日の丸・君が代を国旗・国歌とする法律案提出に関する声明(1999年7月13日)


  政府は、日の丸・君が代を国旗・国歌とする法律案を提出し、今国会で成立をはかろうとしている。
  法案では、これの尊重規定や義務規定は盛り込まれていない。
  しかし、法制化されていない現在でも、公立の小中高等学校の入学式・卒業式では、文部省通達や学習指導要領を根拠として、日の丸掲揚・君が代斉唱が事実上義務付けられてきている。そのなかで、反対する教職員が職務命令違反に問われ処分を受けたり、つい先頃は、教育委員会との板挟みになった校長が自殺するという痛ましい事件なども起こっている。
  このような状況のなかで、一方で唐突な形で法律案が提出され、他方で、法制化をはかる目的について、政府が「教育現場に対して文部省の学習指導要領だけで根拠付けるのには無理がある」としていることなどを考え合わせると、その法制化が、義務化を一層押し進める結果をもたらさないかが懸念される。
  ところで、国旗・国歌であっても、その掲揚や斉唱を国民一般に義務づけることは、愛国心の表明の強制につながり、憲法19条(思想及び良心の自由)・21条(表現の自由)、国際人権(自由権)規約18条(思想・良心及び宗教の自由)・19条(表現の自由)、子どもの権利条約14条(思想・良心及び宗教の自由)等が保障する精神的自由権の侵害にあたる。このことは、星条旗への敬礼を義務付けた教育委員会の決議を憲法違反としたアメリカ連邦最高裁の、バーネット事件判決(1943年)以来、確立されてきた法理である。公立の学校現場においても、この理は、最大限生かされるべきであり、国旗掲揚や国歌斉唱が、教職員や生徒・児童への強制に及ぶようなことがあってはならないと考える。
  そもそも国旗・国歌の法制化にあたっては、何を国旗・国歌とするかはもとよりのこと、法制化すべきかどうかも含めて広く国民のコンセンサスを得て行うべきものであることは当然のことである。とりわけ日の丸・君が代については、歴史的な経緯や歌詞の意味内容等から国旗・国歌とすることに疑問視する意見があるうえ、それを国歌・国旗とすることに賛成をする国民も、直ちに法制化することについては、消極的見解も多々見られるところである。
  当会は、日の丸・君が代を是とする立場、否とする立場を越えて、未だ十分な国民的コンセンサスを欠いている現状の中で、義務化に法的根拠を与え、それを押し進めることにつながるおそれのある法制化は、すべきではないと考える。今回の法案について、十分かつ慎重な論議と検討を尽くすことを強く要請するものである。



1999年(平成11年)7月13日

京都弁護士会

会長    村  山     晃


関連情報