あるえん罪事件から学ぶ


  むかしむかし。私が大学を留年して、暇で暇で身もだえしていたころのお話しである。

  近所に、ラーメン屋が新規開業することになった。民家を改造したような、小さいラーメン屋。そして、オープニング記念ということで、「1杯200円!」という企画をやった。新聞のチラシで発見して、貧乏な私は、友達をさそって、出掛けることにした。
  オープン当日、ラーメン屋には長蛇の列ができた。店じたいのキャパが小さく、調理の処理も追いつかないようで、客はなかなか回転しなかった。列は瞬く間に長くなっていった。
近所には一般民家も多い場所であった。店の真向かいには月極駐車場があった。自転車で来ている客たちが無造作に駐輪するもので、月極駐車場の出口も、あっという間に自転車で塞がれるような状態になっていった。
  案の定、車が出せなくて困っている男性がいた。駐車場の出口には自転車がいっぱいだ。
人が困っている時には照れずに割と気軽に手伝うのが私の数少ない長所であった。列に並んでいた私は、これに見かねて、列の方は一緒に行っていた友人に場所を取っておいてもらい、駐車場のほうへ歩いていった。そして、邪魔な自転車をどける作業をした。その辺にいた人も手伝ってくれた。5台も6台もどけないと車が通れない。
  もっと考えて置けばいいのに、近所の迷惑も考えろよなー、と、心の中でつぶやいた。

  「アホンダラ!  もっと考えて置けや!  ええ大人やろが!」
え?  私の心の中のつぶやきが、私に向かって発せられた。車のドライバーの男性からである。ドライバーは、このような捨て台詞を吐いて、アクセルワークも荒く走り去った。

  思うに、これは完全に濡れ衣、えん罪ではなかろうか。良かれと思ってしたことが裏目に出ることほど気分の悪いものはない。それから小一時間待ってラーメンにありついたが、全然うまくなかった。
  この店は1年持たずに閉店したように思う。

  この事件から得た教訓であるが、「えん罪はいけないんだ!」ということを声高に言うつもりはない。こんなくだらない濡れ衣を例に挙げるのでは、本物のえん罪に苦しんでおられる方に申し訳ないからである。
  頭に来ても冷静になりましょうということである。

  ある日、銀行のATMで並んでいたら、後ろから抜かされるではないか。でも列に並んでいる人は何もいわない。あ、また抜かされた。どういうことやねん!なんか言うたろかと思ったが、よく観察すると、列を抜かした人の向かった先は、両替専用機であった。
  いい大人は、冷静でいましょうね。    

豊福  誠二(2013年3月22日記)


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