「淀川水系河川整備計画案に対する意見書」(2008年8月28日)


2008年(平成20年)8月28日


国土交通省  近畿地方整備局  局長  木下誠也  殿
京都府知事  山田啓二  殿
大阪府知事  橋下徹  殿
滋賀県知事  嘉田由紀子  殿
三重県知事  野呂昭彦  殿
                

京都弁護士会              

会  長  石  川  良  一


意  見  書


第1  意見の趣旨
1  国土交通省近畿地方整備局は、2008年6月20日発表の淀川水系河川整備計画案を撤回し、淀川水系流域委員会の最終意見を聴き、これを反映した計画案を再度提示すべきである。
2  京都府、大阪府、滋賀県及び三重県各知事は、上記の再提示を待って、計画案に対する知事意見を述べるべきである。
また、少なくとも淀川水系流域委員会の最終意見が出されるまでは、計画案に対する知事意見は述べるべきではない。

第2  意見の理由
1  改正河川法16条の2第3項は、「河川管理者は、河川整備計画の案を作成しようとする場合において必要があると認めるときは、河川に関し学識経験を有する者の意見を聴かなければならない」と定める。
この法文は、河川整備計画案を作成しようとする場合には、河川管理者はまず、学識経験者の意見を聴取する必要性があるかどうかについて判断しなければならないとし(必要性判断の要件)、当該意見聴取の必要性があると認めたときは、その意見を聴かなければならないという法的義務(意見聴取義務)を課しているものである。
2  国土交通省近畿地方整備局(以下、「近畿地方整備局」という。)は、淀川流域の河川整備計画案を作成するについて、この「必要性」があるものと認めて、2001年2月、学識経験者の意見聴取のために、淀川水系流域委員会(以下、「流域委員会」という。)を設置した。
以上からすれば、前記法文に従い、近畿地方整備局は当然に、流域委員会の最終意見を聴く法的義務がある。
そして、流域委員会は、2001年2月の発足以来、7年以上にわたって数多くの会議を開催して徹底した議論・審議を行い、2008年4月25日の中間意見を経て、最終意見の発表も間近となっていたものである。
このように、相当の年月をかけて精緻な議論が行われ、近々最終意見が発表される見込みであることからすれば尚更、近畿地方整備局は、流域委員会の最終的な意見を聴いた上で、それを反映させた河川整備計画案を作成する義務があるといわなければならない。
3  しかしながら、近畿地方整備局は、流域委員会が2008年4月25日、整備計画「原案」の見直しと、さらに委員会としての「最終意見」を提示する旨表明していたにもかかわらず、同年6月20日、一方的に河川整備計画案を発表したうえ、流域委員会の意見は既に聴いたなどと述べている。
しかし、この対応は、前記河川法16条の2第3項に明らかに違反するし、また、実質的にも、流域委員会の議論を蔑ろにするものであって、到底是認できるものではない。
報道によれば、流域委員会、同委員会委員長経験者、住民団体からも、近畿地方整備局の上記のような対応に対しては強い反発が示されているところである。
4  京都府・大阪府・滋賀県及び三重県各知事は、河川法16条の2第5項に基づき、河川整備計画案に対して関係都道府県知事として意見を述べることになっている。
河川法の趣旨を全うするためには、前記の通り「案を作成」する段階で(同条3項)、学識経験者の意見が聴かれなければならないのであるが、当該意見聴取が前記のとおりなされていない現状では、そのような整備計画案に対して知事としての責任ある意見は述べられないとすべきである。
というのも、関係都道府県知事としての意見は、その地域の代表者としての重みを持った意見であり、最終的な計画案に対する意見が必要であることから、案の作成段階でなく、案が固まった段階で意見を聴くこととされているにもかかわらず(改訂版逐条解説河川法解説91頁参照)、前記のとおり、近畿地方整備局において、流域委員会の最終的な意見を聴いた上でこれを反映させた最終的な河川整備計画案を作成する義務を果たしておらず、したがって2008年6月20日に発表された河川整備計画案については、最終的な計画案と評価することはできないからである。

以  上

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