当会会員の裁判官不採用に関する声明(1999年6月10日)


  当会会員國弘正樹弁護士は1998年(平成10年)12月4日、最高裁判所に対し、大阪高等裁判所を通じて弁護士任官制度に基づく裁判官任官の希望を申し出た。
  これに対し、1999年(平成11年)2月26日、大阪高等裁判所事務局長から回答がなされたが、その内容は、「折角の申し出であるが残念ながら採用できないという結果になった。その理由は諸般の事情を総合的に判断した結果としかいえないが、期の割に年齢が高く処遇が難しいということも理由の一つである」というものであった。
  國弘弁護士は、様々な職業に就き豊富な社会経験を経たのち法律職を志して1983年(昭和58年)弁護士の職に就き、以来、当会会員として16年余にわたる弁護士活動に従事し、その能力、識見ともに裁判官として十分なものを備えていることは当会会員の等しく認めるところである。1991年(平成3年)9月12日、最高裁判所事務総長が日本弁護士連合会に対して示した「弁護士からの裁判官採用選考要領」によれば、「選考を受けるものができる者」の要件として「55歳くらいまでのもの」とされているが、國弘弁護士は申出時に52歳であるからその点について何ら問題とはならないはずである。また、これまで弁護士任官の要件において期と年齢の関係が問題とされたこともない。従って、國弘弁護士について特に期や年齢を不採用の理由とすることは甚だしく合理性を欠くものといわざるをえない。
  国会においては、内閣に司法制度改革審議会を設置する法案が成立し、司法制度改革について本格的な論議が始まろうとしている。ここでは、裁判官を、弁護士を中心とする法律実務家から任用する法曹一元制度の導入も審議の対象とされることが確実視されているが、従来、弁護士任官が低調であることを法曹一元制度の導入に対する消極的理由として挙げる論者がある。しかし、國弘弁護士のように不採用も何ら合理的な理由が示されないこと、和歌山弁護士会その他の弁護士会には、任官希望を申し出たにもかかわらずこれに対して長期間何らの明確な採否の回答が得られないまま放置されている弁護士が相当数存在していることなど、最高裁判所の任用態度がきわめて不明朗かつ恣意的なものであることが弁護士任官を低調ならしめている大きな原因のひとつであるといわざるをえない。最高裁判所は、かかる事実を謙虚に受け止め、国民にとって望ましい裁判官を確保するという観点に基づいて明瞭な弁護士任官採用基準を定め、これを公表するとともに、申出者本人と国民の納得しうる公正かつ透明な任用をすべきである。
  当会はここに、最高裁判所に対し、國弘正樹弁護士の裁判官不採用の決定について、深い遺憾の意を表明するとともに、弁護士任官における任用基準を明確にするよう求めるものである。
  そして、当会は、法曹一元制度の導入にむけて一層の努力を傾注する決意をあわせて表明するとともに、最高裁判所に対し、法曹一元制度の導入にむけて真摯な検討を行うことを求めるものである。



1999年(平成11年)6月10日

京都弁護士会

会長    村  山     晃


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