死刑執行に対する会長声明(2009年2月17日)


1、去る1月29日、東京拘置所で1名、名古屋拘置所において2名、福岡拘置所において1名、計4名の死刑確定者に対する死刑が執行された。
  昨年中に死刑を執行された確定者は15名となり、過去30年間で最多であった。今回の死刑執行は、昨年10月から3カ月という短期間での執行であり、人数も4名と大量である。当会は今回の執行に強く抗議する。
  我が国では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっている。そして、現在に至るも、このような誤判が生じるに至った制度上、運用上の問題点について、抜本的な改善は図られておらず、誤判の危険性が払拭されないままである。また、死刑と無期懲役の量刑につき、裁判所によって判断の分かれる事例が出されており、死刑についての明確な基準が存在しない状況にある。
  さらに、死刑確定者に対しては、外部交通が厳しく制限され、再審請求や恩赦出願をはじめとする権利行使の妨げとなっているなど、その処遇の問題点も指摘されている。
2、死刑廃止は国際的な潮流となっている。
  1989(平成元)年、国連で国際人権(自由権)規約第二選択議定書(死刑廃止条約)が採択され、EU加盟国はすべて死刑を廃止し、世界の半数を超える国が法律上あるいは事実上死刑を廃止している。さらに、2007(平成19)年12月には、国連総会本会議において、すべての死刑存置国に対して、死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の一時停止を求めることなどを内容とする決議が初めて採択された。
  昨年5月には、国連人権理事会より日本政府に対し、死刑執行を停止するよう勧告がなされている。また、10月30日には、国連に事務局を置く「市民的・政治的権利に関する国際規約」委員会が日本政府に対し、死刑制度の撤廃を検討するよう求める勧告を出した。
  当該勧告は死刑制度存続への支持が多い世論調査の結果とは関係なく、死刑制度の撤廃を前向きに検討し、国民にも廃止が望ましいことを知らせるべきであるとの内容となっている。
3、死刑の執行をことさら急ぐべきではない。
  かかる国際社会からの要請に対し、今、我が国に求められていることは、上記決議や勧告にどのように応えるかも含めて、死刑制度の存廃について早急に広範な議論を行うことである。
  我が国は、2006年に発足した国連人権理事会の初代理事国となった。
  昨年5月には自民、民主、公明、共産、社民、国民新党の議員で構成される「量刑制度を考える超党派の会」が結成され、死刑と無期刑との間に仮釈放を認めない終身刑の創設が提案されるなど国会の中で死刑についての論議が始まっている。
  日本弁護士連合会は、死刑制度の存廃につき議論を尽くし、死刑制度に関する検討及び改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱している。そして、死刑執行のなされるつど、法務大臣に対し、死刑の執行を停止するよう要請している。
当会も2006(平成18)年6月8日、2008年6月26日、同年9月25日、同年11月25日の計4回にわたって死刑確定者に対する死刑執行の停止を要請している。また、死刑制度調査検討プロジェクトチームを発足させ、論議も始めたところである。
4、それにもかかわらず、再び死刑執行がなされたことは極めて遺憾である。
  当会は、死刑制度についての議論が尽くされないまま、極めて短期間に死刑執行が繰り返されていることに厳重に抗議するとともに、改めて、死刑制度の存廃を含む議論が尽くされるまでの一定期間、死刑執行の停止を要請するものである。

    2009(平成21)年2月17日

京都弁護士会              

会長  石  川  良  一


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