「景品表示法における課徴金制度導入に関する意見書」(2014年9月25日)


2014年(平成26年)9月25日


内閣総理大臣                              安  倍  晋  三  殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  有  村  治  子  殿
消費者庁長官                              板  東  久美子  殿
衆議院議長                                伊  吹  文  明  殿
参議院議長                                山  崎  正  昭  殿
消費者委員会委員長                        河  上  正  二  殿

京  都  弁  護  士  会

会長  松  枝  尚  哉
  


景品表示法における課徴金制度導入に関する意見書



第1  意見の趣旨
当会は、消費者庁がこの度公表した「不当景品類及び不当表示防止法及び独立行政法人国民生活センター法の一部を改正する法律案(仮称)の概要」(以下「本法律案」という。)に関して、以下のとおり意見を述べる。
  1  課徴金制度を今年度臨時国会において導入すべきである。
  2  課徴金制度の目的については、事業者による違反行為の事前抑制のみならず、消費者に生じた被害の回復を含むものとし、この点を考慮した制度設計をすべきである。
  3  対象行為については、不実証広告(不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)第4条第2項)についても、課徴金を賦課することが必要である。
  4  課徴金賦課金額の算定について、対象商品又は役務の売上額に「100分の3」を乗じるという課徴金率の水準は、不当表示の事前抑止のために十分な水準とはいえないため、事業者の違反行為を抑制するに足りる課徴金率に引き上げることを検討すべきである。
  5  主観的要素については、不当表示がなされた場合においては、原則として課徴金を賦課することとし、違反行為者から、不当表示を意図的に行ったものではなく、かつ、一定の注意義務を尽くしたことについて合理的な反証がなされた場合を、例外的に対象外とするものとすべきである。
  6  被害回復制度について、違反行為者による特定返金対象者への返金手続又は独立行政法人国民生活センターに対する寄附を行うことにより課徴金納付を命じないこととする制度設計は相当である。ただし、この寄附金の使途については、景品表示法上の不当表示による被害に限定されず、広く、他の法規による表示一般に関する消費者被害の回復や、消費者契約法等の規制する不当な契約問題による消費者被害の回復などにも利用可能な制度とすべきである。

第2  意見の理由
1  はじめに
2013年(平成25年)秋、ホテルや百貨店、レストラン等における食品表示等の不正事案が相次いで表面化した。同年12月には、複数の事業者が、景品表示法の優良誤認表示等に該当する行為をしたものとして消費者庁から景品表示法6条に基づく措置命令を受けている。こうした一連の不正事案の報道や違反事業者への措置命令等により事態は沈静化したかに見えたが、2014年(平成26年)8月には、飲食チェーンを展開する事業者がメニューと異なる食材を使用していたことに関し同社のウェブページ上で謝罪文を公表した。このように、表示に対する事業者の意識は未だに低く、現行の措置命令等の処分によっては、不当表示による被害を防止することが困難であるといえる。
2  提案の理由
(1)課徴金制度導入の必要性
上記1のとおり、措置命令などの現行制度によっては事業者による景品表示法の違反行為がやまない現状に鑑み、これを事前に抑制すべく違反事業者に経済的な負担を課す課徴金制度の導入が必須である。しかも、今なお不当表示による消費者被害が続いていることに鑑み、このような被害を直ちに防止すべく、今年度の臨時国会において景品表示法に違反する不当表示に対して課徴金制度を導入すべきである。
(2)課徴金制度の目的
課徴金制度の目的は、事業者の景品表示法に違反する行為を事前に抑制する点にあるとされていた。しかしながら、不当表示により事業者があげた利益は、本来的には被害者である消費者に還元されるべきものであること、景品表示法の所管が公正取引委員会から消費者の利益保護を目的とする消費者庁に変更され法律の位置づけが変更されたと解されることからすると、消費者利益の擁護、とりわけ不当表示に基づく被害回復をも同制度の目的とすべきである。
  (3)対象行為について
  合理的な根拠資料を有しないまま、優良誤認表示に該当する蓋然性の高い表示により消費者を誘引し取引を行う事業者の行為は悪質であり、課徴金を賦課することにより当該取引によって獲得された事業者の利益を剥奪する必要性は極めて高い。したがって、不実証広告についても規制の対象とすべきである。
本法律案は、不実証広告について課徴金を賦課する対象とし、一定の期間内に当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を提出することによって不当表示の推定を覆すことができるとしているが、この点は相当である。
(4)課徴金額の算定について
本法律案では、課徴金の算定率が対象商品又は役務の売上額に3%を乗じた額とされている。しかし、このような算定率では、仮に課徴金を課したとしても、事業者は、違反行為により得た利益をなお保持し続けることができることになり、違反行為に対する事前の十分な抑止効果が期待できない。不当表示を事前に抑止し消費者の利益を擁護するためには、少なくとも、不当表示によって得られた違法な収益を事業者の手許に残さないといえる程度の課徴金率を定める必要がある。不当表示による利益は正しい表示では販売できなかったことを考慮すれば、3%は低いと考えられる。事業者の違反行為を抑制するに足りる課徴金率に引き上げることを検討すべきである。
(5)主観的要素について
本法律案では、課徴金を賦課する要件として違反行為者の主観的要素を必要としている。不当表示による消費者被害は、違反行為者の故意・過失の有無を問わず生じうるものであり、消費者保護の観点からは不当表示による被害が発生した以上、故意・過失の有無を問わず課徴金を賦課する必要がある。そこで、不当表示がなされた場合においては原則として課徴金を賦課することとし、違反行為者から、不当表示を意図的に行ったものではなく、かつ、一定の注意義務を尽くしたことについて合理的な反証がなされた場合を、例外的に対象外とすべきである。
もっとも、注意義務を尽くしたかどうかは、事案に応じ実質的に判断されなければならず、違反行為者の反証は合理的なものでなければならないものであって、形式的な注意義務を尽くせば足りるとしたり、証明の程度を軽く設定したりすることがないよう、十分な注意が必要である。
(6)被害回復制度について
本法律案では、被害回復制度として、事業者が自主的に消費者に返金することで課徴金の納付を命じないこととするという制度設計が検討されている。不当表示により事業者が得た利益は、本来的には消費者に還元されるべきものである。上記制度は、被害金額全額の返金を要件としていない点で不十分ではあるものの、事業者が自主的に消費者に返金することにより、消費者が不当表示により被った被害を一定程度回復するものである。景品表示法の新たな目的である消費者の利益擁護に沿うものであり、同制度は導入すべきである。
また、本法律案では、事業者が一定額を独立行政法人国民生活センターに寄附した場合に課徴金の納付を命じないこととするという制度設計が検討されている。同制度は、消費者・事業者双方に実益のある制度として評価できる。
ただし、上記寄附と認められる条件として、「景品表示法に関する消費者被害の防止や回復のための活動への助成に充てることを条件とした寄附であること」とされている点は過度の限定であると考える。課徴金制度は不当表示の事前抑止のみならず消費者被害の回復をも目的とすべきであること、表示に関する消費者被害は景品表示法に関連するものだけではないことからすると、本寄附金の使途は、景品表示法違反の事例に限定すべきではない。寄附金の使途を拡大し、消費者の被害回復に広く資する制度とすべきである。具体的には、景品表示法以外の法規による表示一般に関する消費者被害の回復や、消費者契約法等の規制する不当な勧誘などの契約問題による消費者被害の回復にも利用できる制度設計が検討されるべきである。

以  上


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