「弁護人接見における写真撮影を認めない判決に抗議する会長声明」(2015年8月19日)


  2012年(平成24年)3月、東京弁護士会所属の竹内明美弁護士は、東京拘置所の接見室で、被告人の写真を撮影しました。被告人が精神的に不安定な状態にあり、接見室でも様子に異常が見られたので、記録に残す必要があると判断したためです。
  ところが、接見室をのぞいていた拘置所職員は、接見室に入室し、撮影した写真データを消去するよう、竹内弁護士に告げました。同弁護士が消去を断ると、職員は被告人を接見室から連れ出し、強制的に接見を中断しました。
  誰でも、被疑者・被告人として身体を拘束された人は、弁護人を依頼できる権利があり、憲法で保障されています。法律の専門家である弁護人の助言と援助を受ける機会を守るため、弁護人とは、立会人なしで接見することができます。これを秘密接見交通権と言い、刑事手続の上で、最も重要な基本的権利です。国が強大な権力で個人の身体を拘束し、処罰しようとするときには、重大な人権侵害が起こる危険があることから、憲法は、個人の権利を守る役割を弁護人に負わせているのです。そのため、弁護人は、拘束された人の権利を守る弁護活動として、あらゆる努力をします。接見中に把握した状況を記録する必要があれば、写真撮影などの方法を取ることも、当然の職責です。これを接見室の外から覗いて接見を中断させることは、秘密接見交通権の侵害であり、弁護活動の妨害であることは明らかで、許されません。
  竹内弁護士は、拘置所の対応が違法であることを明らかにするため、拘置所(国)を被告として、国家賠償請求訴訟を起こしました。東京地方裁判所は、2014年(平成26年)11月7日付の判決で、拘置所の対応が違法であることを認めました。しかし、控訴審の東京高等裁判所は、2015年(平成27年)7月9日の判決で、国の主張を認め、東京地方裁判所の判決を取り消しました。
  判決が認めた国の主張とは、「接見とは会話で意思を通じることであり、写真による記録は含まれない」、「証拠保全手続など他の方法によれば足りる」、「拘置所には『施設管理権』があり、施設の秩序を守るために、写真撮影を禁止できる」、などというものです。
  しかし、接見とは口頭での打合せに限られるものではないことは、過去の裁判例(大阪高等裁判所平成17年1月25日判決)でも認められている当然の結論です。接見で把握した状況を正確に記録することが保障されなければ、弁護人は拘束された人の権利を十分に守る活動をすることができません。写真撮影は、その場の状況を正確に記録するための「最善のメモ」であり、他の方法があり得たとしても撮影を禁止する理由にはなりません。そして、弁護人が被告人の様子を記録するために写真撮影をすることで、施設の秩序が害されるということもあり得ません。
  何よりも、拘置所職員が接見室の様子をのぞいて中断させることを認めれば、拘束をされた人が弁護人の援助・助言を受けるという憲法上の保障は無意味になります。
  今般の東京高等裁判所の判決は、憲法の保障に基づく秘密接見交通権や弁護活動の重要性を理解しない、不当なものであることは明らかです。京都弁護士会は、今般の不当判決に強く抗議します。また、弁護人が、身体拘束された人の権利を守る憲法上の職責を果たすため、今後ともあらゆる努力を尽くす決意を表明します。

2015年(平成27年)8月19日

京  都  弁  護  士  会

会長  白  浜  徹  朗

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