「通信傍受法の対象犯罪拡大と手続の緩和に反対する会長声明」(2015年3月5日)


  法制審議会は、2014年(平成26年)9月18日、「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果」を採択し、法務大臣に答申した(以下「本答申」という。)。本答申においては、「通信傍受の合理化・効率化」と題して、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(通信傍受法)につき、対象犯罪の大幅拡大と、手続の大幅緩和が提案されている。

  すなわち、対象犯罪に関しては、従来は組織的殺人などの特殊な組織的犯罪類型に限定していたものを,窃盗、詐欺、恐喝、傷害等の通常の犯罪にまで拡大し、組織的な犯罪とは言えない犯罪類型をも広汎に含むこととされた。また、手続に関しては、濫用の歯止めとなっていた厳格な要件、すなわち通信事業者等による立会・封印等の措置を不要とすることが示されている。

  現行の通信傍受法における犯罪類型の限定と厳格な手続要件は、制定前に検証許可状により実施された電話傍受の適法性につき判断した最高裁判所平成11年12月16日第三小法廷決定が「重大な犯罪に係る被疑事件」であることを適法性の要件としていたことや、制定当時、通信の秘密等に対する重大な制約として違憲の疑いが強く指摘されたことを受けて定められたものであり、これまで、広汎な通信傍受の実施によって市民のプライバシー権侵害が生ずる危険への歯止めとなってきたが、本答申は、これらの歯止めを撤廃しようとするものである。

  このような捜査機関側のニーズに基づく通信傍受法の改正は、その拡大や手続緩和の歯止めが無くなることに結びつく。現に、本答申による拡大案は、上記に示された「振り込め詐欺」や「組織窃盗」以外の詐欺や窃盗にも広く適用可能なものとなっている。重大性や組織性といった要件を不要として対象犯罪の拡大を認めれば、ひいては日本弁護士連合会や当会が反対している共謀罪や特定秘密保護法違反などへの通信傍受の対象拡大につながり、通信の自由、言論の自由、プライバシー権といった重要な基本的人権に対してより一層深刻な危機を招きかねない。また、本答申による手続緩和は、捜査機関が安易に通信傍受を多用する可能性に結びつき、その濫用の危険を増大させることが懸念される。

  当会は、憲法及び刑事訴訟法の求める適正手続保障の趣旨を徹底し、冤罪事件の根絶を希求する立場から、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会に対し、冤罪事件の根絶に資する制度の検討という原点に立脚した提言を求め、通信傍受などの捜査機関の権限拡大は、この原点から逸脱したものとして、提言から除外することを繰り返し求めてきたところである。

  また、特に、通信傍受の対象拡大は、単に刑事司法制度に関する問題に止まらず、国家が市民社会を監視し、その存立の基礎を脅かす危険性をはらむものであり、立憲民主主義の観点からも重大な懸念がある。

  よって、当会は、本答申にもとづく通信傍受法の対象犯罪拡大と手続要件の緩和に反対する。

      2015年(平成27年)3月5日

京  都  弁  護  士  会

会長  松  枝  尚  哉



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