「消費者庁設置法案(仮称)に規定すべき条項についての意見書」(2008年8月28日)


2008年(平成20年)8月28日


内閣総理大臣  福  田  康  夫  殿
消費者行政担当大臣  野  田  聖  子  殿
内閣官房消費者行政一元化準備室  御中
                                              
京都弁護士会            

会長  石  川  良  一


消費者庁設置法案(仮称)に規定すべき条項についての意見書


第1  意見の趣旨
  1  消費者庁設置法(仮称。以下「設置法」という。)において、消費者庁の任務は、別紙記載のとおり、あらゆる消費者施策を実施すること及び産業育成ではなく消費者保護であることを明記すべきである。
  2  設置法において、消費者庁の所掌は、別紙記載のとおり、消費者施策に関して間隙を生じさせないように規定すべきである。
  3  設置法において、別紙記載のとおり、消費者庁には一定の独立性を備えた消費者政策委員会を設置し、消費者庁を含む行政機関への勧告等の権限を措置すべきである。

第2  意見の理由
  1  はじめに
      2008年6月27日に閣議決定された「消費者行政推進基本計画」(以下「基本計画」という。)に基づき政府は、設置法を臨時国会に提出すべく準備中である。
      本意見書は、創設されるべき消費者庁が真に消費者の権利及び利益を擁護、増進するための組織たるべく、設置法に規定すべき条項について意見を述べるものである。
  2  消費者庁の任務について
      消費者庁は、基本計画においても述べられているとおり「明治以来、我が国は各府省庁縦割りの仕組みの下それぞれの領域で事業者の保護育成を通して国民経済の発展を図ってきたが、この間『消費者の保護』はあくまでも産業振興の間接的、派生的テーマをして、しかも縦割り的に行われてきた」ことによる種々の消費者問題に対し、「消費者を主役とする政府の舵取り役」として創設されるべきものである。
      このため、まず第一に消費者庁の任務として、あらゆる消費者施策を実施すること及び産業育成ではなく消費者の権利及び利益の擁護、増進であることを明記する必要がある。
  3  消費者庁の所掌事務について
      消費者庁の創設目的は、組織の目的を縦割り的産業育成目的から消費者の権利及び利益の擁護、増進への転換を図りつつ消費者行政を一元化することである。
      このため、消費者庁の所掌事務についても、省庁間の所掌の狭間に落ち込む間隙が生じないように、消費者被害及び消費者関連製品に関するあらゆる政策の企画・立案・執行に消費者庁が関与する事務とともに、これらの前提となる関連情報の収集、公表に関する事務を所掌することが必要である。
      また、消費者問題に対する相談、救済、予防、拡大防止のためには消費者に最も近い存在である地方自治体の消費者行政及び消費者団体との連携及びこれらに対する支援が不可欠であるため、これらに関する事務も所掌することが必要である。
  4  消費者政策委員会について
      基本計画では、「『消費者庁の運営に消費者の意見が直接届く透明性の高い仕組み』として、有識者から成る機関である消費者政策委員会を設置する。消費者政策委員会は、消費者政策の企画立案や消費者庁を含めた関係府省庁の政策の評価・監視に関することとともに、消費者庁が行う行政処分等のうち重要なものに関して、諮問への答申、意見具申を行う。」と述べられている。
      消費者庁の運営に消費者の意見が届く仕組みは是非措置すべきものである。しかし、消費者庁が真に消費者を主役として消費者の権利及び利益の擁護、増進を目的とする組織たるには、消費者政策委員会を単なる諮問機関として措置するだけでは不十分であり、消費者政策委員会を消費者庁に対する消費者による実効性のある監視監督機関として措置することが必要である。
      そのためには、消費者政策委員会の人員構成、事務局機能等については消費者庁からの一定の独立性を備えるとともに、諮問を受けずに独自に消費者庁及び関係行政機関に対し意見を述べる権限及び必要な場合には施策の実施を勧告することができる権限を措置することが必要である。また、消費者庁の運営を透明化するためには、消費者政策委員会の勧告内容の公表制度を措置する必要がある。

(別紙)

第1  任務規定
    消費者庁は、消費者被害の防止及び消費者被害の救済、消費者被害により消費者が被った損害の回復、消費者被害・事故及び消費生活関連製品に関するあらゆる情報の収集、分析及び公表、消費者施策の実施及び法執行の推進、物価に関する基本施策の事務、並びに消費者施策及びそれに関連するその他の分野に関係する施策に関して関係行政機関を統括、主導するとともに地方公共団体及び消費者団体と連携を図りつつ、これらを支援し、もって、消費者の権利及び利益を擁護、増進することを任務とする。

第2  所掌事務
(1)  消費者の権利及び利益の擁護、増進のための制度、政策の企画及び立案並びに推進に関すること。
(2)  消費者の権利及び利益の擁護、増進のための関係行政機関の施策、事務の調整に関すること。
(3)  消費者の権利及び利益の擁護、増進の観点から、関係各大臣その他各行政機関の長に対する所管法令に基づく法執行の勧告に関すること。
(4)  消費者の権利及び利益の擁護、増進のための地方自治体との連携、協力、調整に関すること。
(5)  消費者相談における助言、あっせんその他の紛争解決のための施設及び機構の設置、運営に関すること。
(6)  国民生活センターの運営・監督等の機能、及び、地方自治体の消費生活センター、国民生活センターとの連携、調整に関すること。
(7)  消費生活相談員及び消費者行政担当職員の研修に関すること。
(8)  消費者、事業者又はその従業員、警察・消防を含む各行政機関、病院その他関係機関からの消費生活及び消費生活関連製品に関する情報の収集、集約、調査、事実確認に関すること。
(9)  消費生活及び消費生活関連製品に関する事故情報・危険情報の収集及び分析、重大な事故の調査及びこれらの情報提供に関すること。
(10) 消費生活及び消費生活関連製品に関する事故の兆候について事故防止に必要な調査及び情報収集に関すること。
(11) 消費生活に関する表示、取引、安全の各分野における調査、法執行に関すること。
(12) 消費者に関係する物価に関すること。
(13) 消費者教育、啓発に関すること。
(14) 消費者被害対策、消費者教育の専門家の育成に関すること。
(15) 事業者が違法行為により得た収益を事業者から剥奪し、消費者に回復する事務に関すること。
(16) 消費者被害に関する国際的な連携に関すること。
(17) 緊急時における対策本部の主宰、対応方針の決定、実施に関すること。
(18) 地方自治体における消費者行政推進のための支援に関すること。
(19) 消費者の利益の擁護及び増進のための国、地方、消費者、消費者団体、事業者がそれぞれ貢献できる新たな仕組みの構築のための「円卓会議」の設置、運営等の取組に関すること。
(20) 消費者政策の企画立案、関係府省庁の政策の評価・監視、消費者庁の行う行政処分等に関する諮問への答申、意見具申、勧告等を行う消費者政策委員会の設置、運営、事務局機能に関すること。
(21) 消費者政策委員会の下部機関の設置、運営に関すること。
(22) 消費者団体に対する支援及び消費者団体の税制上の措置に関すること。

第3  消費者政策委員会
(設置)
  消費者庁に、消費者政策委員会(以下「委員会」という。)を置く。
(所掌事務)
1.委員会は、次に掲げる事務をつかさどる。
(1)  内閣総理大臣若しくは関係各大臣の諮問に応じ、又は自ら、次の事項を調査審議すること。
イ  消費者政策の企画・立案
ロ  消費者庁を含めた関係省庁の政策の評価・監視
ハ  消費者庁が行う行政処分等のうち重要なもの
《  以下、消費者庁の所掌事務に準じる  》
(2)  第(1)号に規定する事項に関し、内閣総理大臣又は関係各大臣に意見を述べること。
(3)  第(1)号の規定により行った調査審議の結果に基づき、消費者の権利及び利益の擁護、増進の支援のため講ずべき施策について、内閣総理大臣又は閣総理大臣を通じて関係各大臣に勧告すること。
(4)  第(3)号の規定により行った勧告の結果に基づき講じられる施策の実施状況を監視し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣に、又は、内閣総理大臣を通じて関係各大臣に勧告すること。
(5)  第(1)号の規定により行った調査審議の結果に基づき、消費者の権利及び利益の擁護、増進の支援のため講ずべき施策について、必要があると認めるときは、関係行政機関の長に意見を述べること。
(6)  第(1)号から前号までに掲げる事務を行うために必要な調査及び研究を行うこと。
(7)  第(1)号から前号までに掲げる事務に係る関係者相互間の情報及び意見の交換を企画し、及び実施すること。
(8)  関係行政機関が行う消費者の権利及び利益の擁護、増進の支援に関する関係者相互間の情報及び意見の交換に関する事務の調整を行うこと。
(9)  消費者及び消費者団体からの消費者行政政策その他の申し出を受け付けること及び当該申し出に対する必要な措置を講じること。
2.委員会は、前項(3)号及び(4)号の規定による勧告をしたときは、遅滞なく、その勧告の内容を公表しなければならない。
3.関係各大臣は、前項(3)号及び(4)号の規定による勧告に基づき講じた施策について委員会に報告しなければならない。
4.関係行政機関の長は、前項(5)号の規定による意見に基づき講じた施策について委員会に報告しなければならない。
(委員会の意見の聴取)
1.関係各大臣は、次に掲げる場合には、委員会の意見を聴かなければならない。
(1)  《所管法令》第●条但書に規定する●●の場合《適用除外事由》を定めようとするとき…。
(2)  《所管法令》第●条の規定により●●規格を設定し、変更し、又は廃止しようとするとき。
(3)  《所管法令》第●条第●項の政令の制定又は改廃の立案をしようとするとき。
例)住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成十一年法律第八十一号)第三条の規定により日本住宅性能表示基準を定め、変更し、又は廃止しようとするとき。
( )  前各号に掲げるもののほか、政令で定めるとき。
2.前項に定めるもののほか、関係各大臣は、表示、取引又は安全その他の消費生活に影響を与える事項に関する施策を策定するため必要があると認めるときは、委員会の意見を聴くことができる。
(勧告権)
  委員会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣を通じて関係各大臣その他の行政機関の長に対し、自ら意見を述べ、又は勧告することができる。
(資料の提出等の要求)
  委員会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。
(調査の委託)
  委員会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、独立行政法人、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律により設立された法人、事業者その他の民間の団体、都道府県の試験研究機関又は学識経験を有する者に対し、必要な調査を委託することができる。
(緊急時の要請等)
1.委員会は、消費者の権利及び利益の擁護、増進に関し重大な被害が生じ、又は生じるおそれがある緊急の事態に対処するため必要があると認めるときは、国の関係行政機関に対し、必要な調査、分析又は検査を実施すべきことを求めることができる。
2.国の関係行政機関は、前項の規定による委員会の求めがあったときは、速やかにその求められた調査、分析又は検査を実施しなければならない。
3.委員会は、消費者の権利及び利益の擁護、増進に関し重大な被害が生じ、又は生じるおそれがある緊急の事態に対処するため必要があると認めるときは、関係各大臣に対し、所要の措置を講ずるよう求めることができる。
(委員の任命)
  委員は、消費者団体、学識経験のある者その他消費者保護に関して優れた識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。
(専門調査会)
1.委員会に、消費者庁を含めた関係省庁の政策の評価・監視及び消費者庁が行う行政処分等について、内閣総理大臣又は内閣総理大臣を通じて関係各大臣その他の行政機関の長に対し、自ら意見を述べ、又は勧告するための調査審議を行う専門調査会を置く。
2.委員会に、消費生活及び消費生活関連製品に関する事故情報・危険情報の収集及び分析、重大な事故の調査並びに事故の兆候について情報収集及びその調査を行う専門委員会を置く。
3.委員会に、前2項の他に専門の事項を調査審議させるため、専門調査会を置くことができる。
4.専門調査会は、消費者団体又は学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する専門委員で構成する。
(事務局)
1.委員会の事務を処理させるため、委員会に事務局を置く。
2.事務局に、事務局長のほか、所要の職員を置く。
3.事務局長は、委員長の命を受けて、局務を掌理する。

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