「死刑執行に対する会長声明」(2014年1月24日)


1  2013年(平成25年)12月12日、東京拘置所及び大阪拘置所において、各1名ずつに対する死刑の執行が行われた。現政権発足後、今回の執行に先立ち、昨年2月21日に3名、4月26日に2名、9月12日に1名の執行がなされているが、この間である昨年5月31日には、国連拷問禁止委員会の総括所見において、日本国に対して、死刑制度を廃止する可能性についても考慮するよう勧告がなされていたところである。この勧告を受けつつも、政府主導による死刑制度に関する公式な検討は、今日までの間、何ら行われておらず、今回の死刑執行は、国際社会からの勧告を無視して敢行されたものといわざるをえない。死刑制度に対する何らの議論も行うことなく、繰り返して死刑の執行が行われていることは、国際社会の一員たる国家の姿勢として、極めて遺憾である。

2  法務省によれば、2003年(平成15年)から昨年4月までの約10年間、死刑確定から執行までの期間は、平均して約5年7ヶ月であるとされている。しかし、今回死刑が執行された2名は、死刑確定から執行まで18年以上が経過している者と、1年5ヶ月弱しか経過していない者であった。この2名が今回の死刑執行の対象となったことについて、具体的な理由は何ら説明されていない。
そもそも死刑制度は、国が権力を用いて人命を奪うものであり、明確な基準のないままに運用されることは、あってはならない。しかし日本国においては、死刑が確定した事件について、実際に執行する順序を定める基準に関する十分な情報が公開されておらず、今回の死刑執行についてもやはり、なぜこの2名が選ばれたのかは全く不明なままである。

3  世界198カ国のうち、死刑制度を存置しているのは58カ国であり、そのうち2012年(平成24年)に実際に死刑を執行した国は、日本国を含めて21カ国である。国連自由権規約人権委員会は、すでに2008年(平成20年)の段階で、「世論の動向にかかわりなく、締約国は死刑の廃止を考慮すべき」としており、死刑制度に対する国際社会の考え方は、縮小から廃止へ向かおうとする情勢にある。国連拷問禁止委員会が、総括所見において、政府に対し、死刑制度を廃止する可能性を検討することを勧告したのも、こうした世界の趨勢をふまえてのことである。
しかし政府は、こうした国際社会からの呼びかけに全くこたえることなく、死刑制度を廃止する可能性はもとより、死刑確定者のうち、どの者に対して、いかなる基準で死刑を執行するのかという基準さえも明らかにしないまま、死刑の執行を繰り返している。日本国は、今なお死刑制度を存置する国家として、その是非について論議を尽くし、その結果を国際社会に向けて応答すべき責務を負っているのであり、その責務を果たすためには、死刑に関する情報を広く一般に公開して、死刑制度についての議論を活発化させなければならない。

4  以上のとおり、今般、政府が、国際社会からの呼びかけに全くこたえることなく、執行に関する明確な基準など、死刑に関する重要な情報を秘匿し続けたまま、何らの議論も行わずに死刑執行を繰り返したことは極めて遺憾である。政府に対し、改めて、国民に向けて死刑に関する情報を広く公開し、死刑制度についての議論を活発化させた上で、国際社会からの勧告に責任をもって答えるよう、本声明をもって、強く抗議するものである。



        2014年(平成26年)1月23日

京  都  弁  護  士  会

会長  藤  井  正  大
  

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