「特定秘密保護法の施行に抗議し、同法の廃止を求める会長声明」(2014年12月10日)


  本日、特定秘密の保護に関する法律が施行された。

  同法は、①特定秘密の範囲が曖昧かつ広範であるため、知る権利を侵害するおそれがあること、②取材活動が広く制限され、報道機関等の取材・報道の自由を侵害し、言論の自由に対する萎縮効果をもたらすものであること、③適性評価制度の導入により、対象となる者及びその周辺の者らのセンシティブ情報を行政機関が収集することとなり、プライバシーを侵害するおそれがあることなど、市民の基本的人権を侵害し、憲法13条、21条等に違反するおそれが極めて高い法律である。

  当会は、同法の制定に対しては、2012年(平成24年)6月21日付「秘密保全法制定に反対する会長声明」、2013年(平成25年)9月26日付「『特定秘密の保護に関する法律案の概要』に対する会長声明」、同年11月28日付「特定秘密保護法案の衆議院での採決に抗議し、廃案を求める会長声明」、同年12月6日付「特定秘密保護法の拙速な採決に抗議する会長声明」をそれぞれ発表し、同法の持つ危険性を指摘し、反対の意思を表明してきた。

  本年10月14日、同法施行令及び運用基準が閣議決定された。しかしながら、そもそも、施行令や運用基準によって同法そのものが持つ根本的な危険性を解消することは到底できない。そして、実際に閣議決定された施行令及び運用基準を踏まえても、やはり同法の危険性は何ら払拭されていない。

  すなわち、①秘密指定できる情報は極めて広範であり、恣意的な特定秘密指定の危険性は解消されておらず、②独立公文書管理監等の制度も、秘密指定行政機関から完全に独立した第三者機関とは言えず、行政機関による恣意的な秘密指定を防ぐことは困難であり、そして、③特定秘密を最終的に公開するための確実な法制度もない。また、④運用基準において通報制度が設けられたが、行政組織内での通報を最優先にしており、実効性のある通報制度とは言えない。⑤適性評価制度についても、評価対象者からの事前同意は一般的抽象的な同意を得るに過ぎず、評価対象者のプライバシーを侵害するおそれが高い。

  同法施行令及び運用基準の閣議決定に先立って実施されたパブリックコメントでは、2万3820通もの意見が出された。寄せられた意見の中には、同法の廃止を求める意見や、同法の施行について慎重に議論すべきとする意見、同法の運用を厳しく制限すべきとする意見などがあった。当会もまた、本年8月22日付で、同法を廃止すべきとする意見書を提出した。それにも関わらず、運用基準(素案)が一部修正されたのみで閣議決定が行われた。

  また、同法に関しては、本年7月、自由権規約委員会より日本政府に対して、秘密指定には厳格な定義が必要であることや、ジャーナリスト等の公益のための活動が処罰の対象から除外されるべきことなどの勧告がなされている。

  以上のとおり、同法は、市民の基本的人権を侵害し、憲法13条、21条等に違反するおそれが極めて高い法律であり、同法施行令及び運用基準によって同法の持つ根本的な危険性を払拭することは到底できないのであるから、同法の施行を是認することはできない。よって当会は、同法の施行に抗議し、同法の廃止を求めるものである。

2014年(平成26年)12月10日

京  都  弁  護  士  会

会長  松  枝  尚  哉


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