住民基本台帳法改正法案に関する声明(1999年7月13日)


  現在国会では、住民基本台帳法の一部を改正する法律案が審議中であるが、この法案には、下記のような問題が存在する。
まず、第一に、収集される情報が制限されていない点である。すなわち、法案では、保有情報を氏名、生年月日、男女の別、住所及び住民票コードの基本4情報としている。しかし、その反面、住民基本台帳カードの発行に関し、各自治体によるそのカードを利用した他の目的での利用を予定しており、収集される情報の範囲について明確な制限規定を置いていない。そのため、自治体独自の活用として、どのような情報がコンピューターに記録されることになるのかは、事実上無限定であり、無制限な情報が集積される危険性がある。
  次に、利用についての制限が確保されていない点である。すなわち、法案は、本来の目的以外での利用をしてはならない旨規定するのみで、提供目的違反に対する罰則規定もない。そして、行政機関によるデータベースと他のデータベースのコンピューター処理での結合を禁止していない。特に、データの結合禁止が規定されていないことは、オンラインによりネットワーク化されたシステムの中で、将来、税務、医療、教育、年金・福祉、家族、犯罪情報など無制限な情報の集約とその相互利用を可能とするものであり、住民基本台帳法の目的を著しく逸脱する危険性をはらんでいるといえる。
  さらに、国民による情報のコントロールが十分に図られていない。すなわち、現行の行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)では、処理情報の開示請求権を認め、開示請求による書面開示を原則として義務づけているが、開示請求対象外事項と不開示事項を広範に認めることで、個人情報の保護が実質的に形骸化している。また、情報の目的外利用について、個人の中止請求権も認められていない。そして、法案は、個人情報の訂正についても、訂正の申出及び再調査の申出ができるだけであって、訂正請求権を認めていないため、どのように訂正されるのかは、保有機関の判断にゆだねられているのである。これでは、情報が間違っていても適正に訂正することができない。
  加えて、適正な管理による個人情報の保護も図られていない。すなわち、法案は、実施機関が外部に個人情報の処理を委託できることを原則として認めている。また、データ内容の正確性・最新性については、個人情報保護法において、抽象的に措置を講ずることを努力規定として定めるのみである。これでは個人情報の適切な保護が図れない。
  このように、法案が成立すれば、個人に関するさまざまな情報が、さまざまな機関に、保有される危険があり、その利用の実態を知ることができず、しかも知りえたとしても、訂正する適切な権利が与えられないという状況を招くおそれがある。これは、国家による国民の集中管理であるといえ、憲法13条が保障するプライバシー権の侵害以外のなにものでもない。
  よって、当会は、このような住民基本台帳法の一部を改正する法律案について、強く反対するものであることを意見表明するものである。



1999年(平成11年)7月13日

京都弁護士会

会長    村  山     晃


関連情報