「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律案」についての声明(1999年12月2日)


1 本法案は、無差別大量殺人行為を行った団体による当該行為の再発防止を目的とし(1  条)、具体的にはオウム真理教を対象とするものと言われている。

  なるほど、サリン事件をはじめとする被害関係者らの怒りや関係自治体住民の不安が表明されており、何らかの対策が望まれていることは理解できる。しかし、本法案には以下に述べるとおり多くの問題があり、本法案の制定が適切な方法であるかは、さらに十分な検討を要する問題である。

2 本法案による規制措置の観察処分(5条2項)では、定期報告義務を課し、令状なしの立入検査(7条2項、13条2項)を認め、その拒否に対し1年以下の懲役刑が課され(38条)、再発防止処分(8条2項)では、土地建物の取得や使用、役員の団体活動、加入の勧誘、現金等の受贈がすべて禁止される。これは、およそ団体としての活動を事前かつ広汎に禁止するものであり、憲法の保障する「結社の自由」(憲法21条1項)「住居の不可侵」(憲法35条)「居住の自由」(憲法22条1項)「適正手続の保障」(憲法31条)など、基本的人権を著しく制約するものである。

観察処分の要件(5条1項)や再発防止処分の要件(8条1項)は、例えば、無差別大量殺人行為当時の役員が現在の役員であれば足り、破防法と異なり必ずしも将来の危険性を問わない点で破防法以上に問題である。

3  公安審査委員会は、オウム真理教に対する破防法7条に基づく解散指定請求に対し、1997年1月31日、「将来さらに団体の活動として暴力主義的破壊活動を行う明らかなおそれ」が認められないとして棄却決定をしている。現時点において「無差別大量殺人事件の再発防止」を目的に本法案を制定すべき具体的必要性(立法事実)が存在するかについて、十分に検証されているとは言い難い。

4 本法案は、11月2日の閣議決定からわずか2週間余りで衆議院を通過した。衆議院  では一部修正がなされたが、上記の問題は依然残されたままであり、本法案についての  論議以前にその具体的内容すら周知されていないのが現状である。本法案が、破防法の  特別法として広く市民の重要な基本的人権に多大な影響を及ぼすものであることに照ら  すと、これは極めて憂慮すべき事態である。
    よって、本法案については、市民的な議論を十分に尽くすべきであり、本国会におけ  る拙速な採決を避け、冷静かつ慎重な審議を強く求めるものである。


1999年(平成11年)12月2日

京都弁護士会

会長    村  山     晃


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