弁護士冥利に尽きます。
先日、事務所に突然の来客がありました。それは昨年の夏に担当した少年事件の少年とその両親でした。
この少年事件は、私にとって大変思い出深い事件でした。事件の詳細は控えますが、中学生が起こした事件としては重大な事件で、しかも私が担当した少年は加害少年らの中でもリーダー的な存在でした。私は、どんな少年だろうと少し不安を抱えながら少年鑑別所に行き、少年と初めて面会しました。初めて少年にあった印象は、体は大きいけどなかなか可愛らしい顔している子だなというものでした。話をしてちゃんと受け答えの出来る子だったので、どうしてこんな子がこんな事件を起こしてしまったのだろうと疑問に思いました。
しかし、両親と会って話を聞いたり、家庭裁判所に送致された後捜査記録を見たりするなどして少年の多数の非行事実を知るにいたり、少年本人の未熟さや家庭や生活環境の問題点が浮き上がってきました。
少年事件においては、弁護活動においても処罰という観点よりも更生・教育という観点が重要になります。そこで、私は少年のことをよく知ろうと思い、出来るだけ多く面会をして、事件のことはあまり触れずに、家族のこと、友人のこと、学校ことなど、いろいろ話をして聞いてみることにしました。方法としては少年にノートを渡し、毎回テーマを与えてそのことについて作文を書いてもらうようにしました。少年は、最初文章を書くのが苦手と言ってあまり書いてくれませんでしたが、徐々にいろいろなことを書いてくれるようになりました。このノートを読んで、少年が普段口には出せていないが家族や友人を大事にしており、また反発はしていたものの学校の先生を信頼していることもわかりました。その後も面会を重ねていくうちに少年に変化が見られようになりました。自分の今後の心配をするだけでなく、事件のことを振り返ってなぜ自分が事件を起こしてしまったのかを考えるようになり、また、被害者への謝罪の気持ち、家族への感謝の気持ちなどを素直に伝えてくれるようになりました。
少年と面会を重ねる間も、私は、両親と話し合いをし、被害者と示談交渉をし、中学校と今後の対応を協議し、家裁調査官と面会するなど出来る限りの活動をしました。そして、審判の日を迎え、審判官に対して少年本人と両親が涙ながらに更生を誓いましたが、結果は初等少年院送致でした。
事件の重大性からすればやむを得ない結果でしたが、少年自身の変化を肌で感じ、家庭や学校環境も整っていると考えていた私は、悔しいというか、やり切れない気持ちを持ちました。
審判の翌日、私はどんな顔をして少年に会おうかと思案しながら少年鑑別所に面会に行きました。面会の時、少年は泣いたり、ふてくされたりするんじゃないかと思っていましたが、意外にもとても落ち着いた様子で、時折笑顔を見せたりしていました。もちろん強がっている部分はあったと思いますが、私は、少年が結果を素直に受け止めて前に進んでいく覚悟が出来たんだと感じ、自分が予想していた以上に少年が精神的に成長したことにとても驚きました。
そして、審判から約1年が過ぎた先日、少年と両親が事務所を訪問してくれたのです。少年院を出たその足で私の所に来てくれたとのことでした。少年の成長した姿を見て、また今は少年院に行って良かったと思えるとの両親の言葉を聞いて、私はとてもうれしく思いました。
私は、弁護士として仕事を初めてまだ数年しか経っていませんが、頑張って仕事をしても報われないことも多く、自分の力不足に悩むことが多々ありました。この少年事件も報われなかった事件の一つだと思っていましたが、先日少年の屈託のない笑顔を見ることが出来てとても報われた気持ちになりました。弁護士になってほんとに良かったと思える瞬間でした。
まだまだこれから弁護士として多くの事件を担当して時にはつらいことを経験することもあると思いますが、またこの少年事件のような事件に出会えることを楽しみに頑張っていきたいと思います。