意見書

「司法試験合格者数の大幅減員に関する申入書」(2014年3月28日)


2014年(平成26年)3月27日

法曹養成制度改革推進会議  御中

京  都  弁  護  士  会

会長  藤  井  正  大


申  入  書


第1  申入の趣旨
    2014年(平成26年)司法試験から、司法試験合格者数をただちに大幅に減員すべきである。

第2  申入の理由
  1、前提事実
  (1)日本弁護士連合会は、2012年(平成24年)3月15日、「法曹人口政策に関する提言」を行い、同提言の中で、司法試験合格者数について、まず1500人にまで減員し、更なる減員については法曹養成制度の成熟度や法的需要、問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきであると述べた。

  (2)その後、法曹養成検討会議において、2013年(平成25年)6月16日、「司法試験の年間合格者数3000人という数値目標は現実性を欠く」とした最終取りまとめ(以下「取りまとめ」という。)が承認され、これを受けて、政府は、同年7月16日、司法試験合格者数3000人を目指すとした2002年(平成14年)の閣議決定を撤回した。

  (3)しかるに、取りまとめでは、「新たな検討体制の下、法曹人口についての必要な調査を行うとともに、その結果を2年以内に公表すべき」とされ、これに基づいて法曹養成制度改革推進会議が設置された。
      法曹養成制度改革推進会議の下には、法曹養成制度改革推進室(以下「推進室」という。)が設置されたところ、推進室は、法曹人口に対する調査を2015年(平成27年)3月まで続け、この調査結果が出るまで法曹人口に対する具体的提言は行わないという見解を表明している。そして、その調査の視点、具体的な調査方法、調査項目等については、学者で構成される法曹人口調査検討会合(以下「調査検討会合」という。)における検討に委ねることになっている。

  2、司法試験合格者激増による弊害の発生と司法改革審議会意見書で指摘された前提条件の欠如
  (1)司法試験合格者数は、1947年(昭和22年)から1962年(昭和37年)までは200人台から300人台、1963年(昭和38年)から1990年(平成2年)までは400人台から500人台で推移してきた(この間の合格者は漸増であった)が、1993年(平成5年)以降は700人台、1999年(平成11年)以降は約1000人、2004年(平成16年)以降は約1500人、2007年(平成19年)以降は約2100人~2200人(2008年(平成20年)以降は新旧両司法試験の合格者数)、と急増してきた。

  (2)2001年(平成13年)6月12日付司法制度改革審議会意見書(以下「意見書」という。)において、弁護士人口の地域的偏在の是正の必要性や様々な要因を指摘して、今後、法律家の需要が量的に増大することが見込まれるなどとされたことを受け、2002年(平成14年)3月になされた閣議決定により、司法試験合格者の急激な増員がなされてきたものである。
      しかしながら、弁護士人口の地域的偏在は解消されてきている一方で、その後の調査によっても、通常事件は意見書が指摘したようには増加しておらず、企業内弁護士の需要や行政における需要も意見書の指摘したようには増加しているとはいえないことなどから、現状の下で、意見書で指摘されたとおりに法的需要が量的に増大しているという実態が存在するとは言い難い。
      これに加え、裁判官・検察官は増員されておらず、司法予算も増額されておらず、我が国の司法基盤の整備は十分に整っていない。このような状況の下、司法試験合格者の急激な増加により、制度の「ひずみ」ともいえる様々な問題が生じていることは指摘されて久しい。

  (3)急激な合格者増員の中で、法科大学院及び新修習制度が「法曹の質」の維持の観点から見て、制度として十分に機能しきれていないのではないかという懸念が指摘されている。
  設立数及び入学定員が過剰な状態にある現在の法科大学院においては、その教育内容や教員の資質、修了認定の厳格さなどに大きな格差があることが指摘されており、修習生の一部には、基本的な法的知識が不足していたり、理解不足の者がいたりすることも指摘されている。
  しかし、その改善には一定の年数がかかることも事実であり、現状の下で、司法試験合格者を急激に増加し続けた場合には、法律家として資質に問題がある合格者が大量に発生することになり、修習の課程でもそれが改善されない場合には、大量の二回試験不合格者が出現する事態とならざるを得ず、現に、今日では、二回試験の不合格者が大量に出現する事態となっている。
  現在の合格者数においてそのような「法曹の質」への懸念があるとすれば、ただちにその是正策が検討されるべきである。現在、法科大学院については、その数や総定員数、教育内容、適正配置等について見直しの論議が行われているところであるが、ただちに是正される見通しもない。
  さらに、1年に短縮された司法修習制度についても、「法曹の質」の維持の観点から、養成期間に疑問や懸念の声が上がって久しいが、何ら是正されていない。

  (4)次に、相当数の新人弁護士が既存の事務所において登録出来ないという事態が生じており、合格者数を現状のまま維持すれば、この傾向は今後さらに拍車がかかると考えられる。
登録をする事務所が見つからないということ自体、当初予測されていた弁護士に対する法的需要がいまだ社会に現れていない証であるという声もある。制度設計の問題により、新人弁護士が大量に登録出来ない事態が生じているということ自体が、司法制度改革が未だ途上にあることを示しているともいえる。
  弁護士が実務家として一般社会や市民の要請に的確に応えていく能力を身につけるためには、先輩法曹の指導のもとで実務経験を積み、自らの弁護士としての能力を高めていく、いわゆるオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)がもっとも優れた方法であるし、前項で述べた問題点からすれば、OJTの重要性は、今日ではより増しているというべきである。
  登録する事務所が見つからないということで、OJTの機会が得られないとすれば、実務家として必要な経験・能力を十分に習得出来ていない弁護士が社会に大量に生み出されていくおそれがあり、ひいては、市民の権利保障や弁護士への信頼にもマイナスの影響を及ぼしかねない。
  新人弁護士の就職難は、法曹志望者の減少を引き起こす一つの要因ともなっている。法科大学院の適性試験の志願者数は減少の一途を辿っているほか、大学進学においても、法学部志望者が減少している。こうした傾向が継続すれば、長期的には法曹の質の低下をもたらすことが懸念される。

  (5)総務省は、2012年(平成24年)4月20日、法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価における勧告を行った。そのうち、司法試験合格者並びに法科大学院の質に関する部分を抜粋する。
    ①司法試験の合格者に関する年間数値目標については、これまでの達成状況との乖離が大きく、また、法曹・法的サービスへの需要の拡大・顕在化も限定的であることから、これまで及び今後の弁護士の活動領域の拡大状況、法曹需要の動向、法科大学院における質の向上の状況等を踏まえつつ、速やかに検討すること。
    ②ア、司法試験合格率の向上を目指し、法科大学院における教育の質の向上を一層推進すること。その際、未修者教育の一層の強化を推進すること。
    イ、法科大学院における入学者の質を確保する観点から、依然として競争倍率が2倍を下回っている法科大学院に対し、更なる取組を促していくこと。
    ウ、法科大学院における修了者の質を確保する観点から、各法科大学院に対し、成績評価及び終了認定の厳格化の一層の推進を求めること。
    エ、法科大学院における学修のばらつきをなくし、修了者の質の一定水準を確保するため、関係機関の連携の下、策定された共通的な到達目標モデルを踏まえ、各法科大学院が到達目標を速やかに策定するよう働きかけること。
      この総務省勧告は、法務省、文部科学省、最高裁判所、法科大学院38、日本弁護士連合会、弁護士会22、都道府県18、市区40、経営法友会に対して調査を行った結果なされているものであって、特に①に関しては、「現状の約2000人の合格者数でも弁護士の供給過多となり、就職難が発生、OJT不足による質の低下が懸念」されている。

  3、速やかな司法試験合格者減員の必要性と調査手法の問題点
      以上のような弊害が顕在化している一方で、意見書が述べた法的需要は拡大しておらず、前提条件が欠く中、法曹の質に対する懸念が払拭されていない状態では、司法試験合格者数3000名を目指すとした2002年(平成14年)閣議決定を撤回したことは、いわば当然である。しかし、単に3000名を撤回しただけでは問題の抜本的解決にはほど遠い。
      司法試験合格者数については、速やかに大幅な減員をすべきであり、これは喫緊の課題である。
      この点、前記のとおり、推進室は、法曹人口に対する調査を2015年(平成27年)3月まで続け、この調査結果が出るまで法曹人口に対する具体的提言は行わないという見解を表明しているが、既に総務省が政策評価に対する調査を行い、調査に基づいた勧告まで行っている上、日本弁護士連合会の提言から2年が経過し、前記のような弊害がより顕在化しており、これを解消すべき対策も何らなされていないことからすれば、司法試験合格者をただちに大幅に減員すべきである。
      この点、推進室は今後、需要、質の確保・法曹の供給、対比的視点、均衡的視点、公益業務等をあげた上で、既存のデータの分析に加えて新しいデータの収集・分析を調査検討会合に委ねようとしている。
      しかし、総務省が既に政策評価に関する調査を行いデータの分析をしている上、司法改革が推進されてから10年以上を経過しても未だ法的需要は増大しておらず、訴訟件数も増加していないことからして、今後、1年以上をかけて調査する必要は全くない。法曹養成制度が、就職の困難とこれに伴うOJTの不足、さらには志願者の減少という負のスパイラルに陥り、未だその解決の糸口すら見いだせない状況下において、その調査が終わらなければ、司法試験合格者を現状の合格者数よりも大幅に減員すべきという意見を出せないというのでは、法曹養成制度そのものの矛盾を放置しながら何も手をつけずにいるに等しい。

  4、結論
      従って、2014年(平成26年)司法試験から、司法試験合格者数をただちに大幅に減員すべきである。
以  上


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