人前で話すこと


念願の弁護士として勤務を始めて1ヶ月が経ちました。既に色々な経験をさせていただいたのですが、今回はそのことではなく、修習生時代のことを少し振り返ります。

もう2ヶ月近く前のことになりますが、第67期司法修習の京都修習謝恩会というものが開催されました。要するに、京都で修習をした修習生が、ご指導いただいた裁判官、検察官、弁護士、研修所教官の皆様に、お礼の気持ちを伝える場です。

何の因果か幹事代表ということになった私は、会の冒頭に、皆様の前で短い挨拶をすることになりました。会の冒頭、一段高いところから、目の前には120名の修習生と実務家の方々。もちろん、すぐ前には弁護士会の会長から、地裁の所長、地検の次席検事までいらっしゃるわけです。

人前で何かをやるとなれば、誰でも多かれ少なかれ緊張するものでしょう。上記のような場になれば尚更。私もその例に漏れず、本当に短い挨拶とはいえ、たいそう緊張しました。正直、あまり挨拶の時の記憶がありません。

しかし、そんな私に、「人前は慣れてるんじゃないの?」と、とある方が一言。

というのも、私は趣味でピアノをやっています。下手の横好きというやつなのですが、年数だけはそこそこ続けてきました。学生の頃は、身近にある大手の音楽教室にも通っていました。

そういう音楽教室ともなれば、発表会だとか、ちょっとしたアマチュアの大会だとかには事欠きません。数だけでいえば、そういった機会に演奏した回数は2桁にのぼると思います。特に私は、小学生頃以降は、ピアノソロを中心にやっていましたので、大勢の観客の前で、一人で演奏するわけです。

前述のある方は、まさにそのことを知っていて、ピアノの時に人前で弾いたりしているから、人前で話すぐらい慣れているんじゃないの?と、こうおっしゃるわけです。

しかし、そんなことはありません。私の感覚ではありますが、人前でピアノを弾くことと、人前で話すことにはこんな違いがあります。

①ピアノは舞台だけが明るいので、舞台側からは、お客さんの顔はほとんど真っ暗で見えません。一方、人前で話すときは、客席側が暗いことはあまりないので、相手の顔や人数が見えてしまいます。視線も感じます。
②ピアノを弾く時にも足は震えますが、お客さんは足なんて見ていないので気が付きません。一方、人前で話すときに足が震えたら、相手は気が付くでしょう。
③相手が素人のお客さんなら、ピアノは少々間違ってもなんとか誤魔化すことができます。間違ったのを誤魔化すために、ちょっとくらい楽譜と違うことを、その場で作って弾いてしまうことなんてよくあります。一方、人前で話すときにかんだりしたら、当然バレます。

…どうでしょう。ちょっと考えただけでこんなに違います。人前で話すって難しい!

ところで、謝恩会では、私の拙い挨拶の後、弁護士会会長の松枝先生をはじめ、たくさんの方々にご挨拶いただきました。どの方も聞き手を飽きさせない、面白くて、しかし重みのあるご挨拶で、本当に素晴らしかったです。

私も、いつかあんな風に、人前で堂々と話すことができるようになりたいものです。

大澤  祐紀(2015年2月16日記)


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