「法曹養成制度の改善を求める総会決議」(2015年5月28日)


決 議 の 趣 旨

当会は、
1  2015年(平成27年)以降、司法試験合格者を大幅に削減することを求める。
2  給費制復活を含む司法修習生に対する経済的支援を拡充し、第65期以降に司法修習を終えた者に対しても遡及的に適切な措置が執られることを求める。

決 議 の 理 由

第1  法曹志願者の減少とその原因
1  新しい法曹養成制度の導入後、法科大学院の志願者数は年々減少を続けている。法科大学院入学者数も激減し、ここ数年、大幅な定員割れとなっており、新規入学者の募集停止を表明した法科大学院も増加している。また、予備試験の出願者数は増加傾向にあったものの2015年(平成27年)は初めて減少に転じた。
2  このような志願者の減少は、弁護士だけでなく、裁判官及び検察官を含めた法曹の職業としての魅力が低下していることを示すものであって、「多様な人材を法曹界に」という司法改革の理念の実現を困難にし、法曹養成制度ひいてはこの国の司法そのものの崩壊を招きかねない。司法基盤の弱体化や司法への信頼の低下は、三権のバランスにも影響を及ぼし、ひいては、市民の権利保護にもとることにもなりかねない由々しき事態である。
3  政府の法曹養成制度検討会議による2013年(平成25年)4月9日付「法曹養成検討会議・中間的取りまとめ」も、法曹志願者の減少を問題視した上で、法曹志願者減少の原因として、全体としての司法試験合格率が高くなっていないこと、司法修習修了後の就職状況が厳しい一方で、法曹になるための時間的・経済的負担を要することから、法曹を志願して法科大学院に入学することにリスクがあるととらえられていることを挙げている。
4  この中で特に重要視すべきは、司法修習修了者の就職難と法曹になるための経済的負担の問題である。司法修習修了者の就職難は近年その深刻さを増しているが、その原因は、司法試験合格者数が依然として実際の法曹需要を大きく超えたものとなっていることにある。また法曹になるための経済的負担は、給費制の廃止に伴う貸与制の実施により従前よりもさらに重くなっている。すなわち、これらの点を改善することが、今後、司法界を担うべき優秀な人材を確保して、司法が持続的かつ健全に機能し、もって法の支配を社会のすみずみにまで行き渡らせ、市民の権利を十二分に保護することを可能にするための喫緊の課題である。

第2  司法試験合格者の大幅な削減の必要性
1  当会は、前記「法曹養成検討会議・中間的取りまとめ」を受け、2013年(平成25年)4月26日、会長声明を発し、司法試験合格者を大幅に減少させる方向性を示すべきことを求めている。
2  しかるに、その後も、司法試験合格者数の大幅な削減はされていない。裁判官や検察官の大幅な増員も実現せず、弁護士人口だけが大幅な増加を続けている。他方で、訴訟事件や法律相談件数は、司法改革審議会の意見書において想定されたようには増えていない。企業や自治体などでの雇用など、法廷以外への弁護士資格者の進出についても同様である。
    そのような状況の中で、約2000人程度の司法試験合格者数が維持されてきた結果、司法修習修了者の就職難が深刻化し、相当数の新人弁護士が既存の法律事務所に就職を希望しているにもかかわらず採用されず、実務経験による技能習得の機会を十分に得られない事態が生じている。
3  このような現状の下、これから法曹になろうとする者は、法曹としての将来的な展望が描きにくくなり、このことが、現状の法曹志願者の減少の大きな要因にもなっている。また、実務家として必要な経験・能力を十分に習得する機会を得られない弁護士が社会に大量に生み出されていく懸念がある。
弁護士に限らず裁判官、検察官は、三権の一翼である司法を担うものであるところ、法曹志願者の減少は、市民の権利保護や司法への信頼を揺るがせかねない。
他方、合格者増員を必要とする一つの要因であった弁護士過疎・偏在解消や被疑者国選・裁判員制度への取り組み態勢の問題については、弁護士会の努力により、現在では対応が相当程度可能な状況になっており、現状の増員ペースを続ける必要がなくなっている。
こうして現状の改善は急務であるところ、法曹需要に想定ほどの増加がみられない中では、司法試験合格者を現実に存在している法曹需要に見合った数にまで大幅に削減することが、最も適切かつ効果的な方策である。
4  2014年(平成26年)の司法試験合格者数は1810人となり、若干の減少となった。しかし、上記の現状に鑑みれば、なおこれまでの弁護士の急増ペースに沿うものであって不十分である。政府の法曹養成制度閣僚会議は3000人という司法試験の年間合格者数の数値目標をすでに撤回している。他方、法曹養成制度改革推進室は、2015年(平成27年)5月21日、1500人程度を上回る規模の司法試験合格者数をも視野に入れたかのような取りまとめ案を提出している。しかしながら前述した法曹志願者減少の実情等をふまえると、当面の司法試験合格者について1500人程度を上回る規模とすることは、現実的な基盤を欠き、現状に対する危機感を欠如したものと言わざるを得ない。したがって、同取りまとめ案は改善案としても不十分であって、これにとらわれることなく、当面の司法試験合格者数を大幅に減少させる方向性が明確にされた上で、2015年(平成27年)以降、司法試験合格者数のさらなる大幅な削減がなされるべきである。

第3  給費制の復活の必要性
1  司法修習生は修習専念義務を負い、司法修習は全国各地に修習生を配置して行われる。このような司法修習生の法的地位や生活実態を踏まえて、新第64期までの司法修習生に対しては、生活費等の必要な費用が国から支給されていた(給費制)。しかし、2011年(平成23年)11月から司法修習を開始した第65期の司法修習生から給費制が廃止され、司法修習費用を貸与する制度に移行した(貸与制)。
2  この貸与制に対しては、制度移行決定直後から、司法修習生の経済的負担が過大となるなどの問題点が指摘され、法曹養成課程における経済的支援の拡充が検討されてきた。しかし、法曹養成制度検討会議が取りまとめ、提案した経済的支援策は、貸与制を前提とし、修習専念義務を一部緩和し、アルバイトを一定認めるだけに留めるなど、極めて不十分かつ不合理で非現実的な内容であった。
3  実際のところ、日弁連が2014年(平成26年)に実施した司法修習生のアンケートによれば、貸与制の採用によって、修習を行う上での経済的不安により修習活動が萎縮したり、経済的事情により法曹になることを諦める事態が生じていることが明らかになっている。また、修習専念義務の緩和により可能とされたアルバイトは職種が限定され、実際にアルバイトが可能な修習生は一部に留まっているし、地域によってはアルバイトができないという地域的不公平すら生じている。法曹養成制度検討会議が提案した「経済的支援策」が、貸与制の問題点を改善できていないことは明らかである。
4  そもそも司法修習とは、三権の一翼を担う司法制度を支える重要な人材を育成する制度であり、司法に優秀な人材を確保するためには、経済的理由により法曹への途が閉ざされることがないような制度設計が不可欠である。また、司法修習生は、裁判所などの指揮監督の下で時間的拘束を受けて修習を行い、全国に配置されているのであるから、その拘束に対する経済的対価や移動に要する費用は国から支給されてしかるべきである。
5  すなわち、司法修習費用は、私費負担であってはならないのであり、給費制は、司法の人的インフラの構築に必要不可欠なものとして、即時に復活されるべきである。また、第65期以降に司法修習を終えた者に対しても、本来必要不可欠な制度がなかったのであり、事後的ではあるものの遡及的に適切な措置が執られるべきである。

第4  結語
    以上の次第で、法曹養成に関する現状を改善するために、司法試験合格者を大幅に削減するとともに、給費制の復活を含む司法修習生に対する経済的支援を拡充し、第65期以降に司法修習を終えた者に対しても遡及的に適切な措置が執られることが不可欠であるから、標記のとおり、総会にて決議する。

2015年(平成27年)5月28日
京 都 弁 護 士 会



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