「特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書」(2015年7月23日)


2015年(平成27年)7月23日


内閣総理大臣  安  倍  晋  三  殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  山  口  俊  一  殿
消費者庁長官  板  東  久美子  殿
総務大臣      高  市  早  苗  殿
経済産業大臣  宮  沢  洋  一  殿
消費者委員会委員長  河  上  正  二  殿
衆議院議長    大  島  理  森  殿
参議院議長    山  崎  正  昭  殿
特定商取引法専門調査会座長  後  藤  巻  則  殿

京  都  弁  護  士  会

会長  白  浜  徹  朗



特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書



現在、消費者委員会の特定商取引法専門調査会において、特定商取引法の改正に向けた審議が行われている。その論点の一つとして、訪問販売及び電話勧誘販売における不招請勧誘規制の強化が議論されている。
  当会は電話勧誘に関して、2014年(平成26年)8月28日に「特定架電適正化法(仮称)の制定を求める意見書」を出しているところであるが、本意見書は特定商取引法の改正において訪問販売・電話勧誘販売を拒否する意思表示をした消費者への勧誘を禁止する制度の導入を求めるものである。

第1  意見の趣旨
  特定商取引法の改正にあたり、以下の立法措置を講ずることを求める。
  1  電話勧誘について、あらかじめ勧誘を受けない意思を表明した者に対する勧誘を禁止する電話勧誘拒否登録制度(Do-Not-Call制度)を導入すべきである。
  2  特定商取引法に「訪問販売お断りステッカー」など訪問勧誘の事前拒否に明確な法的根拠を与え、これを無視して勧誘することを禁止する訪問勧誘拒否制度(Do-Not-Knock制度)を導入すべきである。
  3  電話勧誘拒否登録制度、訪問勧誘拒否制度を導入するにあたっては、原則として全ての取引行為を対象とし、適用除外となる取引は限定すべきである。
  4  上記1ないし2に違反した勧誘によって契約が締結された場合、消費者が当該契約を取り消すことができる規定を導入すべきである。

第2  意見の理由
  1  不招請勧誘規制強化の必要性
(1)消費者庁が2015年(平成27年)5月13日に発表した「消費者の訪問勧誘・電話勧誘・FAX勧誘に関する意識調査について」によると、96%以上の消費者が訪問勧誘・電話勧誘を「全く受けたくない」と回答している。このように大半の消費者は、訪問販売・電話勧誘販売を受けること自体を生活の平穏を害する迷惑な行為であると考えている。この調査結果からも明らかなように消費者の生活の平穏を守るために訪問販売・電話勧誘販売を事前に拒否する制度を導入する必要性がある。
(2)また、不招請の訪問勧誘・電話勧誘は、勧誘を受ける消費者にとって不意打ち的なものであり、かつ、衆人の目の届かない密室で行われることが多いため、悪質商法の温床となっている。全国の消費生活センターに寄せられた相談件数をみても、訪問販売については、再勧誘の禁止(特定商取引法第3条の2第2項)が新設された2008年(平成20年)以降も大幅な減少は見られず、むしろ、家庭への訪問販売については増加している。電話勧誘販売についても従前から再勧誘の禁止(特定商取引法第17条)の規定が存在しているにもかかわらず、2008年(平成20年)以降、相談件数が4万9273件から7万9994件と大幅に増加している。このように、あらかじめ訪問勧誘・電話勧誘を拒否する制度を利用することで消費者は事前に消費者被害から身を守ることができる。
(3)そもそも、商品及び役務について、消費者の自主的かつ合理的な選択の機会が確保されるべきであり(消費者基本法第2条第1項)、事業者からの勧誘を受けるか否かは消費者の自由である。2015年(平成27年)3月24日に閣議決定された消費者基本計画においても「勧誘を受けるかどうか、消費行動を行うかどうか、どの商品・サービスを消費するかについては、消費者の自己決定権の下に位置付けられる」とされているように、勧誘を受けたくないという消費者の決定は尊重されなければならない。
(4)このように、消費者の生活の平穏、消費者被害の防止、自己決定権の尊重からすれば、消費者が事前に勧誘を受けるか否かの意思を表明することができる制度を導入すべきである。

2  不招請勧誘規制の対象となる取引
  電話勧誘拒否登録制度、訪問勧誘拒否制度は、あらかじめ訪問勧誘・電話勧誘を拒否している消費者に対する勧誘を禁止するものであるが、勧誘を受ける消費者にとっては、勧誘を受けること自体が迷惑なのであり、商品や役務、権利の種類、契約金額の多寡によって変わるものではない。また、勧誘を受けないという消費者の自己決定権を尊重するという観点からも原則として、全ての訪問勧誘・電話勧誘を対象とすべきであり、例外的に適用除外を設ける場合にもその要件は極めて限定的にすべきである。

3  不招請勧誘規制は営業の自由を侵害しない
  電話勧誘拒否制度・訪問勧誘拒否制度に対し、事業者からは、営業の自由を侵害する規制だとの意見が出ている。しかし、現行の特定商取引法でも再勧誘が禁止されているように、拒否の意思表示をした者に対する勧誘は禁止されているのであり、営業の自由も無制限に許されるものではない。事業者の意見は、あらかじめ、勧誘を受けないという意思を表明している消費者の生活の平穏を侵害してでも勧誘をする自由があると主張しているに等しいものであり、営業の自由として保護の対象とはならないというべきである。

4  具体的な制度設計について
(1)電話勧誘拒否登録制度(Do-Not-Call制度)を導入するにあたっては、登録した電話番号などの情報が流通し、かえって電話勧誘が増えるなどの事態とならないようにする必要がある。そのため、事業者が拒否リストを確認する方法は、事業者の保有している電話番号を登録機関に送付し、登録機関が登録の有無を確認して事業者に回答する方式(リスト洗浄方式)によるべきである。
(2)訪問勧誘拒否制度(Do-Not-Knock制度)を導入するにあたっては、ステッカーなどに法的効果を与えることが、消費者の意思表明が簡便であり、登録機関の設置や運用のコストも省けるため、望ましいといえる。もっとも、消費者が拒否していることを明確にする観点からは登録方式によることや登録方式とステッカーを併用することも検討されるべきである。

5  実効性確保のために取消権を導入すべき
  事業者が電話勧誘拒否登録制度、訪問販売拒否制度に違反して、消費者に対する勧誘をした場合、行政処分の対象となることは当然であるが、契約を締結した消費者の利益を保護し、制度の実効性を確保するため、事業者が電話勧誘拒否登録制度や訪問販売拒否制度に違反して勧誘をし、その結果、契約が締結された場合、消費者に取消権を付与すべきである。消費者契約法第4条第3項は、退去妨害などの生活の平穏を害し、消費者を困惑させる態様で勧誘がなされた場合には、消費者の意思決定に瑕疵をもたらすことを考慮した規定であるが、消費者が事前に訪問勧誘や電話勧誘を拒否する意思表示をしているにもかかわらず、事業者があえて訪問勧誘や電話勧誘を行う場合には、消費者の生活の平穏を害し、消費者を困惑させる態様での勧誘といえるからである。

6  オプトイン型の不招請勧誘規制導入の検討
  現時点においては、電話勧誘拒否登録制度(Do-Not-Call制度)、訪問勧誘拒否制度(Do-Not-Knock制度)の導入を求めるものであるが、これらの制度の導入によっても事業者による訪問勧誘や電話勧誘の状況が改善されない場合には、訪問勧誘や電話勧誘を原則として禁止し、勧誘を承諾した消費者に対してのみ訪問勧誘や電話勧誘ができるオプトイン型の不招請勧誘規制の導入も検討されるべきである。

以  上

関連情報