脱無趣味計画


  趣味はなんですか、と尋ねられてうろたえた経験はないだろうか。
私はある。人から趣味を尋ねられたり、履歴書等に趣味を記載する欄があるとうろたえてばかりいる。
  この日本社会において、趣味はとくにありません、などとこたえれば、その場に微妙な空気が流れることは必至である。これまで私はその場の空気にあわせて水泳、旅行などとこたえてお茶を濁してきたことを正直に告白しなければならない。勿論、全くの嘘だというわけではない。しかし、堂々と趣味というにはむずがゆいこの気持ちをわかっていただける方も多いのではないだろうか。このようにお茶を濁してきた日本人は私の推定では1000万人を下らない。

  こころみに、事務所で受け入れている司法修習生に趣味をきいてみた。
  「はい、趣味はハワイに行くこととお酒を飲むことです」。
  うむ。よい。
  それって趣味といえるのか、というゆるい感じがよい。こういう人間に会うと私は心底ホッとする。
  しかし、残念ながら世の中はゆるい人間ばかりで構成されているわけではない。京都弁護士会の同期にも、趣味を謳歌しかつ秀でた実績を残す者が存在する。日ごろ仲良くさせてもらっているが、彼らと私の間には暗くて深い川が流れている。
  たとえば、Y先生はスキューバダイビングのインストラクターの資格をもっている。インストラクターということはお金を稼ぐことも可能だということだ。趣味がアマチュアであることを前提とするならば、これは革命といってよい。
  I先生はブレイクダンス世界大会で2位である。私にとって、ブレイクダンスといえば風見慎吾であり、風見慎吾といえばブレイクダンスである。そんな私にブレイクダンスを語る資格はないことは重々承知だ。それでもI先生の偉業は伝わってくる。私も世界2位になりたい。そして、銀メダルをかじりながら記念撮影に応じたい。

  そういうわけで、私の今年の目標は趣味をつくることである。もっとも、慌ててトライアスロン、アマチュア無線、ケーキ作りなど分不相応なものに手を出す愚は犯すまい。
  カメラって面白いかも。神社仏閣巡りでもしてみようか。やっぱりゴルフくらいできないといけないかな。今日も私は思い悩むのである。

  

山田  智久(2013年5月2日記)


関連情報