ロースクール問題についての意見書(2000年3月8日)



日本弁護士連合会     
会  長    小  堀      樹    殿
意  見  書


  司法制度改革審議会は、既に設置期間の三分の一を経過し、いよいよ、中心的論点である法曹一元とロースクール問題の本格的審議に入ろうとしている。そして、その結果 が本年半ば過ぎに予定されている中間報告に盛り込まれ、審議会の結論をほぼ決定することになる。この時期に、司法の一翼を担う日弁連が真の司法改革の観点からロースクール問題と法曹一元について、以下のような観点で、早急に意見をとりまとめるべきであると考える。
  ロースクール構想は、経済界の要求を受けて大学審議会が指摘した高度専門職業人養成に特化した大学院の設置促進と司法試験受験予備校の盛行による大学法学部の危機という二つの要因から、近時、大学の法学教育改革策として大学側から強力に提唱されている。他方、法曹人口の飛躍的増加を求める経済界からは、現行司法修習制度の容量 の限界から、法曹養成を大学に委ねるロースクール構想によって人口増の目的を達すべきだとの主張がなされている。当初、消極的であった法務省と最高裁が最近この構想に対し賛成の立場に変じたことから、その実現の可能性はきわめて大きくなった。
  不十分な大学の法学部教育、受験予備校の盛行、そして、司法研修所での「技術」教育偏重など、現在の法曹養成制度の改革の必要性の高いことは疑いを入れないところである。独立心に満ち社会常識と人権感覚豊かな法曹を養成していくという観点から、理念形としてのロースクールが、司法改革としても有意義な制度であることは否定できない。問題は、日弁連として、ロースクール構想それ自体を望ましいものとして、司法改革の全体の理念と切り離して、とりわけ法曹一元と無関係にその導入に賛意を表明してよいのかどうかである。
  日弁連は、従来から、数ある改革課題のなかでも、司法の中核を担う裁判官に対する官僚統制システムを廃絶し裁判官の職権の独立を回復するために、これを支えているキャリアシステムに代えて法曹一元制を導入することこそ、司法改革の中心的課題であると位置づけてきた。法曹一元と切り離したロースクール構想の導入は、すなわち、キャリアシステムを前提とした新しい法曹教育・養成制度の確立を意味する。そのような新しい司法制度も、司法制度改革審議会による審議と国会の立法的手当てにより構築されることから、それなりの重みがあることを否定できない。その結果 、今後、かなりの長期間にわたり、法曹一元の導入によって制度を再び大改革することは事実上出来なくなる恐れが強い。法曹一元の再度のしかも半永久的な棚上げとなることが強く懸念されるのである。法曹一元を司法改革の核としてこれを標榜してきた日弁連が、これを座視していてよいとは思われない。
  また、実質的にみても、試験結果よりも教育過程(プロセス)を重視するロースクール制度のもとでは、エリート大学院が生まれる可能性が強い。キャリアシステムを前提とするロースクール制度のもとでは、一方で裁判官の任用は、今以上に、このエリート大学院出身者に偏り、他方合格者の増加により、司法研修所では、分離修習が持ち込まれる懸念が高く、結局のところ官僚裁判官ないし官僚司法の弊害が増幅することになることが強く危惧される。
  では、どうすればよいのか。答えは、ロースクール構想を法曹一元とセットにして導入すること以外にはない。もともと、英米諸国では、法の支配の理念のもとに、法曹一元とロースクールがともに併存していることからも明らかなように、この両者は相互に、きわめて親和的である。その意味で、法曹一元を伴わないロースクール構想は制度として歪であると言っても過言ではない。ロースクール構想を強く唱える大学側が法曹一元との接続に言及しないのは、大学教育をどうするのかという視点に偏り司法改革の理念が明確でないためで、そのこと自体、現在のロースクール構想の大きな問題点と言える。先に指摘した一部大学院のエリート化の問題も、法曹一元と併用すれば、それらの大学院出身の弁護士が実社会で揉まれて円熟し市民性を培い、一定年数を経ることによって、裁判官としての適格性を具えることができるようになる。また、法曹一元の下では、仮に司法研修所を残すとしても、実務修習の役割は、弁護士となるのに必要な教育となり、分離修習問題の懸念は、全く存在しない。
   以上述べたように日弁連は、審議会が重大な局面を迎えた今、ロースクール構想は法曹一元を前提とするものでなければならず、法曹一元を前提としないロースクール構想は容認できないとの態度を明確にするべきである。審議会が二年という短い期間を限られて、司法の大改革に取り組んでいる今、今回の審議会で、ロースクール構想をまず導入して法曹人口増をはかり、法曹一元の基盤を培養していくといった段階論は、法曹一元を永遠の課題にしてしまう危険性を持ち、状況判断を誤るものと言わなければならない。
   ロースクールの導入が、審議会で、先行して論議され、近く一定の結論が出される可能性のある今、日弁連は、ロースクール構想は法曹一元を前提としたものでなければならないことを世論に訴え、審議会の審議に反映していくことが強く求められている。
  当会は、3月7日に開催された常議員会の一致した意見として以上のとおり要請する。


  2000年(平成12年)3月8日
京  都  弁  護  士  会
会  長    村  山      晃



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