バッタ捕り


幼少期の私は、バッタ捕りに人生を懸けていました。

いつどのようなタイミングで始めたのか定かではないのですが、バッタが視野に入ると無条件に捕らえることがルーティーンになっていました。

雑魚キャラである醤油バッタ(醤油のような汁を出すため)をはじめ、レアキャラであるショウリョウバッタ(姿が美しい)、個人的に好きなキチキチバッタ(飛ぶ際にキチキチキチッっと音を出すため)など、幼稚園の敷地内で乱獲を行っていました(正式名称は知りません)。

子供なりに哲学のようなものもあって、網は使わず、素手で捕らえる。いかにバッタを潰さないように無傷のまま捕らえるかに心を砕き、技術を磨きました。網で捕まえるのは簡単すぎて面白くないのです。

狩りを楽しむ肉食動物もいるという話を聞いたことがありますが、私はバッタを食べるわけではないので、彼らよりもさらに純粋な境地に立っていたのではないかと思います。目的や成果ではなく、行為それ自体に価値を見出す「カモメのジョナサン」のような。バッタたちには甚だ迷惑な話だったと思います。

ある時、バッタの飛び方には一定の法則があることに気付き、効率的に彼らを追い詰め、最小の労力で捕らえるための様々な工夫を凝らしました。

最善手の追究に余念がない私は、自由時間にはカゴを片手に原っぱに出掛け、大量の獲物とともに帰還していました。幼稚園の先生に、「すごいね」と目を丸くされたことを覚えています。

このような努力の甲斐あり、私は、幼稚園一のバッタ捕りの名手になったのでした。皮肉にも、その幼稚園の名称は「博愛幼稚園」でした。

しかし、よくよく思い出してみると、その幼稚園でバッタ捕りをしていたのは私一人だけだったような気がします。「すごいね」と言ってくれた先生の笑顔も、今思えば引きつっていたような。

過去を振り返ると、思い出さなくてもいいことまで思い出してしまうものです。

  一つだけ心残りなのは、捕獲したバッタをどうしていたのか、まったく思い出せないことです。捕ることにしか興味がなかったのでしょう。願わくは、俊介少年にキャッチ&リリースの精神が宿っていたことを。






大谷  俊介(2012年1月30日記)


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