「外国籍の弁護士を調停委員への任命から排除しないことを求める会長声明」(2015年3月5日)
1 当会は、京都家庭裁判所からの2014年(平成26年)10月28日付の推薦依頼を受けて外国籍である当会会員を家事調停委員候補者として推薦したところ、2015年(平成27年)1月23日、京都家庭裁判所から、最高裁判所への任命上申をしない旨の回答があった。
回答の際、京都家庭裁判所職員は、「調停委員についても、国家意思を形成し、公権力を行使する公務員として日本国籍が必要であるところ、同会員については日本国籍を有しないためである。」と説明した。
2 しかし、民事調停法、家事事件手続法並びに民事調停委員及び家事調停委員規則には、調停委員の資格要件として日本国籍を要求する規定はなく、法令上、調停委員に国籍要件は存在しない。
外国籍であることのみを理由に任命上申をしない裁判所の対応は、法令に根拠のない基準を新たに創設し、当該公務員の具体的な職務内容を勘案することなく、日本国籍の有無で異なる取り扱いをするものであって、国籍を理由とする不合理な差別であり、憲法14条、自由権規約26条および人種差別撤廃条約5条の平等原則に違反するものである。
また、2010年(平成22年)4月6日に続いて2014年(平成26年)8月29日の国連人種差別撤廃委員会の総括所見においても、「家庭裁判所における調停委員として行動する能力を有する日本国籍でない者を排除するとの締約国の立場および継続する実務について懸念する」とされており、国際社会からも見直しを勧告されている。
3 そもそも調停委員の職務は、市民間の紛争について、当事者間の話し合いにより、裁判手続を経ずに解決すべく支援することであり、そこには強制的な契機はない。
調停委員の実質的な職務内容は、「公権力の行使」にはあたらず、「国家意思の形成」といった側面も認められない。
調停委員の適否は、当事者の互譲による紛争の解決に向けて専門的あるいは社会生活上の知識経験や人格識見などを発揮できる者か否かという点により判断されるべきであって、国籍の如何は問題とならないというべきである。
事実、1974年(昭和49年)から1988年(昭和63年)までの間、日本国籍を有しない台湾籍の大阪弁護士会会員を最高裁判所が西淀川簡易裁判所民事調停委員に任命していたという先例があり、今になって日本国籍を有しないことを理由に任命しない取扱いに固執する理由はない。
上記裁判所職員による説明は、任命上申を拒否する根拠になりえないことは明らかである。
4 したがって、当会は、最高裁判所と京都家庭裁判所に対し、あらためて、外国籍の弁護士を調停委員への任命から排除しないことを強く求める。
2015年(平成27年)3月5日