消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の施行令、施行規則及びガイドラインを定めるにあたっての意見書(2015年5月18日)


2015年(平成27年)5月13日


内閣総理大臣  安  倍  晋  三  殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  山  口  俊  一  殿
消費者庁長官  板  東  久美子  殿
衆議院議長  大  島  理  森  殿
参議院議長  山  崎  正  昭  殿
消費者委員会委員長  河  上  正  二  殿


京  都  弁  護  士  会

会長  白  浜  徹  朗
  


消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の施行令、施行規則及びガイドラインを定めるにあたっての意見書



第1  意見の趣旨
1  「特定適格消費者団体の認定・監督に関する指針等検討会」報告書の内容以上の厳格な手続き及び負担を特定適格消費者団体に課すような変更を加えるべきではない。
2  特定適格消費者団体が消費者からの授権に先立ち消費者に説明する方法については、ウェブサイト上で説明する方法を認め、また、消費者から説明不要との意思表示があった場合等、一定の場合に説明を不要とすることを明記すべきである。
3  「特定適格消費者団体の認定・監督に関する指針等検討会」報告書にある、事件の選定状況を消費者庁の監督対象とする点は、削除すべきである。
4  新制度の持続的・実効的な運用のために、消費者庁において、直ちに特定適格消費者団体への財政的支援を含む具体的な支援措置を講じるべきである。


第2  意見の理由
  1  総論(意見の趣旨1について)
2013年(平成25年)12月4日、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(以下「法」という。また、法に基づく制度を「新制度」という。)が成立した。消費者被害においては、同種被害が拡散的に多発する一方、被害に遭った消費者は、情報の質及び量並びに交渉力の格差等によって、被害回復のための行動を取りにくく、被害に受けた者の多くが誰にも相談できず「泣き寝入り」せざるを得ない状況に置かれている。最終的な被害回復手段である訴訟制度においても、費用、労力、時間がかかること、少額な請求が多いことなどから、個別の消費者が訴訟提起で被害回復を図ることが困難である。このような実態を踏まえ、個々の消費者が簡易かつ迅速に被害回復を図れることを目的として制定されたのが、この新制度である。
個々の消費者の被害回復を簡易かつ迅速に図るという立法趣旨を実現するべく、新制度は、消費者の利益を代表する消費者団体を訴訟の担い手としているが、新制度の立法趣旨を実現するためには、訴訟の担い手である消費者団体の現状、実状を踏まえた上で、施行令、施行規則、ガイドライン(以下併せて「ガイドライン等」という。)を定める必要がある。
そもそも、消費者団体は収益を目的としないため、その財政状況は厳しく、活動の多くがボランティアに支えられているという現状、実状があるが、このような消費者団体の現状、実状を踏まえず、過度な負担を消費者団体に課すようなガイドライン等が制定されてしまえば、消費者団体の活動は阻害、委縮させられ、新制度の立法趣旨は大きく損なわれる結果となる。
今般、消費者庁は、「特定適格消費者団体の認定・監督に関する指針等検討会」報告書(以下「報告書」という。)を公表したところである。しかし、この報告書を見ると、例えば、配置すべき人員や物品の規模は取り扱う事件の規模や進捗状況に左右されるにもかかわらず、特定適格消費者団体の認定要件として、被害回復関係業務に必要な人員や物品を恒常的に確保することを要求する等、消費者団体が新制度を担うにあたって、厳格な手続き及び負担を課す内容となっている。ガイドライン等は、法の附則3条に基づいて制定されるものであるが、附則の要求する手続によって、かえって法の趣旨が実現されなくなっては本末転倒である。
報告書の内容は、新制度の適正な運用を図りつつ特定適格消費者団体が新制度を持続的かつ実効的に活用するうえで、特定適格消費者団体に対して、既に厳格な手続き及び負担を課すものであるから、今後、ガイドライン等を定めるにあたっては、報告書の内容以上の厳格な手続き及び負担を消費者団体に課すような変更を加えるべきではない。

2  意見の趣旨2について
新制度は、拡散的に生じる多数の消費者の財産的被害を、集団的に回復することを目的とする。そのため、特定適格消費者団体は、極めて多数の消費者から授権を受けることとなる。
ところが、報告書によると、消費者からの授権に先立ち特定適格消費者団体が行う説明の方法として個別の面談による方法が挙げられている。
拡散的に生じる多数の被害救済を目的とする新制度において、個別消費者への説明、意思確認に厳格な手続きを課す場合、それに比例して時間と費用がかかることになる。そして、手続に要する費用は、新制度では事業者負担とされていないため、厳格な手続きを課した結果要する費用は、最終的には個別消費者の負担となる。しかし、これでは、少額な請求に対し費用がかかる結果訴訟を断念してきた個別消費者を救済するという新制度の立法趣旨が大きく阻害されることとなる。また、簡易かつ迅速な被害回復という立法趣旨も阻害される結果となる。
以上からすると、特定適格消費者団体が授権に先立ち消費者に説明をする方法としては、個別の面談ではなく、簡易な手続による方法を許すものとすべきである。
そこで、ガイドライン等においては、特定適格消費者団体が個別消費者からの授権に際して説明を行う場合には、ウェブサイト上で説明する方法を認め、また、消費者から説明不要との意思表示があった場合等、一定の場合に説明を不要とすることを明記すべきである。

3  意見の趣旨3について
報告書では、消費者庁による監督対象として、「事件の選定(被害回復関係業務全体の運営からみて、特定適格消費者団体が過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定がなされていないか)」を挙げている。
しかし、事件の選定は、訴訟の担い手となる当該特定適格消費者団体の規模、地域性、被害実態、情報提供の有無、相手方事業者の対応、勝訴の見込み等様々な要因に影響される。そして、これらの要素を最も正確に把握し得るのは、事案を担当している当該特定適格消費者団体である。
したがって、事件の選定にあたっては、原則として特定適格消費者団体の意見を尊重すべきであって、ガイドライン等においては、事件の選定状況を消費者庁の監督対象とする点は、削除すべきである。

4  意見の趣旨4について
新制度は、「泣き寝入り」している多数の消費者の財産的被害を集団的に回復するための制度である。そもそも、こうした被害救済のための活動は、本来であれば公的機関が行うべきものであるところ、新制度では、特定適格消費者団体が被害回復業務を担うこととされている。このように公的機関に代わり被害回復関係業務を行う特定適格消費者団体の活動に対しては、当然のことながら公的資金が投じられて然るべきである。
かかる公的資金援助に関しては、法の附則4条も、政府が団体に対して「被害回復関係業務の適正な遂行に必要な資金の確保」等、「支援の在り方」を検討し「必要な措置を講ずるものとする」旨明記しているところである。
そこで、新制度の持続的・実効的な運用のために、消費者庁において、直ちに特定適格消費者団体への財政的支援を含む具体的な支援措置を講じるべきである。

以  上



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