるべきであった。2005年(平成17年)4月に名古屋高等裁判所第1刑事部が再審開始決定をしたのは、この鑑定結果を科学的知見に基づいて検討した結果、証拠としての新規性と明白性が認められるとの判断をしたものと評価できる。
  ところが、これに対する異議審である名古屋高等裁判所刑事第2部は、もっぱら再審請求人が捜査段階で行った自白の信用性の検討にのみ終始し、2006年(平成18年)12月に上記再審開始決定を取り消した。しかし、この判断は、2010年(平成22年)4月、第1次特別抗告審において、「科学的知見に基づく検討をしたとはいえず、その推論過程に誤りがある疑いがある」との理由から取り消されており、差戻審においても、自白偏重によらない客観的な証拠に対する科学的知見に基づく検討が求められていた。
  それにもかかわらず、今回確定するに至った再審請求棄却決定では、推測に推測を重ねた上で、請求人の自白に信用性があるとの判断がなされており、最高裁判所もまた、何らの科学的根拠を示すことなく、鑑定結果は自白の信用性に影響を及ぼさないとして、頭書の抗告棄却決定をするに至った。
  自白の偏重が、多くの冤罪事件の原因になっていることは、もはや歴史的教訓であるといえる。それにもかかわらず、日本の刑事裁判では、今なお自白の偏重傾向が顕著であり、今回の第2次特別抗告審決定においてもまた、自白偏重の傾向が色濃く示されたことは、深刻な問題であるといわねばならない。当会は、本年3月12日に「取調べの可視化(全過程の録画)の速やかな実現を求める決議」を行っており、京都府議会及び京都府下26市町村のうち25市町村議会においても、同様の決議がなされているところである。また当会は、本年11月17日に「刑事裁判の現在(いま)~それでも冤罪は起こっている~」と題し、第43回憲法と人権を考える集いを開催して、過去の刑事裁判において、自白を偏重するあまり、実際に冤罪が起きてきたことを広く社会に訴え、問題提起を行った。その成果を受け、当会は今後も、刑事裁判における根深い自白の偏重傾向を正しつつ、虚偽の自白を強いられ、冤罪に苦しむ人々が将来にわたって現れないよう、取調べの全面的可視化の導入をはじめとする、適正な刑事司法改革の速やかな実現に向けて、引き続き全力で取り組む決意を示すものである。

2013年(平成25年)11月28日

京  都  弁  護  士  会

会長  藤  井  正  大


関連情報