「共謀罪の新設に反対する会長声明」(2014年12月25日)


  2013年12月頃から、政府が共謀罪法案の提出を検討しているという報道がなされるようになり、本年11月の法務大臣記者会見等においても、上川陽子法務大臣が共謀罪の必要性を強調する発言をしている。共謀罪については、2003年3月に上程されて同年10月に廃案になり、2004年2月に再上程されて2005年8月に廃案になり、さらに同年10月に再々上程されて2009年7月に廃案になった後は上程の動きすらなかったが、最近に至り再提出に向けた情勢が見られるようになっている。
  過去に廃案になった共謀罪は、長期4年以上の刑を定める犯罪について、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した場合に、2年ないし5年以下の懲役・禁錮を科すというものであった。全く同じものが提出されるかどうかは不明であるが、いずれにしても、犯罪行為の結果も、実行行為も、それどころか準備行為すらも存在しない段階で、単に犯罪を共謀したというだけで捜査・処罰の対象とするものであるところに共謀罪の本質がある。一旦共謀してしまえば、最終的に思いとどまったとしても共謀罪は成立するのである。
  このような共謀罪は、個人の行為ではなく意思や表現を処罰するものであり、刑法の基本原則を大きく逸脱するものである。また、行為がなくても犯罪が成立するため、何をどの程度話し合って合意すれば共謀罪に当たるのかという範囲が広汎かつ不明確であり、罪刑法定主義に反する。
  他方、結果も行為もない共謀罪を捜査するためには、共謀の会話を把握する必要がある。密室でなされた共謀の会話を把握するためには当事者の供述が必要となり、自白強要や利益誘導による不当な取調べがなされるおそれが高い。さらに、本年9月の法制審議会において通信傍受法による電話盗聴の対象犯罪を拡大し、傍受方法を緩和する答申が出されているが、共謀罪が新設されれば、電話盗聴の対象に共謀罪を加えようとする動きが強まるであろう。のみならず、メール、SNSなどのインターネット上の通信の常時監視、さらには室内会話の盗聴やおとり捜査など捜査方法が一層拡大され、適正手続が害されるおそれがますます高くなる。また、自首した場合には刑が減軽・免除されるという規定により、共謀を持ちかけた者は自首をして刑を減免され、持ちかけられた者のみが処罰されるということになれば、密告を奨励することになり、虚偽の供述で人を陥れることすらあり得る。
  このような捜査が広く行われるようになれば、捜査機関による監視のみならず市民相互による監視が広がり、どこで誰と何を話して良いのかどうか、疑心暗鬼にならざるを得ない社会を招来しかねない。
  そもそも、この共謀罪は「国際越境組織犯罪防止条約」(以下「条約」という。)の批准のために必要であると説明されている。しかし、条約の中では「自国の国内法の基本原則に従って(必要な措置をとる)」とされているのであり、組織犯罪に関連する重大犯罪について未遂以前に処罰する規定があれば、必ずしも共謀罪の新設がなくとも批准可能である。しかも、廃案になった共謀罪の対象犯罪は600以上にものぼり、組織犯罪に関連する重大犯罪として条約が求めるものを超えている。条約批准のために、刑法の基本原則を大きく逸脱する共謀罪を新設する必要はない。
  当会は、2003年8月、同年12月、2005年7月、同年10月、2006年4月にも意見書及び会長声明において共謀罪の新設に反対してきたが、冒頭に述べた情勢に鑑みて、改めて共謀罪の新設に強く反対する。


2014年(平成26年)12月25日

京  都  弁  護  士  会

会長  松  枝  尚  哉
  

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