意見書

消費者契約法の改正を求める意見書(2015年3月26日)


2015年(平成27年)3月26日


内閣総理大臣                              安  倍  晋  三  殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  山  口  俊  一  殿
消費者庁長官                              板  東  久美子  殿
衆議院議長                                町  村  信  孝  殿
参議院議長                                山  崎  正  昭  殿
消費者委員会委員長                        河  上  正  二  殿
消費者委員会消費者契約法専門調査会座長    山  本  敬  三  殿

京  都  弁  護  士  会

会長  松  枝  尚  哉

  

消費者契約法の改正を求める意見書


第1  意見の趣旨
  消費者契約法を下記のとおり改正すべきである。
1  不当勧誘行為規制につき、いわゆる非身体拘束型の困惑惹起の勧誘行為(威迫する言動、不安にさせる言動、迷惑を覚えるような仕方その他心理的な負担を与える方法での勧誘)を要件とする取消規定を導入する。
2  消費者契約法9条1号につき、下記のとおりとする。
(1)「平均的な損害を超えること」の立証責任を事業者に負わせることを明文化する。
(2)「平均的な損害」の算定にあたり、解除の時期的区分によって損害に差が生じる契約類型においては、当該区分が合理性を有するものでなければならないことを明文化する。
(3)「平均的な損害」の算定の基礎として、契約履行前の段階の解除の場合には、原則として事業者の逸失利益は含まないことを明文化する。
3  意味内容が不明確な条項については、当該契約条項に対して消費者が合理的に抱く理解や期待を考慮して当該条項の性質決定をするという解釈準則を明文化する。

第2  意見の理由
1  不当勧誘行為規制の困惑類型の拡張について
  現行法は、不当勧誘行為に関して、困惑類型(不退去、退去妨害)に係る取消権を規定している。
  しかし、上記類型以外であっても、例えば、事業者が自宅や職場に執拗な電話を繰り返す、「買ってくれないと困る、ここまで話が進んでいるのに無責任だ、上司に言う」等と威迫的な言動で契約を迫る、「先祖のたたりがある」等と告げて高額な壺等を購入させる、長時間の勧誘や夜間勧誘により執拗に契約を迫る等、消費者を威迫したり、不安な心理に陥れる言動、あるいは消費者が迷惑を覚えるような勧誘方法によって望まない契約を締結させられることによりトラブルとなる事例がみられる。国民生活センターが公表した「消費者契約法に関連する消費生活相談の概要と主な裁判例」によると、特に、強引な勧誘に関する事例が51,952件(全体の相談の14.1%)存在するとされており(消費者庁ウェブサイト: http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20111110_2.pdf)、被害状況の深刻さが窺える。
これらの事例では、事業者が、消費者の自己決定の過程を著しく侵害しているにもかかわらず、現行法の規制対象である消費者宅等からの不退去、消費者の退去妨害に該当しないため十分な対処ができていない。裁判例においても、勤務先への執拗な電話を繰り返すといった執拗・強引な勧誘行為が行われた事案について不法行為で救済を行うなど、同類型における救済の必要性が肯定されている(東京地判平成21年9月25日「消費者契約法の運用状況に関する検討会報告書」(以下「消費者庁報告書」という。)339頁No.13)。
  そこで、こうした事例に対処すべく、いわゆる非身体拘束型の困惑惹起の勧誘行為(威迫する言動、不安にさせる言動、迷惑を覚えるような仕方その他心理的な負担を与える方法での勧誘)を要件とする取消規定を導入すべきである。
2  消費者契約法9条1号「平均的な損害」について
(1)「平均的な損害」についての立証責任は、立証責任に関する通説(法律要件分類説)を形式的にあてはめると、消費者が主張立証責任を負うとの解釈が成り立ち、また消費者が主張立証責任を負うことを判示する判例も存在する(最判平成18年11月27日判時1958号12頁)。しかし、事業者に生ずる損害について、消費者が資料を有していることは通常想定できず、上記解釈によった場合、消費者が「平均的な損害を超えること」の立証をすることは困難である。
そこで、端的に文言を変更し、事業者が立証責任を負うことを明記すべきである。
(2)「平均的な損害」の算定の区分の設定について
解除の時期的区分によって損害に差が生じる契約類型においては、区分の設定如何により平均的な損害の金額が大きく変動する。それにもかかわらず、「平均的な損害」の算定の基礎となる時期的区分を事業者が自由に設定できるとなると、解約時期により損害が少額になるはずの消費者が高額になるケースに引きずられて全体として平均化された高額の違約金を支払わされることになる。例えば、逸失利益が損害となる例において,1月を区分として平均的な損害を算定した場合には、23か月目に解約した消費者と1か月目に解約した消費者は区別され、前者の消費者は本来少額の違約金にとどまり、他方、後者の消費者の方が高額の違約金となるはずであるところ、2年間を1区分として算定した場合には、23か月目に解約した消費者が1か月目に解約した消費者と同じ扱いとなり、違約金が高額になる後者のケースに引きずられて平均化された高額の違約金を負担させられるという結果になる。このような結果が公平性を欠くことは明らかである。
    そこで、「平均的な損害」の算定にあたっては、解除の時期的区分によって損害に差が生じる契約類型においては、区分設定に合理性を要求するよう現行法を改正すべきである。
この点、裁判例のなかには、携帯電話の定期契約の中途解約における違約金条項の有効性が問題となった事例において、区分の合理性に配慮し、事業者の設定した2年という区分ではなく、1か月を1区分として「平均的な損害」を算定したものが存在する(京都地判平成24年7月19日判タ1388号343頁)。
(3)「平均的な損害」と逸失利益について
契約の履行前の段階における契約解除の場合に、事業者に生じる損害として想定しうるのは、せいぜい契約の締結及び履行のために通常要する費用のみである。したがって、「平均的な損害」の算定に当たっては、逸失利益を基礎とすべきではない。
この点について、東京大学の森田宏樹教授は、消費者契約法9条1号にいう「平均的な損害」を、消費者契約の履行前の段階においては、民法416条の原則を修正し、事業者が請求しうる損害賠償額を原状回復賠償の範囲に限定することによって、消費者が望まない契約から離脱することを容易にし、もって契約成立過程に起因するトラブルを回避する機能をもつものと位置づけている(森田宏樹『消費者契約の解除に伴う「平均的な損害」の意義について』「特別法と民法法理」2005年、93頁)。また、摂南大学の城内明准教授は、「消費者契約においては、事業者の主導のもとで勧誘及び交渉が行われるため、消費者が契約の内容について十分に考慮することなく契約の締結に至ることが少なくないのであるから、機会喪失等の場合を除き、消費者が履行を望まない契約から離脱することを容易にするため、原状回復のための賠償に限定されるべきである」としている(城内明『携帯電話利用契約における解約金条項の消費者契約法上の有効性』「新・判例解説Watch民法(財産法)No.75」、2014年、1頁)。
裁判例においても、中古車の販売契約の解除の際の損害賠償条項に基づき事業者が車両価格の15%の損害賠償金を請求した事例において、車両注文の2日後に解除された本件においては、事業者に未だ具体的な損害は発生していないとして逸失利益の存在を否定したものがある(大阪地判平成13年6月23日金判1162号32頁)。
以上からすると、契約の履行前の段階における契約解除の場合には、原則として、契約の締結及び履行のために通常要する費用のみが「平均的な損害」の算定の基礎になるものとすべきである。
3  条項の解釈準則の規定を設けることについて
条項がいかなる趣旨かという解釈において、裁判所が当該条項を作成した事業者側の立場で解釈することにより、そもそも不当条項の審査にすら乗らない場合や、不当条項審査が形骸化する場合が存在する。
例えば、有料老人ホームの入居一時金(終身利用権金)条項の解釈において、同入居一時金は、「終身にわたって各種サービスを受け得る地位を取得したことの対価」であると解釈して、既に事業者は履行済みであり同入居一時金の返還は不要としたものがある。また、マンションの賃貸借契約における敷引特約の有効性が問題となった事案で、敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用についての合意であると解釈したうえで、敷引条項は、高額にすぎる場合を除き有効とされている(最判平成23年3月24日民集65巻2号903頁)。このような性質決定、解釈は、消費者の合理的意思に合致していない。また、性質決定の理由が十分に説明されておらず、予測可能性及び法的安定性がない。
    実際の裁判において、契約当事者の合理的意思の探求をしていくと、どうしても条項作成者の意思(裁判における条項作成者側の主張)に傾く傾向がある。しかし、消費者契約の条項は、事業者側が作成しているところ、事業者と消費者の間の情報力、交渉力の格差により、消費者はこれを一方的に押しつけられているという現状がある。そうした場合、消費者側は当該条項について必ずしも明確な認識・意思を持つことができない。そのため、実際の訴訟では事業者の主張する法的性質で条項解釈がなされ、不当条項審査の規制を免れるという事例が多く存在する。
    そこで、このような問題を改善すべく、意味内容が不明確な条項については、当該契約条項に対して消費者が合理的に抱く理解や期待を考慮して条項の性質決定をするという解釈準則を明文化すべきである。
以  上



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