「『特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案』(いわゆる『カジノ解禁推進法案』)に反対する会長声明」(2014年9月25日)


  国際観光産業振興議員連盟(通称「IR議連」)に属する国会議員によって「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」、以下「本法案」という。)が第185回国会に提出され、継続審議となっている。
  本法案は、カジノ施設を含む特定複合観光施設区域の整備推進を目的とし、そのための関係諸法令を整備するための基本法的な性格を有するものとされ、「カジノを解禁する」という結論の下に、政府に対し必要となる法制上の措置などを講ずることを義務づけるものである。各地で統合型リゾートの誘致が検討されており、京都に接する大阪府も統合型リゾートの誘致を検討している。しかし、本法案に、現在刑法上の賭博罪に該当する行為として禁止されているカジノを合法化するような正当な理由はなく、本法案を容認することはできない。
  2010年(平成22年)6月の改正貸金業法の完全施行及び近時の政府等による多重債務者対策の拡充により、近年多重債務者は激減し、その結果として破産等の経済的に破綻する者や、経済的理由によって自殺する者も大きく減少した(平成26年版自殺対策白書)。
  しかし、カジノが解禁されれば、カジノでの賭け金を捻出するために借入をする等経済的に破綻する者が増えることは容易に想像でき、また、経済的理由による自殺者の増加等、多重債務問題の再燃が大きく懸念されるところである。
  2014年(平成26年)8月20日に発表された厚生労働省研究班の調査によれば、日本国内でギャンブル依存症の疑いがある者は男性8.7%、女性1.8%とされ(推定536万人)、諸外国が1%前後に過ぎない中で有症率は世界的にみても極めて高い。アルコール依存症の疑いがある者が日本国内で男性1.9%、女性0.2%(推定109万人)であることと比較しても、ギャンブル依存症が深刻な社会問題であることは明らかである。そして、ギャンブル依存症は、その患者のみならずパートナーや家族らにも深刻な影響を及ぼすものであり、その損失は非常に大きい。
  その一方で、現在の日本では、治療施設や相談機関の設置、社会的認知への取組みなど、ギャンブル依存症に対する治療体制や予防施策が不十分な状況である。そのような中でカジノを解禁した場合、ギャンブル依存症の拡大を招くおそれがある。
  本法案で想定されているカジノ施設は、宿泊施設や飲食施設、物品販売施設、エンターテイメント施設等と一体となって設置され複合的観光施設とされているというもので、「統合型リゾート(IR)」と呼ばれるものである。
  カジノ施設そのものに青少年が入場することができなくとも、IRでは、宿泊施設や飲食施設等の様々な施設がカジノ施設と一体となっており、家族で出かける先にカジノ施設が存在するという環境になる。
  こうした環境では、賭博というものに対する抵抗感が喪失してしまうおそれがあり、青少年の健全育成という観点からも大きな問題がある。
  また、カジノが解禁された場合、暴力団がカジノに関与することにより、暴力団の新たな資金源確保の機会を与え、マネーロンダリングに利用される可能性があるが、その防止及び排除の具体策は何ら示されていない。
  カジノは賭博場そのものであり、我が国においては賭博行為は「国民に怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、勤労の美風を害するばかりでなく、犯罪を誘発し、国民経済の機能に重大な障害を与えるおそれがある」(最高裁判所大法廷昭和25年11月22日判決参照)として禁止されている(刑法185条及び刑法186条)。
  カジノ解禁によってもたらされる悪影響については、この賭博罪の立法趣旨も踏まえ十分かつ慎重な検討がなされるべきであるが、現状では、カジノ解禁によってもたらされる悪影響について十分に検討されておらず、また、その解決策も何ら示されていない。
  そのような中で、経済効果を期待して安易にカジノを解禁すべきではない。
  よって、当会は、本法案に強く反対し、その廃案を求めるものである。


      2014年(平成26年)9月25日

京  都  弁  護  士  会

会長  松  枝  尚  哉



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