「警察・検察の行う全事件の取調べについて、全面的な可視化を求める会長声明」(2014年3月6日)
現在、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会(以下「特別部会」という。)の審議において、取調べの可視化に向けた検討が終盤にさしかかっている。2014年(平成26年)2月14日の同部会第23回会議で明らかにされた「作業分科会における検討結果(制度設計に関するたたき台)」においては、可視化の対象範囲は、裁判員制度対象事件の身体拘束事件とされている。しかし、たとえ取調べを録音・録画する制度が導入されたとしても、このように対象範囲を限定したものでは、到底、違法・不当な取調べの根絶という取調べの可視化の目的を達成したものとはいえない。
すなわち、裁判員制度対象の身体拘束事件は、刑事事件全体のわずか2%程度に過ぎず、現在特別部会で検討されている案のように、録音・録画を行うべき対象範囲を限定した場合には、圧倒的多数の事件がその対象範囲外とされてしまうこととなるからである。密室で行われる取調べにおいて発生してきた多くの問題は、その事件が裁判員制度対象事件であるか否か、身体拘束下の取調べであるか否かを問わず、すべての場面の取調べで発生してきたのである。著名な例を挙げれば、いわゆる氷見事件、志布志事件、郵便不正事件やパソコン遠隔操作事件は、いずれも裁判員制度対象事件ではなかった。特に氷見事件では、「任意」名目下で行われた取調べによって、虚偽の自白が生み出されていたのである。こうした現実にもかかわらず、問題の発生してきた取調べの大半の領域を、録音・録画の対象から除外しようとする案は、可視化の目的を実現するものとは到底いえず、およそ意味をなさないものと言わざるを得ない。
また、現在、特別部会において、警察・検察の行う全事件の取調べの可視化の実現を目的とするが、当面は検察官の行う取調べでの全事件の可視化を出発点にするという議論も行われている。しかし、取調べの大部分は一次的捜査機関である警察で行われているのであり、警察での取調べを可視化の対象外としたのでは取調べの大半を可視化しないこととなってしまう。上記事件において問題となった取調べもその実施主体は警察である。警察の取調べこそ可視化されなければならない。仮に物理的、予算的に段階的にしか可視化できない事情があるのだとしても、最低限、取りまとめの内容に、警察・検察の行う全事件の取調べが可視化の対象であり、全面的可視化の具体的な実施期限が明記されるものでなければならない。
当会は、憲法及び刑事訴訟法の求める適正手続保障の趣旨を徹底し、冤罪事件の発生の根絶を希求する立場から、2009年(平成21年)11月12日及び2013年(平成25年)3月12日付総会決議及び2013年(平成25年)9月26日付「法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会に対し、冤罪事件の根絶のための審議を求める意見書」により、憲法及び刑事訴訟法の求める適正手続保障の趣旨を徹底し、冤罪事件の発生の根絶を図るため、例外のない全面的な取調べの録音・録画を行う制度の導入を求めたところであるが、現下の特別部会の議論状況に鑑みて、改めて、取調べの可視化の目的に立ち返り、警察・検察で行われる取調べの全てにつき、その全過程について例外なく可視化を実施する、「全面的な」取調べの可視化が法制度として実現されるよう求めるものである。
2014年(平成26年)3月6日