「裁判所速記官の養成再開を求める会長声明」(2014年2月18日)



  2009年(平成21年)に裁判員制度が開始されて以後、5年になろうとしており、連日的開廷と公判中心主義の活用による、実質的かつ密度の濃い審理の有用性が広く認識されるようになってきた。
  これまでの裁判員裁判の検証結果をふまえると、裁判員は、法廷での証人尋問や被告人質問の内容につき、一言一句を重んじて事実認定を行い、量刑を行っている実情があるといえる。それゆえ、裁判の適正を確保するためには、これらの内容を正確に記録し、かつ、即時に確認することができるよう態勢を整えることが、以前にも増して重要である。
  ところで最高裁判所は、証人尋問等の内容を記録するために、録音反訳の方法を広く導入している。しかしこの方法では、即時的な内容の確認ができず、連日的開廷が行われる裁判員裁判には適さない。そこで現在の裁判員裁判では、ビデオ録画とコンピュータによる音声認識とを組み合わせる方法を用いて、証人尋問等の内容を即時に確認するための工夫がなされている。しかし、現在の音声認識システムは、標準語以外の言葉やイントネーションに対する認識精度が極めて低く、正確な記録になっているとは到底言い難い。その正確性は、ビデオ録画によって補うことが可能ではあるが、検索に用いるための音声認識の精度が低い結果、即時的な内容の確認には不向きである。
  一方、裁判所速記官による速記の方法であれば、音声認識システムの技術的限界に伴う誤認識の問題は生じないし、最新の技術を用いれば、期日終了後に直ちに文字による記録化をすることができる。裁判所速記官による速記の方法は、録音反訳の方法にも、ビデオ録画とコンピュータによる音声認識を組み合わせる方法よりも、有用であるといえる。
  ところが最高裁判所は、1998年度(平成10年度)より、裁判所速記官の新規養成を停止しており、裁判所速記官の人数は減少の一途をたどっている。この水準であれば、2020年(平成32年)ころには、定年退職等により、裁判所速記官が存在しなくなることが見込まれる。公判廷における証人尋問等の結果を正確に記録し、その内容を即時に確認することができるよう、態勢を整えることは、とりわけ裁判員裁判の適正さを確保するために必要不可欠であり、そのためには、裁判所速記官による速記の方法を積極的に活用されるべきである。
  当会は、最高裁判所において、速やかに裁判所速記官の養成を再開するよう求めるものである。

      2014年(平成26年)2月18日

京  都  弁  護  士  会

会長  藤  井  正  大


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