「福井地方裁判所の大飯原子力発電所運転差止認容判決についての会長声明」(2014年6月26日)


  2014年(平成26年)5月21日、福井地方裁判所は、関西電力株式会社(以下「関西電力」という。)に対し、大飯原子力発電所(以下「大飯原発」という。)から250キロメートル圏内に居住する住民の人格権に基づく大飯原発3号機及び4号機の運転差止請求を認容する判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
  2011年(平成23年)3月11日に起きた福島第一原子力発電所における放射性物質の大量放出事故(以下「福島原発事故」という。)は、未曾有の大災害であった。福島原発事故後3年以上経過した現時点においても、事故原因は依然として明らかではなく、被害救済は遅々として進んでいない。このような惨禍を二度と繰り返してはならない。
  2012年(平成24年)2月23日、当会は、国及び関西電力等に対して「福井県内に設置された原子力発電所及び原子力施設に関する意見書」を提出し、福島原発事故の原因を解明し、万全の安全対策を講じない限り、停止中の原子力発電所の運転を再開しないよう求め、10年以内のできるだけ早い時期に全ての原子力発電所を廃炉にすることなどを求めた。にもかかわらず、国は大飯原発3号機及び4号機の再稼働を容認する決定をした。そこで、同年6月18日、当会はこの決定に強く抗議し、関西電力が今後、同原発を再稼働しないことを求める「関西電力大飯原子力発電所の再稼働に対する会長声明」を発した。それでもなお、同年7月、関西電力は大飯原発3号機及び4号機の運転を開始した(現在は定期点検のため停止中である。)。
  本判決は、基準地震動を超える地震が発生しないというのは楽観的な見通しにしかすぎず、基準地震動に満たない地震であったとしても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得る等の理由から、大飯原発における危険が現実的で切迫した危険であると断じた。
  また、使用済み核燃料の危険性が極めて高いことも明確に示した。
  そして、人格権が、経済活動の一手段に過ぎない原子力発電所の稼働より優先されるという正しい価値判断を明示した。これらの判示は、当会のこれまでの意見書及び会長声明にも沿ったものである。
  さらに、本判決は、「原子力発電技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさは,福島原発事故を通じて十分に明らかになったといえる。本件訴訟においては、本件原発において、かような事態を招く具体的危険性が万が一でもあるのかが判断の対象とされるべきであり、福島原発事故の後において、この判断を避けることは裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しい」と述べて、福島原発事故の惨禍を省みずに原子力発電をベースロード電源と位置付ける国の姿勢に追随せず、我が国に住む人々の生命・生活の安全に正面から向き合い、これを擁護する実体判断を示した。
  当会は、基本的人権の擁護という司法の役割を自覚し、積極的に判断を示した裁判所の姿勢を高く評価する。
そして、国、地方公共団体及び事業者に対し、本判決を重く受け止め、189名の本件訴訟における原告住民や弁護団、福島原発事故の被害に苦しむ人々、そして原子力発電所によって人格権を脅かされることのないようにしたいと願う全ての人々の想いを受け止め、本判決を端緒とし、原子力発電に依存する姿勢を転換するよう、改めて強く求める。


      2014年(平成26年)6月26日


京  都  弁  護  士  会

会長  松  枝  尚  哉



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