意見書

「戸籍謄本等の第三者交付に係る本人通知制度」の廃止及び職務上請求の除外を求める申入書


2014年(平成26年)5月19日

井手町長  汐  見  明  男  殿


京  都  弁  護  士  会

会長  松  枝  尚  哉



「戸籍謄本等の第三者交付に係る本人通知制度」の廃止

及び職務上請求の除外を求める申入書



申入の趣旨


当会は貴町に対し、「戸籍謄本等の第三者交付に係る本人通知制度実施要領」に基づく本人通知制度の廃止を求めるとともに、少なくとも、同要領第8条第1項を以下のとおり改正し、又はそれに類する規定を定めることにより、速やかに弁護士等による職務上の請求を「本人通知制度」の対象から除外するよう求めるものです。

(登録者への通知)
第8条  町長は、登録者に係る戸籍謄本等を第三者に交付したときは、当該登録者又は法定代理人に対し、戸籍謄本等の第三者交付に係る本人通知書(様式第4号。以下「通知書」という。)により通知するものとする。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
(1)住基法第12条の3第2項又は同法第20条第4項の申出(同法第12条の3第4項第5号(同法第20条第5項の規定により準用する場合を含む。)及び住民基本台帳法施行令第15条の2(同施行令第21条の規定により準用する場合を含む。)に規定する業務に係るものに限る。)に対し交付したとき。
(2)戸籍法第10条の2第4項又は第5項(同法第12条の2の規定により準用する場合を含む。)の規定による請求により交付したとき。
(3)その他町長が認める特別な理由に基づく申請又は請求により交付したとき。


申入の理由


1  貴町は、本年4月1日より事前登録型本人通知制度を開始しておられます。また、「戸籍謄本等の第三者交付に係る本人通知制度実施要領」(以下「本件要領」という。)によると、弁護士等が職務上行う住民票の写し等の請求においても、特段の例外を設けることなく通知の対象とされています。

2  当会は、2012年(平成24年)9月20日に「事前登録型本人通知制度の導入に反対する意見書」を採択し、翌21日にこれを発表するとともに、貴町にも同意見書を送付しております。
同意見書でも指摘しているとおり、貴町が導入した事前登録型本人通知制度は、戸籍謄本や住民票の写し等の不正取得の抑止・防止を目的とするものですが、同制度導入による不正取得防止の効果は大いに疑問であります。それどころか、同制度導入により、市民が依頼する弁護士等の専門家による他方当事者や紛争の相手方の戸籍謄本や住民票の写し等の取得が困難または事実上不可能になる場合が生じ、多くの市民が希求する、遺言、後見、不動産登記、民事保全、交渉・訴訟等の法に基づく正当な権利の円滑な実現が妨げられるおそれがあるものです。

3  職務上請求を除外しない本人通知制度の弊害は極めて大きい
弁護士等の専門家は、その職務遂行のため、受任している事件について、必要がある場合は、職務上請求書に必要事項を記載するなど所定の手続を踏み、他方当事者や紛争の相手方の住民票の写し等を取得することができるとされています(以下「職務上請求」という。戸籍法第10条の2第4項、住民基本台帳法第12条の3第2項)。
この職務上請求は、市民が弁護士等の専門家に対し、遺言、後見、不動産登記、民事保全、交渉・訴訟等の手続や事件を依頼した場合、他方当事者や紛争の相手方の戸籍謄本や住民票の写し等を取得する必要があるため、法が特別に認めたものです。もし、このような専門家による職務上請求が認められなければ、遺言の作成、後見の申立て、不動産登記、債権の回収や保全、交渉、訴訟提起等を行うことが不可能もしくは著しく困難になる場合が生じ、結局は弁護士等の専門家に依頼して行う市民の権利の実現が妨げられるおそれがあります。
すなわち、弁護士等の専門家が他方当事者や紛争の相手方の戸籍謄本や住民票の写し等を取得する職務上請求は、市民の法に基づく正当な権利の円滑な実現こそをその目的とするのであり、市民の正当な権利利益の保護のため、職務上請求の円滑な行使が確保されなければなりません。
ところが、事前登録型本人通知制度から職務上請求が除外されない場合、弁護士等の専門家が職務上請求により、他方当事者や紛争の相手方の住民票の写し等を取得すると、取得の事実が当該相手方に直ちに知られることになります。そうすると、その事態を避けるため、職務上請求が困難又は事実上不可能になる場合が生じ、結局、多数の市民が希求する、専門家に依頼して行う法に基づく正当な権利の実現が妨げられてしまうのです。
例えば、弁護士の行う業務についていえば、多くの場合において相手方に知られることなく作業を進めるいわゆる密行性が求められます。このような密行性の求められる業務について、本人通知が行われた場合には、その密行性は当然に破られてしまい、①相手方が仮差押え、仮処分、強制執行等の執行免脱行為をなし権利の保全や実現が果たされなくなる危険、②遺言書作成の事実を秘密にしたい場合でも相続人らに知られてしまう危険、③訴訟等の準備のための資料収集を察知され訴訟等をしないように圧力をかけられる危険、④相手方からの「住民票等を勝手に見られた」という被害感情や反発を招き円滑な交渉が図れなくなる危険等が招致される。そして、その結果、⑤相手方に住民票の写し等の取得を知られることによる上記危険の招致を恐れて正当な権利行使そのものを控えてしまう事態(萎縮効果)すら招きかねないものです。
このように、職務上請求を除外することなく事前登録型本人通知制度が実施されることの弊害はきわめて大きいものです。そうすると、本人通知制度は職務上請求を定める戸籍法等の趣旨に反するおそれがあり、これを地方自治体が条例で定めることは違法です。これを要領で定めたとしても、違法のそしりを免れるものではありません。

4  職務上請求について、不正取得防止のための制度が整備されている
(1)  刑罰法規による処罰・資格剥奪の制裁
そもそも、弁護士等の専門家が不正に住民票の写し等を取得することは、犯罪であり、戸籍法、住民基本台帳法、刑法等による処罰が予定されています。そして、それに加え、弁護士法等の士業法に基づく資格の剥奪等の制裁があります。弁護士等の専門家にとっては、資格剥奪は業界における死に等しい制裁であり、そのような危険を冒してまで不正をなすことは極めて稀な例です。
このように弁護士等の専門家は、法の専門家としての自らの使命感に加え、刑罰法規や弁護士法等の士業法の規制によって、不正を防止するための措置が採られているものであり、これをさらに本人通知制度の対象としなければならない必要性はないというべきです。
(2)  戸籍法及び住民基本台帳法の2008年(平成20年)改正
戸籍法及び住民基本台帳法の改正により、弁護士等の専門家が住民票の写し等の職務上付請求を行うに際し、その有する資格、当該業務の種類、依頼者の氏名等所定の事項(ただし受任事件に紛争性があり、弁護士等が代理人として処理する場合は依頼者の氏名、必要とする理由の詳細な記載は不要である。)を明らかにすることが要求され、この改正法が2008年(平成20年)5月1日から施行されました。
これを踏まえ、当会においても不正取得防止のための自主的な規制を強化しているところです。具体的には、弁護士が職務上請求を行う際の申請用紙について、弁護士に対する配布冊数を制限するとともに、配布した申請用紙の番号を管理することにより、どの用紙がどの弁護士の管理下にあったかが調査可能な態勢を整えています。
(3)  不正取得本人通知制度の導入
また、京都府によれば、すでに京都府下の全市町村において、不正取得本人通知制度が導入されており、住民票の写し等を不正に取得された場合、取得の事実及び取得者の氏名等が通知されることになっています。
    このように、弁護士等が職務上行う住民票の写し等の請求については、不正取得を防  
  止する制度が別途整備されており、職務上請求を事前登録型本人通知制度の例外として除外しないことの必要性は乏しいというべきです。

5  当会は、同意見書のとおり、事前登録型本人通知制度そのものの導入に対して反対していますが、上述の理由から、少なくとも、職務上請求について、事前登録型本人通知制度の例外として除外される必要性は極めて高く、速やかに、本件要領につき申入の趣旨記載の改正をされたく申し入れる次第です。
なお、宮津市、綾部市、南丹市、亀岡市及び京丹波町では、既に弁護士等による職務上請求を除外する旨の規定を含む要綱が制定されているところですので、その旨申し添える次第です。

以  上


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