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  弁護士になる前、ライターの仕事をしていたとき。ラーメンの食べ歩き取材を引き受けたことがある。秋口に出版するということで、原稿は夏の暑い盛り、8月中くらいをめどに仕上げねばならない。たしか7月下旬くらいからだったと思うが、左京区のラーメン店を20軒弱、カメラマンと一緒に食べ歩いた。

  お店の都合もあるしこちらの都合もあるしで、毎日1店ずつなどという穏やかな取材の日々になるはずもない。多いときは、お昼前後に3軒連続で取材した、つまりラーメンを3杯、ほぼ立て続けに食べた。しかも、当時はまだつけ麺とかが流行っていない時代で、どれもこれもスープは熱い。冷房のきいた店内で食べるとはいえ、真夏の蒸し暑さに体力がじわじわとむしり取られる季節である。日を追うごとに、取材に出かけるのが微妙に億劫になっていった。人間だもの。しょうがないよね。

それでも、さすがはラーメン激戦区と呼ばれる左京区のラーメン店から、出版社の社員アンケートで選び抜かれた、実力派の店たちである。どの店も麺やスープにこだわりと工夫があり、実に美味い。食べ始めると、味の秘密や店主のこだわり、店の歴史など、あれこれ尋ねたいことが次々に湧いてくる。詳しく聞いても限られた字数にまとめ上げるのが大変なだけだが、かまってられない。ネタは多い方が良いとばかりに、聞くしかない。
結局、取材が始まってしまえば、朝出かけるときの億劫さはどこへやら。ラーメンも、カメラマンと分けて食べたもの以外は、完食したし、追加取材で客としてこっそり食べに行った店もあった。プロ魂か、食い意地か。はたまたその両方のなせる業か。明言は避ける。

真夏の昼下がり。ひたすら食べる、ラーメン、ラーメン、ラーメン。
今にして振り返れば、ぜいたくな思い出だが、やはり、過ぎたるは及ばざるが如し。
取材が終わって2年くらいは、「麺」一般を見るだけでげんなりしてしまう、そんな日々が続いていた。友人らと食事に行って、連れがパスタを頼むのを見ただけで、ちょっと気分が悪くなる。さっきまであった旺盛な食欲が雲散霧消、消し飛んでしまう。そんな、自分でもちょっと信じがたい心理状態の日々であった。まあ、人間だもの。しょうがないよね。

今はもう、ふつうにラーメンも食べられるまでに、記憶も薄れた。

ところで、あの取材の中で、最も美味しかったものは何か。出版された本の中では書けなかった真実を、今、ここに明かそう。
取材を通して、最も美味しかったもの。それは、某店店主が、取材用のラーメンを食べ終わった私とカメラマンに、自慢げに出してくれた夏季限定のスペシャル・メニュー、冷麺であった。
その日、すでに3杯のラーメンを食し終えていた私は、店主の提案に、一瞬、気を失いそうになった。もう何も食べたくないよと。しかし、あまりに嬉しそうな店主の笑顔に断り切れず、食べ始めてみると、意外や意外。さらなる食欲をかき立てる素晴らしい一品で、あっという間に完食した。
数年後、客としてあらためて食べに行ったときは、取材時のような感動はなかったのだけど。

ラーメン漬けの日々の、一服の清涼剤であった冷麺。
食の感動を生むのは材料や調理方法だけではない。
そんなことを実感させた、一杯の冷麺であった。

仲  晃生(2014年6月9日記)

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