「ひとり親家庭への各支援制度について、対象を父子家庭にも拡大するよう求める要望書」(2014年3月28日)


2014年(平成26年)3月27日

京都府知事      山  田  啓  二  殿
京都府議会議長  多  賀  久  雄  殿
京都市長        門  川  大  作  殿
京都市会議長    橋  村  芳  和  殿

京  都  弁  護  士  会

会長  藤  井  正  大


ひとり親家庭への各支援制度について、対象を父子家庭にも拡大するよう求める要望書



当会は、京都府及び京都市において実施されているひとり親家庭に対する各支援制度のうち、母子家庭のみを対象とし、父子家庭を対象としていないものにつき、以下のとおり要望する。

第1  要望の趣旨
ひとり親家庭に対する支援施策のうち母子家庭のみを対象とし、父子家庭を対象から除外しているものについて、速やかに制度を改正して父子家庭をそれらの対象とし、もってひとり親家庭に対する適切な支援が行われるよう求める。

第2  要望の理由
1  昨今の経済情勢に鑑み、ひとり親家庭の置かれる状況には厳しいものがある。京都府下における現況は、大要、以下のとおりである。
京都府下における母子世帯数は2万2200世帯、父子世帯数は3461世帯である(2010年(平成22年)国勢調査)。このうち京都市内についてみると、それぞれ約1万3000世帯、約1700世帯となり、京都府下における母子世帯及び父子世帯の過半数が集中している。
1年間の平均就労収入をみると、母子世帯の平均年収は2011年度(平成23年度)で171万円であるが、父子世帯では318万円であり、その差は147万円である。ただし、2005年度(平成17年度)はそれぞれ156万円と355万円であり、差が199万円であったことから、両世帯の経済状態の差が小さくなっていること、父子世帯の経済状態が悪化していることが読み取れる。その分布は、母子世帯については収入年額が300万円未満の世帯が全体の約80%を占めるのに対し、父子世帯ではその割合は約50%である。ただし、2005年(平成17年)時点ではそれぞれ約85%、約40%であることから、同様に両世帯の経済状態の差が小さくなっており、父子世帯の経済状態が悪化しているといえる。また、就労収入以外の収入についてみると、公的給付、特に児童扶養手当、こども手当を受給しているひとり親世帯が非常に多く、母子世帯に対する母子家庭奨学金についても同様に多い。しかも、いずれも2005年(平成17年)よりも大きく増加しており、ひとり親世帯が公的給付に頼らざるを得ない状況が看取される。
他方で支出面をみると、生活費は母子世帯で月額約15万円、父子世帯で月額約17万円であり、顕著な違いはない。もっとも、世帯における医療費自己負担額は、母子世帯では90%が1万円未満であったが、父子世帯では1万円を超える世帯が35%であり、父子世帯における医療費負担が大きい。家計に占める医療費の負担割合も、母子世帯では約2%であるが、父子世帯では約8%と、大きな差があった。

2  これらの調査結果からすれば、母子家庭及び父子家庭の実際の収支状況等の差は2005年(平成17年)と比べ縮小しており、父子家庭の経済状態が悪化していることが認められる上、そもそも父子家庭の平均年収自体、一般家庭の平均収入より低く、経済的に余裕があるとはいえない。また、年収の分布も、父子家庭の方が母子家庭よりも高い傾向にあるとはいえるが、その差はやはり縮まっており、年収が100万円を切る父子世帯も1割を超えている。こうしたひとり親家庭の苦しい経済状態に鑑み、母子家庭であるか父子家庭であるかを区別することなく、現に必要な支援を的確に行っていくことが要請されているといえる。
このような実際上の必要性に加え、所得による制限を課すのではなく、ひとり親の性別のみを理由に支援施策の利用の可否を決すること(ひとり親が特定の性別であることを要件とすること)は、性別による不合理な差別として憲法14条の定める法の下の平等に反することも指摘することができる。
京都府ないし京都市においては後記のとおり母子家庭のみを対象とする支援施策が存在するところ、これらの事情に鑑みれば、このように母子家庭のみを対象として父子家庭を対象としないことには合理性が認められないと解される。そこで、現在母子家庭のみを対象とする支援施策について、可及的速やかに対象を拡大し、父子家庭に対しても必要な支援が行われるべきである。

3  京都府に設置された「ひとり親家庭の支援施策検討会」における議論の結果、2013年(平成25年)8月1日より、母子家庭医療費助成制度(京都府)及び母子家庭等医療費支給制度(京都市)については、その対象が父子家庭にも拡大された。
しかしながら、当会が把握するものだけでも、母子家庭奨学金支給制度、母子寡婦福祉資金貸付事業、及び、母子家庭人間ドック実施事業の各支援施策については、いまだ母子家庭のみを対象とし、父子家庭を対象としていない。
これらの制度についても、母子家庭のみを対象とすることには合理性がないと考えられ、所得の多寡にかかわらず父子家庭を対象としていない現状は、性別による不合理な区別として憲法14条に反するのみならず、実際上も父子家庭に対する適切な支援が行われていない状態にあると考えられる。そうすると、現状を放置することは、上記のような父子家庭の困難な生活状況をさらに困難なものとするおそれもあり、ひとり親家庭に対する適切な支援を実施するという観点からは大きな問題があると言わざるを得ない。性別による不合理な差別を是正するとともに、父子家庭に対する適切な支援を実施するという観点から、対象を順次父子家庭へも拡大するべきである。
よって、父子家庭を対象から除外している上記各支援施策、及び、その他の母子家庭のみを対象とする各支援施策について、速やかに改正を行って父子家庭もその対象とし、もってひとり親家庭に対する適切な支援を行うことを求めて、本要望を行う次第である。

以  上


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