提言

裁判員制度を成功させるための提言(2009年1月22日)


2009年(平成21年)1月22日


裁判員制度を成功させるための提言

京都弁護士会                

会  長  石  川  良  一



  裁判員制度は、我が国の刑事司法を改善する大きな契機となる制度である。市民の健全な良識を裁判に反映することにより、無罪推定の原則が実質化され、適正な刑事裁判が実現されることが大いに期待される。また、市民の司法参加によって司法を開かれたものとし、我が国の民主主義をさらに発展させることも期待される。
  しかし、裁判員制度の実施にあたっては、こうした期待とともに、いくつかの課題が伴うことも、これまでに実施された模擬裁判員裁判を通して明らかになった。
そこで、裁判員制度を真に意義のある制度として成功、発展させるために、それら諸課題を克服すべく以下のとおり提言する。

提  言  の  趣  旨

提言要旨
第1  公判前整理手続等に関する提言
  1  公判前整理手続が、被告人・弁護人の防御権を不当に制約するものとならないこと
  2  検察官手持ち証拠を全面的に開示する制度がもうけられること
  3  審理計画を被告人・弁護人の防御や裁判員の理解に配慮したものとし、罪体審理と量刑審理を分離すること
第2  裁判員選任手続に関する提言
      裁判員不選任申立権を実効あるものとすべく、裁判員候補者への質問手続が実質化されること
第3  公判審理手続に関する提言
  1  被告人が、裁判手続全般、とくに裁判員の面前において、無罪の推定を受ける者として相応しい待遇をうけること
2  人証の活用を原則とし、書証の利用をできる限り避けるとともに、取調べの全過程を可視化すること
3  証言あるいは供述の内容をすみやかに確認できる手段が確保されること
4  裁判員に対する説示が、全て公開の法廷において十分になされること
第4  評議に関する提言
  1  裁判員が主体的・積極的に議論に参加でき、その意見を適切に反映できる評議が行われること
  2  裁判員による量刑判断が適正に行われるよう、当事者も共有できる適正な量刑資料を裁判員に提供するとともに、刑罰の存在意義、矯正の実態などについて裁判員の正しい理解を得るように工夫すること、また裁判員の量刑判断の関与のありかた(特に死刑判断への裁判員の関与)について運用の実態に基づき検討がなされること
第5  裁判員の守秘義務に関する提言
裁判員の守秘義務の範囲が明確かつ必要最小限度となるように適切なガイドラインが設けられること
第6  弁護活動の充実に関する提言
裁判員裁判に対応した弁護人の活動のさらなる充実のために、保釈の運用改善や接見の拡充など適切な方策が講じられること
第7  施行後の検証に関する提言
実施3年後の見直しに向け、法曹三者による検証機関を設置し、裁判員経験者の守秘義務を解除して、控訴審の審理の実情も含めて検証すべきこと

  当会としては、裁判員制度の実施にあたり、以上の各課題に関して関係機関に対し提言するとともに、今後新たな課題が問題提起された場合にも本提言書同様に十分な議論及び提言を行うこと、そして当会自身もこの制度の円滑な実施に向けて全力を挙げて取り組む決意であることを、ここに明らかにする次第である。

提  言  の  理  由


第1  公判前整理手続等に関する提言
  1  公判前整理手続における被告人・弁護人の防御権の尊重
(1)「争点及び証拠の整理」を理由とした事実主張及び証拠を制限することの禁止
      「裁判員にわかりやすく」「迅速」という観点から主張及び証拠を制限し、被告人・弁護人が本来提出することのできる主張及び証拠が排除されることがあってはならない。刑事訴訟法は人権保障と真実の発見とを目的としているが、その目的は裁判員裁判においてもなんら変わることはない。裁判員の負担軽減ばかりを強調することにより、刑事訴訟法の本来の目的を害するようなことは絶対に許されない。被告人・弁護人には十分な防御を尽くす権利があるのであり、そのために必要な主張、証拠については、明らかに必要性が認められない限り、提出が認められなければならない。
      また、公判前整理手続の段階で、事実主張を裁判官の判断によって制限することは、裁判員に先行して裁判官が判断の方向性を規定してしまうことになりかねない。裁判官によって排除された主張に裁判員が関心を示し、それを重視することも十分考えられる。そのような場合に、公判前整理手続で整理されているからという理由で評議における議論の対象から外してしまうことは相当ではない。裁判官とは異なる一般市民としての問題意識や視点を裁判に反映させることにこそ裁判員制度の大きな意味があるのである。裁判員が自由に意見を形成できるようにするためにも、裁判官が、公判前整理手続の段階で、法廷に現れるべき事実主張を制限することは差し控えるべきである。
(2)過度の証拠制限の禁止
        公判前整理手続を経た事件については、「やむを得ない事由によって・・・請求することができなかったものを除き、証拠調べを請求することができない。」(法第316条の32第1項)と規定されており、同手続終了後に証拠請求するには「やむを得ない事由」を疎明しなければならないこととされている(規則第217条の30)が、裁判員裁判では、審理途中での審理計画の変更を防ぐために、「やむを得ない事由」が今まで以上に厳格に解され、必要な証拠請求が認められないことが懸念される。
        しかし、「無辜の不処罰」という刑事裁判の使命を貫くためには、弁護側から請求された証拠については必要性がある限りは採用されなければならない。
そのために「やむを得ない自由」は弾力的に解釈されなければならず、また必要な限り職権による証拠採用も柔軟に行われるべきである。その上でさらに必要である場合には、審理計画の見直しも行われるべきである。
(3)期日の指定における準備期間の確保
        公判期日が連日的に行われることは法律の定めるところであり、裁判員の参加に配慮すれば必要性も認められる。しかし、公判前整理手続までを集中して行わなければならない法律上の規定も、必要性もない。
        むしろ、検察官側と比較して人的、物的及び経済的な力の乏しい被告人・弁護人の防御の保障のためには、充分な準備の時間の確保が重要である。
        したがって、公判前整理手続期日の指定にあたって、被告人・弁護人に必要な準備期間を十分に与えるとともに、公判前整理手続終了後、第1回公判までの期間も十分な準備期間が確保されなければならない。
2  検察官手持ち証拠の全面開示
      裁判員裁判においては、争点および証拠の整理、計画審理が要請されている。しかし、実体的真実の発見と被告人・弁護人の防御権の保障を実現しつつ、上記要請に応えるためには、検察官の手持ち証拠(現に手元に所持するものに限定されず、例えば警察に保管されているものなど、検察官が容易に入手可能な証拠も含む趣旨である)を弁護人に全面的に開示する制度の創設が必要不可欠である。
      かかる制度は法改正により実現されるべきではあるが、それまでの間においても、公判前整理手続あるいはその後の審理手続を通じた証拠開示の解釈・運用においてもできるだけ証拠開示がなされるようにすべきである。
  3  審理計画
(1)連日的開廷の運用における真実の発見と防御権の保障への配慮
        裁判員の負担軽減という観点を強調し、審理日数、時間を制限するということは、刑事裁判の目的である「人権保障と真実の発見」を脅かす危険が極めて大きい。
        たとえ裁判員の負担となったとしても、拙速裁判に陥ることなく、十分な審理が尽くされなければならない。
        また、公判審理中においても新たな事実が発見される場合や、証拠調べの必要性が生じる場合もありうる。そのような場合には、審理計画の変更を含めた対応が検討されるべきであって、裁判員の負担ばかりを重視し、必要な審理を尽くさないというような事態は決してあってはならない。
(2)裁判員の理解に配慮した審理スケジュールを組むこと
        模擬裁判において、模擬裁判員から、選定手続当日にいきなり証拠調べまで行われたために、争点と証人の位置づけが理解できないままに証人尋問を聴くこととなり、証言内容が理解できなかった、必要な補充尋問ができなかったとの意見がたびたび聞かれるところである。
        裁判員は、選定手続当日に初めて担当する事件に触れるということを考えれば、証拠調べが始まるまでに、裁判員にも公判前整理手続を経た裁判官と同様の情報を与えて、争点と証拠との関係を十分に理解するための時間的余裕を与えた方が、裁判員は審理の内容をよりよく理解できると考えられる。
      そのため、例えば審理初日は、冒頭手続、検察官・弁護人の冒頭陳述までとする審理スケジュールを原則とする等の工夫が必要である。
(3)罪体と量刑の審理を分けるべきこと
        裁判員に対して、罪体審理の段階において前科、余罪、被害感情等の量刑事情を情報として与えてしまうことは、予断と偏見による誤った判断をするおそれがある。被害者参加人による意見陳述等を事実認定についての審理以前に行うことも同様である。
        少なくとも、事実関係について争いがある事件については、罪体に関する証拠調べの段階で量刑事情に関する主張、証拠調べをすることは絶対的に禁止されるべきである。また、将来的には法制度として事実認定手続と量刑手続を二分する制度の採用が検討されるべきある。

第2  裁判員選任手続に関する提言
    これまでに実施された模擬選任手続では、「今日から○日間裁判に参加していただくことは可能ですか」といった形式的な質問しかなされていないが、こうした質問は、事前の書面照会と重複する質問であり意義に乏しい。
    当事者には、不公正な判断をするおそれのある裁判員を排除する権利が認められているのであり、不選任の権利を実質化するためには、事件内容に即してより踏み込んだ質問こそがなされなければならない。
    この点につき、法律上は、当事者も裁判長を通じて候補者に質問をすることができることとなっているものの、裁判長の裁量次第で全く当事者が質問できないという状況も考えられる。裁判官が選任手続を短時間で終わらせようとする場合には選任手続は儀式と堕する危険がある。
    当事者の不選任の権利を実効化するため、裁判長は、当事者が求める質問については、それが不適切である場合を除き裁判員に対して尋ねるような運用がなされるべきである。

第3  公判審理手続に関する提言
  1  被告人の裁判手続全般、とくに裁判員の面前における待遇について
(1)総論
        裁判員裁判において無罪推定の原則を真に貫くためには、一般人である裁判員に被告人に対する予断を与えうる要素を徹底的に排除することが必要である。単に裁判員に対して無罪推定・予断排除の理念を口頭で説明するだけでは不十分である。
        被告人の待遇については、その外見を含めて、予断を排除し、検察官と対等の当事者である地位を有することに相応しいものとしなければならない。
  (2)服装
        ノーネクタイ、サンダル履きの「犯罪者のような」服装は、裁判員に予断を抱かせる危険性が大きい。身体を拘束されている被告人についても、ネクタイ、ベルト、革靴の着用が認められるべきである。
  (3)入退廷時の手錠・腰縄
        手錠・腰縄をした被告人の姿は、身体拘束の事実をストレートに表現し、裁判員に対して、犯罪者あるいは危険な人物との印象を強く与えるものである。そこで、手錠腰縄についてはその解錠を、裁判員の入廷前に行い、施錠は退廷後に行うという運用に改善されなければならない。さらには、被告人が法廷外で手錠・腰縄を外した後に、入廷するという運用も検討されるべきである。
  (4)着席位置
        被告人の着席場所についても、刑事裁判の当事者たるに相応しい位置でなければならない。そして、連日的開廷のもとで、被告人と弁護人とが密接に細やかな意思疎通をはかるためにも、弁護人の隣に着席することも許されるべきである。
        また、警護職員についても、被告人のすぐ隣や真後ろの位置に着席することとした場合、裁判員が被告人を見るときに常に警護職員が目にはいることになり、被告人を警護の必要な危険な人物であると印象づけることとなってしまう。したがって、警護職員については、警護の目的に反しない程度に被告人とは離れた位置、裁判員から見て被告人と一体に見えない位置に着席させるべきである。
(5)呼称
        当該被告人が、「被告人」と呼ばれている事実自体が予断と偏見とを生ずる要素となりうる。無罪推定の及ぶ被告人は、裁判手続全般を通し、とくに裁判員の面前においては、その氏名でもって呼称されるべきである。
2  人証の活用及び書証の利用制限等
(1) 人証の活用
    これまでの裁判においては、争いのない事実についても、捜査機関が作成した書証を提出し、その証拠採用に弁護人が同意するという方法で証拠調べが行われてきた。しかし、そうした書証は多かれ少なかれ捜査機関の主観が反映されたものであって事実を客観的に記載したものではなく、あるいは審理に必要とされる事実以外の余事記載があることから、連日的開廷による集中的な審理における裁判員の理解という観点からは、事実認定の証拠とするのが不適当である。
    そこで、争いのない事実の立証であっても、人証の活用を原則とすべきである。
(2)合意書面の活用
    上記同様に、かりに書証による必要がある場合であっても、争いのい事実の立証については、より適正な書証の利用という観点から、合意書面(刑事訴訟法327条)が積極的に活用されるべきである。
(3)被告人供述調書の不採用
    被告人が公判廷において供述し、その信用性の吟味も反対質問によって十分になされうる以上、ほとんどの場合において、被告人の供述調書を証拠とすべき必要性を認めることはできない。争いのない事件においても、裁判員の理解という観点からは、合意書面の活用と被告人質問で行うことが望ましい。
    したがって、被告人の供述調書は、原則として証拠として採用すべきではない。
(4)取調べの全過程の可視化
      また、被告人等の捜査段階の供述の任意性が問題となるような場合には、取調べ状況の全過程を録画した映像記録が証拠とされるべきである。これがなされていない限り、「的確な立証」(規則第198条の4)がないとして任意性が否定されるべきである。
(5)刑事訴訟法第321条第1項第2号後段該当書面の取扱い
      本来、供述の信用性については、主尋問及び反対尋問で十分に事実を引き出すことによって判断することが可能である。捜査段階の供述調書を安易に証拠採用することは、裁判員に調書を読み込み(あるいは朗読を聞いて)、公判供述と信用性を比較するという極めて困難な作業を強いることとなるのであり不適切である。よって、法第321条第1項第2号後段該当書面の要件を厳格に解し、相反性の判断を厳重にするとともに、客観的に明白に特信性が認められる場合にのみ採用できるよう限定して運用されるべきである。
3  証言あるいは供述の内容の確認手段確保
    評議はもちろん、当事者の訴訟準備、被告人の十分な防御活動のためにも、証人尋問終了後、直ちに証言あるいは供述の内容を参照できる正確な記録が必要である。裁判官・裁判員が証言や供述を記録・記憶するには限界があるが、メモで対応することになれば、尋問中、当事者も裁判員もメモを取ることに多くの労力を割かなければならず、尋問に集中できなくなってしまう。
    審理のDVD録画も検討されているようであるが、DVDによる録画映像には検索性に難があり、かつ一覧性に欠ける。そこで、DVD録画については検索機能を備えるとともに、録音内容を書面化した物が作成されるべきである。また、そうしたシステムができない間においては、速記録を確保すべきである。
    そして、それらの記録については、当事者にも謄本を交付し、訴訟準備、防御活動ができるようにしなければならない。
4  裁判員に対する説示(説明)について
      裁判長から裁判員に対して行われる争点や法律解釈論の説明は、評議の結論に重要な影響を与えるものであり、それが誤っていたり、不公平あるいは不十分なものである場合には裁判の公正さを害する。
      そこで、裁判長が不適当な説示(説明)をした場合には、当事者の異議によって是正されなければならないが、この説示(説明)が非公開の評議の場でなされることになると、その内容に対して当事者は異議を申し立てたり、上訴審で違法を主張することができない。
      したがって、公正な説示(説明)を担保するため、説示を全て公開の法廷でするという運用を確立すべきである。
      そして、推定無罪の原則、検察官の証明責任などの重要な刑事訴訟法上の原則については必ず十分に説明するべきである。

第4  評議に関する提言
1  評議の在り方について
(1)裁判官による誘導を許さない評議
  裁判官、裁判員は、対等の立場で評議をすべきことが法の理念とされている。しかしながら、実際には、裁判の経験が豊富で法的知識のある裁判官と、初めて裁判に臨む裁判員が、対等の立場で議論をすることは極めて難しい。
  したがって、対等な立場での議論を実現するため、例えば次のようなルールが定められるべきである。
1   当初は、裁判員が自由に発言できるような雰囲気を作るとともに、裁判員の意見を尊重するために、裁判員のみによる評議を優先させ、ある程度意見が出された後に裁判官が評議に加わる。
2   裁判官が、一定の結論の解説者になって、評価を述べるような態度をとらない。
3   裁判長は裁判員同士の議論が活発になるように、評議を進行するようこころがける。
4   裁判官は、裁判員の意見を最大限に尊重するという謙虚な気持ちで評議に臨む。特に「従来の裁判実務の考え方」というルールを持ち出さない。
5   裁判長は自らが評議の進行役とならず、陪席裁判官に進行を委ねる。
  (2)議論の順序
        これまでの模擬裁判での評議を見る限り、論点ごとに結論を積み上げて、最終的な結論を導くという従来型の検討方式は裁判員には理解しにくい。初めに最終的な結論を議論し、なぜ、そのような結論を取ったのかという理由を議論していくというような評議や、法的評価を後回しにして、事案全体の物語を組み立てることを先行させるという評議などのやり方も、事案と裁判員とに応じて柔軟に活用されるべきである。
  (3)中間評議
        審理の最後まで待たずになされる評議は、検察官立証を中心とした評議にならざるを得ず、いわば予断に基づく評議となる。
        中間評議に関しては裁判員の参加する刑事裁判に関する規則51条において、裁判長は、事実認定などは弁論終結後に行うべきものであることを説明するものとすると規定しているが、この趣旨を徹底し、裁判員からの質問に答えるということを除き、証人の信用性にかかわる中間評議も避けなければならない。
  (4)書証・尋問(質問)調書(DVD)、当事者提出資料等の使い方
        法廷で提出された書面は、全てが裁判員一人一人に配布され、裁判員がいつでも、自由に参照することができるようにすべきである。
        また、裁判官が評議のために作成した資料については、裁判の公平性を担保するために、当事者にも交付することとしなければならない。
2  量刑判断について
(1)量刑判断のあり方
量刑は、責任主義の下で他の同種・類似事件との公平・均衡にも配慮すべきことが求められるなど極めて専門的な判断であって、市民の日常生活に基づく常識的判断・感覚の反映に本来的になじまないとの懸念がある。模擬裁判を経験した市民からも、毎回のように「市民感覚で量刑を判断する」といわれても、何らの判断基準も持ち得ないとの率直な疑問が述べられている。また、全国で行われている模擬裁判において、全く同じ事件を題材としているにもかかわらず、無視し得ない程度の量刑格差が生じている実態もあり、実際の裁判が始まった時には、被告人の公平な裁判を受ける権利を害することがおおいに懸念される。そこで、裁判員には適正な量刑資料を提供するとともに、刑罰の存在意義、矯正の実態などについて裁判員の正しい理解を得るように工夫すべきである。また、この量刑資料は当事者も共有し、それを使用して意見を述べることができるようなものでなければならない。
また、将来的には、裁判員と量刑判断との関わり方について、裁判員にも判断させることが適正であるのかどうかという点も含めて、制度実施後には実証的な検証を行い、十分な議論を尽くすべきである。
  (2)死刑事件の量刑判断のあり方
        死刑については、極めて慎重に判断されるべき事項であるとともに、判断する裁判員にとっても精神的負担は著しく大きい。そのため、裁判員の量刑への関与を前提にしたとしても、死刑判断について裁判員のどのような関与が望ましいかについて、今後さらに検討を尽くすべきである。

第5  裁判員の守秘義務に関する提言
裁判員に、広汎でかつ一般的な守秘義務を負わせることは、裁判員に対して過度の心理的負担を与えるばかりではなく、不当な審理や評議に対する裁判員による批判を封じる結果となり、裁判員制度の検証、改善を不可能なものとする。現在のところ、裁判の感想などを述べるだけであれば守秘義務に違反しない等と説明がなされているが、そのような説明がなされたとしても、守秘義務の範囲が一見して明らかでない限りは、萎縮効果を排除することはできない。
    そこで、本来は、守秘義務の対象事項を限定列挙する、違反に対する制裁を非刑罰化する、あるいは刑罰を定めるとしても罰金に限るといった法改正を行うべきであるが、当面の対策として、許される行為、禁止される行為を明確に規定する法曹三者によるガイドラインを早急に策定すべきである。
  そして、そのガイドラインでは、守秘義務の対象となる事項を評議における特定の裁判員の具体的発言、評決の数、職務上知り得た事件の内容で、かつ公表することにより被告人や第三者のプライバシーを害することになる事項に限定して列挙すべきである。

第6  弁護活動の充実に関する提言
1  保釈の運用改善
      裁判員裁判における連日的開廷の下での集中審理に対応する弁護活動には、弁護人と被告人との密接な打ち合わせが必要である。
      そのためには、可能な限り身体拘束から解放された状態で訴訟の準備を行う必要性が高く、早期の保釈が強く求められる。
  2  接見手段の拡充
      上記同様に密接な打ち合わせの必要性から、かりに保釈による身体拘束からの解放が認められない場合においても、裁判所における閉庁時間後の接見、拘置所における夜間・休日の接見、電話やテレビ電話での接見を、今まで以上により広く認めるべきである。
3  国選弁護人の複数選任
    裁判員裁判対象事件では、公判前整理手続や連日的開廷が予定されているため、弁護人には、起訴前から短期間に集中的な準備活動が求められる。
    したがって、重大事件、社会的注目度の高い事件、否認事件、事件の内容が複雑な事件はもちろん、本来は全ての裁判員裁判対象事件について、被疑者段階から国選弁護人の複数選任が認められるよう法改正すべきである。
    また、支部管内で発生した裁判員裁判対象事件は、一部の支部を除き本庁に起訴される運用が当面予定されている。そのようなケースにおいて、支部の弁護士の実情から起訴後に本庁における弁護活動を行うことが困難な場合が想定されるが、そうした場合に弁護人を交替するしかないとなると、被告人との信頼関係の構築を困難にさせるとともに、公判準備の関係でも極めて非効率的であり、審理の停滞を招きかねない。
    したがって、捜査段階から、支部管内の弁護士及び本庁管内の弁護士の弁護人への複数選任が現時点でも広く運用として認められるべきである。また、起訴後に本庁管内の弁護士を弁護人へ選任する場合にも、捜査段階で選任済であった支部管内の弁護士を解任することなく、追加選任とすべきである。
4  補助者の在廷の許容
    裁判員裁判では、連日的開廷のため期日間に準備することは困難である。特に専門的知識を要する事件では、審理中に弁護人が専門家から助言を受ける必要がある場合も考えられる。また、公判での即座の対応を可能にするために、事務職員による記録の検索、法廷供述の記録などについて補助を受ける必要もある。
      よって専門家や事務職員等を弁護人の補助者として広く認める扱いがなされ、法廷内の弁護人の横への着席が認められるべきである。
5  国選弁護報酬の増額
  裁判員裁判では、公判前整理手続や連日的開廷による集中的な審理が予定されている。また、裁判員にわかりやすい弁護活動という従来はなかった観点からの配慮も求められている。こうしたことから、これまでより弁護人の負担は大幅に増大することになる。
    弁護士が裁判員裁判に集中できるようにするためには、現在の国選弁護報酬額の水準では不十分であり、大幅な増額がなされなければならない。

第7  施行後の検証に関する提言
  1  検証機関の設置
      実施3年後の見直しに向け、法曹三者による検証機関を中央及び高等裁判所管内に設置して、実際の裁判員裁判の運用実態を正確に調査・検討される必要がある。
  2  守秘義務の解除
      この検証においては、評議の内容も含めて検証対象とされる必要があるが、裁判員経験者の守秘義務がこの検証の支障となることから、検証のための情報提供においては守秘義務を解除する必要がある。
  3  控訴審の審理のあり方
      検証においては控訴審の審理の実情も検証すべきである。特に、裁判員裁判を控訴審が適切に再審理しているのか、裁判員裁判の意義を没却するような審理を行っていないかについて慎重に検証する必要がある。

以上


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