「死刑に関する情報公開と議論の活発化を求める会長声明」(2015年3月26日)


1  2014年(平成26年)7月24日、国際人権(自由権)規約委員会は、同規約の実施状況に関する第6回日本政府報告書に対して、同年7月15日、16日に行われた審査を踏まえ、総括所見を発表した。
同総括所見は、死刑確定者の処遇や手続保障などへの懸念を表明し、本年3月27日に静岡地方裁判所による再審開始決定がなされた袴田事件にも直接言及した上で、(a)死刑の廃止を十分に考慮すること、(b)執行の事前通知や処遇の改善、(c)全面的証拠開示など不当な死刑判決に対する法的な安全装置を速やかに強化すること、(d)死刑事例における再審あるいは恩赦の請求に執行停止効果を持たせつつ、義務的かつ実効的な再審査制度を創設すること、(e)死刑確定者の精神状態を把握するための独立した仕組みの構築、(f)自由権規約第二選択議定書への加入を考慮すること、等の勧告を行い、当該勧告の実施に関する情報を1年以内に提出するよう、優先して対応することを求めた。
なお、自由権規約委員会の前回総括所見(第5回日本政府報告書に対するもの、2008年10月31日)においても、死刑執行数の増加に対する懸念や、死刑確定者の処遇に関する懸念が表明され、「世論調査の結果にかかわらず、死刑の廃止を前向きに検討し、必要に応じて、国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである」旨の勧告も行われていた。
2  死刑制度は、国が権力を用いて人命を奪うものであり、その権力は国民に由来するものである。その執行に関する基準や執行の実態が、主権者たる国民に対して明確にされないまま運用されることがあってはならない。
また、世界198か国中、既に140か国が死刑制度を法律上又は事実上廃止しており、国際人権(自由権)規約委員会や国連拷問禁止委員会からも、日本政府に対し、繰り返し死刑制度の廃止を考慮することを求められるなど、国際社会から死刑制度廃止に関する呼びかけが続けられている情勢を踏まえれば、日本国は、今なお死刑制度を存置する国家として、その是非について論議を尽くし、その結果を国際社会に向けて応答すべき責務を負っている。日本国として責任ある応答をするためには、その前提として、死刑に関する情報が主権者である国民に対して公開され、それを踏まえた十分な議論がなされることが必要である。
3  しかしながら、政府は、国民による議論の前提となる重要な情報を公表していない。例えば、執行される者や執行時期を決定する基準やプロセス、死刑確定者の処遇とそれによる改悛の実情、執行時における事故の有無、被執行者の苦痛の程度、執行にあたる職員の選定基準や職員への心理的影響、世論調査のミクロデータ等の多種多様な情報が、死刑制度の実情を理解するために必要であるが、これらの情報へのアクセスの方法は閉ざされている。法務省が「国民の皆さんが議論するための基礎資料を提供する」と称して公表した「死刑の在り方についての勉強会」取りまとめ報告書(2012年3月)においても、これらの情報には触れられておらず、今後もこれらの情報公開を進めようとする動きは見られない。そのため、これらの情報を踏まえた上での十分な国民的議論がなされることは不可能な状況にある。
4  政府が、主権者である国民に対し、死刑に関する上記の情報を秘匿し続け、正確な情報に基づく活発な議論を喚起しようとしていないことは、極めて遺憾である。政府に対し、改めて、死刑に関する情報を広く公開し、死刑制度についての議論を活発化させた上で、国際社会からの勧告に対して責任をもって答えるよう求めるものである。

2015年(平成27年)3月26日

京  都  弁  護  士  会

会長  松  枝  尚  哉

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