「改正電気通信事業法にかかる総務省令についての意見書」(2015年7月23日)


2015年(平成27年)7月23日

総務大臣  高  市  早  苗  殿


京  都  弁  護  士  会

会長  白  浜  徹  朗



改正電気通信事業法にかかる総務省令についての意見書



第1  意見の趣旨
当会は、2015年(平成27年)5月22日に公布された電気通信事業法(以下「改正法」という。)について、下記のとおり意見を述べる。
1  改正法第26条で定められた説明義務については、総務省令による説明義務の免除を原則として認めるべきではない。
2  改正法第26条の2で定められた書面交付義務に関して、総務省令による交付義務の免除及び、書面に代わる情報通信技術による提供は、利用者が真意で申し出たことが確認できた場合などの厳格な要件を満たす場合に限定すべきである。
3  改正法第26条の3で定められた書面による解除については、原則として全ての電気通信サービスに認められるべきである。
4  改正法にかかる総務省令制定手続については、その制定過程を公開するとともに、意見公募手続に際して関連資料の公示を徹底することなどにより、意見公募手続が実質的に機能するような措置が取られるべきである。

第2  意見の理由
1  電気通信役務の提供に関する契約についての相談状況
電気通信役務の提供に関する契約(以下「電気通信サービス契約」という。)の提供条件としては、期間拘束・自動更新付契約やオプション契約も含めた複雑な料金体系のプランが提供されている。
また、電気通信サービス契約は、提示している通信速度やサービスの質を保証しない、いわゆるベスト・エフォート型とされ、実際に利用してみないとサービスの品質が利用者には分からないのが実情である(ICTサービス安心・安全研究会報告書(2014年(平成26年)12月)4頁)。
京都府においても、2013年度(平成25年度)の京都府消費生活安全センターの集計(複数回答)では、電気通信サービス契約関係の相談内容は下表のとおりであり、解約・解約料や説明不足に関する相談が上位を占めている。

インターネット接続回線(93件)  携帯電話・スマートフォン(110件)
      内容キーワード  割合                      内容キーワード  割合
1      解約全般  41.9%              1        説明不足  23.9%
2      電話勧誘  30.1%              2        解約全般  22.6%
3      解約料    22.6%              3        他の接客対応  21.4%
4      家庭訪販  21.5%              4        高価格・料金  10.7%
5      説明不足  20.4%              5        解約料  10.3%

このように、電気通信サービス契約については、その契約内容やサービスの性質上、利用者には契約内容の把握が困難な面があり、かかる特性に応じた手当が必要である。

2  意見の趣旨第1項(説明義務)について
改正法第26条ただし書では、総務省令で定める場合は電気通信事業者等の説明義務が免除されている。
しかし、電気通信事業者等の説明義務は、契約締結に係る電気通信事業者等と消費者との間のトラブルを防止し、消費者の利益の保護が図られるよう、電気通信事業者等が、契約の締結等に当たり、消費者が最低限理解すべき提供条件を説明しなければならないこととしたものである(電気通信事業法の消費者保護ルールに関するガイドライン(2014年(平成26年)3月改正版)21頁)。
したがって、上記のような最低限理解すべき提供条件についての説明すら不要となる場合は通常考え難い。
むしろ、未成年や高齢者、障害者が当事者となる契約が増加している現状では、いわゆる適合性の原則に従った説明が求められる(ICTサービス安心・安全研究会報告書(2014年(平成26年)12月)5頁)。
そのため、総務省令による説明義務免除は、原則として認められるべきではない。

3  意見の趣旨第2項(書面交付義務)について
改正法第26条の2第1項において、電気通信事業者は電気通信サービス契約が成立したときは、遅滞なく、総務省令で定めるところにより、書面を作成し、これを利用者に交付しなければならないと定められた。
しかし、同項ただし書においては、総務省令で定める場合に上記書面交付義務が免除されている。
もとより、書面交付義務は、前記のように電気通信サービス契約の料金体系が複雑化し、オプションサービス契約等によって、契約の相手方が多岐にわたるなど、利用者が契約内容を把握することが困難となったために、利用者が契約内容を確実に認識する目的で法律により定められたものであるから、原則として全ての利用者を対象とするべきである。
また、総務省においても、電気通信サービス向上推進協議会などの場を通して、事業者等と連携して簡便で分かりやすい説明モデルの検討を行うとされており(2015年(平成27年)4月21日衆議院総務委員会における吉良裕臣政府参考人発言)、説明モデルに従った書面交付であれば、事業者及び利用者の負担も大きくない。
そのため、総務省令により、書面交付義務の免除が定められるとしても、既に電気通信サービス契約の経験が豊富にある利用者が、説明の省略を真意から申し出た場合に、かかる申出を確認する手続が遵守される場合などの厳格な要件を満たす場合に限定すべきである。

4  意見の趣旨第3項(書面による解除)について
改正法第26条の3は、電気通信サービス契約(改正法26条1項3号は除く。)を締結した利用者が、法定書面の受領日から起算して8日を経過するまでの間、書面により当該契約の解除を行うことができるとしている。
しかし、ここにおいても「総務省令で定める場合を除き」との限定が付されており、総務省令によって、具体的な適用範囲が定められることとなっている。
前記のように電気通信サービス契約においては、契約内容の複雑性や実際のサービス状況を事前に把握できないという特性があり、かかる特性上、書面による解除の制度が要請されるため、総務省令によって、書面による解除の範囲が限定されれば、法の趣旨を没却することになる。
したがって、書面による解除については、原則として全ての電気通信サービスに認められるべきである。

5  意見の趣旨第4項(省令制定過程)について
2015年(平成27年)1月23日に、商品先物取引法施行規則の一部を改正する省令が公表され、かかる規則改正によって、商品先物取引法で禁止されていた不招請勧誘が実質的に解禁されるに至った。
また、労働法の分野では、2015年(平成27年)4月3日に閣議決定された労働基準法等の一部を改正する法律案でも、労働時間等の規制が排除される対象業務の内容が省令に委ねられており、実質的な適用範囲は下位規範である省令が規定する構造となっている。
このように、昨今、法律から委任された省令によって、事後的に法律の適用範囲が規定されるようになってきており、省令の制定に当たっても、法律と同様の情報開示がなされ、その制定過程の議論や関連資料等を外部から検証することが不可欠である。
そして、意見公募手続に際しても、関連資料の事前公示が行政手続法第39条で要請されているところではあるが、今般の総務省令の重要性に鑑み、関連資料の事前公示の徹底等によって、意見公募手続を実質的に機能させることを、あらためて求めるものである。

以  上



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