声明

「京都刑務所あて警告書」(2015年8月19日)


2015年(平成27年)8月19日

京都刑務所長    山  本  孝  志  殿

京  都  弁  護  士  会        

会  長  白  浜  徹  朗  

同人権擁護委員会            

委員長  黒  澤  誠  司  


警  告  書


第1  警告の趣旨
    京都刑務所が、受刑者⚫⚫️⚫️⚫️(以下「申立人」という。)を含め、受刑者の発信する全ての信書(審査の申請等を除く)を開封したまま職員に提出させていることは、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第127条第1項、第2項の趣旨に反し、受刑者の通信の秘密を侵害するおそれがある。
よって、当会は、貴刑務所に対して、以下のとおり警告する。
1  受刑者が、弁護士会宛の信書の発信を求めた場合、原則として検査の必要がないものとして取扱い、具体的根拠に基づき刑事施設の規律及び秩序の維持等の拘禁目的を阻害する具体的危険性が信書外の事情から認められる場合にのみ検査をなしうるものとすること。
2  受刑者が発信を求めた、弁護士会宛の信書がとりわけ刑務所において自己が受けた処遇に関するものである場合には、そのことを口頭で確認するに留め、信書外の事情から刑事施設の規律または秩序を害する高度の現実的危険性が存在するなどの特別の事情がない限り内容の検査をしてはならないものとすること。
3  上記1又は2によって検査をしてはならない場合には、その信書が封緘された状態で提出されたときには、外形等から異物の混入の合理的疑いが認められない限り、これを開披することなく発信すること。

第2  警告の理由
  1  申立人は、不当な懲罰を受けたこと、人権救済を求める信書発信の際、信書の開披を求められたことが不当であるとして、当会に対して人権救済申し立てを行った。

  2  調査の内容
      ・2013年(平成25年)1月29日  申立人から聞き取り
            予備調査の結果、懲罰については、人権侵害とまでは言えないと判断したものの、信書発信の制限については人権侵害の可能性があり、本調査を開始することとした。
      ・同年5月13日  京都刑務所に対して照会書を送付
            照会書の主な質問事項
1  申立人が発信しようとした信書は、弁護士会等宛であったが、この場合にも信書の開披を求めたか。
2  受刑者が信書を発信しようとした場合、一律に内容検査を行っているか。
3  2010年(平成22年)10月21日、当会は、京都刑務所に対して、受刑者の発信する全ての信書を開封したまま職員に提出させていることについて、憲法、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」という。)第127条第1項及び第2項に反するため、一律に全ての信書を開披したまま職員に提出させないようにとの警告を発しているが、それに従わない理由。
      ・同年9月18日  上記に対する回答書
1  申立人が、京都弁護士会等宛の申請をしたところ、全て開披を求めている。そのため、開披した封書については、発信がされているが、開披を拒否した封書については、自ら取り下げるなどして発信されていない。
2  内容検査については、一律には行っていない。但し、必要な限度である程度の記述内容の検査を行っている(法第127条第2項第3号の文書でも同様)。
3  警告書については、承知しているが、京都刑務所は、以前から適正に信書検査を実施している。
      ・2014年(平成26年)5月12日  福島刑務所に対する照会書を送付
1  申立人は、福島刑務所では、全ての信書を一律に開披させられることはなかった旨、申し述べたが、そのような事実があるのか。
2  日本弁護士連合会は、2011年(平成23年)8月5日に、福島刑務所に対して、受刑者が、弁護士等に宛てた信書について、原則として検査の必要がないものとして扱い、信書外から具体的根拠に基づき刑事施設の規律及び秩序の維持等の拘禁目的を阻害する現実的危険性が認められる場合のみ検査をなし得るものとすること等の勧告を行っているが、その勧告後に取扱を変えた事実の有無。
      ・同年8月21日  上記に対する回答
1  受刑者が発信する信書については、法第127条第1項に基づき、必要がある場合に信書検査を行っており、法第127条第2項第2号及び同第3号に該当する信書を発信する際は、当該信書が同各号に該当する信書であるかどうかを確認するために必要な限度で検査を行っている。
2  勧告書を受領した前後で取扱の運用の変更はしていない。

3  当会が認定した事実
京都刑務所からの回答によれば、申立人が弁護士会等宛に信書を発信しようとした日付は、下記のとおりである(申立人の主張する日付と合致している)。
        2012年(平成24年)9月24日  京都地方裁判所宛
        同年11月22日  中国領事館宛
  京都弁護士会宛
        同年同月23日    京都弁護士会宛
        同年同月24日      同上
        同年同月25日      同上
        同年同月26日      同上
        同年同月27日      同上
申立人から、上記信書のうち、同年11月22日付、同月25日付、同月26日付、同月27日付の信書が当会に提出されたが、その内容はいずれも京都刑務所内での処遇に関し人権救済を求める内容であった。
また、京都刑務所からは「申立人が京都弁護士会等宛の発信申請をしたところ、全て開披を求めている。そのため開披した封書については、発信がされているが、開披を拒否した封書については、自ら取り下げるなどして発信されていない。」との回答がなされており、同月22日付、同月26日付信書についてはいずれも発信申請がなされたが(京都刑務所の回答書による)、開披を求められ、その後取り下げられたことに争いはない(その余の信書については発信申請にまで至っていない)。
以上より、申立人は、京都刑務所内での処遇に関し人権救済を求める内容の当会宛の信書について同年同月22日付、同月26日付で各発信申請を行ったが(京都刑務所の回答による)、京都刑務所の職員から開披を求められたためこれを取り下げるに至ったと認定できる。
また、京都刑務所の回答書によれば、信書の内容検査については、一律には行っていないが、法第127条第2項第3号の文書であっても必要な限度である程度の記述内容の検査を行っているとの回答がなされている。

4  判断
(1)外部交通における法的コミュニケーションの重要性
通信の秘密は、憲法第21条第2項後段により基本的人権として保障されているが、特に受刑者が自己の処遇に関して弁護士等と発受する信書は、刑務所の処遇に対する国家賠償請求訴訟準備的ないし人権救済申立的な法的コミュニケーションに関する信書である。こうした法的コミュニケーションに関する信書については、憲法第32条の裁判を受ける権利の実質的保障の観点からも重要な意味を有しており、自由かつ秘密のコミュニケーションの保障が不可欠である。こうした文書について、通信の秘密を制限することは慎重でなければならず、本件で問題となっている前記第2の3に掲げた各信書おける通信の秘密は、最大限尊重されるべきである。
(2)法第127条の解釈について
ア  受刑者の信書の発受について定めていた旧監獄法第48条は、「受刑者及ビ監置二処セラレタル者ニハ其親族二非サル者ト信書ノ発受ヲ為サシムルコトヲ得ス。」と規定し、同法施行規則第130条第1項は、「在監者ノ発受スル信書ハ所長之ヲ検閲スベシ」と規定していた。
しかし、このような旧法の規定は、外部交通に関する国際的な準則からかけ離れており、2005年(平成17年)に新たに刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が制定された。
法第126条は、受刑者は、信書を発受することができると規定しており、受刑者の信書発受権が明文化された。その上で、法第127条第1項は、信書一般につき、「刑事施設の長は、刑事規律及び秩序の維持、矯正処遇の適切な実施その他の理由により必要があると認める場合には、」「受刑者が発受する信書について、検査を行うことができる。」と定めており、原則として信書の検査は行わず、例外的に必要性がある場合にのみ検査を行うこととされた。これは、前述のような通信の秘密の重要性を尊重したものである。
このように一般の信書ですら、その検査は例外とされているのであるから、ましてや、前述で検討したように、受刑者との自由かつ秘密のコミュニケーションが保障されなければならない弁護士会との信書の発受の制限については、より厳格に解されなければならない。
また、弁護士会との間で発受する信書かどうかの確認は、封筒の宛名、発信者、住所の記載を確認することによって容易に可能である。仮に、封緘されていたとしても、その形状、重量など外形的検査などによって信書を開披することなく異物混入の有無等の確認は十分に可能である。
よって、弁護士会との間の信書について検査の「必要があると認める場合」とは、ごく例外的に、信書外の事情から、具体的根拠に基づき規律及び秩序の維持等の拘禁目的を阻害する現実的危険性が認められるような場合に限られると解するべきである。
イ  また、法第127条第2項は国又は地方公共団体の機関から受ける信書や自己が受けた処遇に関して弁護士との間で発受する信書等について該当性確認のための検査以外の検査を禁止しているが、これは、同条第2項に掲げられた信書については、刑事施設の規律及び秩序の維持等に影響を及ぼすおそれが類型的に低く、かつ、刑事施設職員が検査することによる弊害が類型的に大きいからである。
したがって、同条第2項の規定する「これらの信書に該当することを確認するために必要な限度」の検査とは、外形的な検査に限られ、内容にわたる検査は許されないと解するべきである。
また、同条第2項ただし書によれば、「刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認めるべき特別の事情がある場合」は同条第1項により検査をなしうるものとなっているが、法的コミュニケーションの中でも自己の処遇に関する弁護士等宛の信書については刑事施設と利害が対立する問題であるという特殊性があり、一方の対立当事者である刑事施設側が信書を検査できるとするのは本来公平を欠くことであるから、通常の法的コミュニケーションに関する信書と比べてもこのただし書の規定は厳格に解すべきである。
よって、同ただし書の規定は、信書外の事情から刑事施設の規律及び秩序を害する高度の現実的具体的危険性が存在するか否かによって判断されるべきである。
なお、受刑者等被拘禁者の人権救済に関わる法的コミュニケーションについては、事柄の性質上、前述のように特に保障される必要がある事柄であることは言うまでもなく、特定の弁護士とのつながりがない被拘禁者の場合、人権救済を求める先としては弁護士会や弁護士連合会とならざるを得ないことに鑑みれば、同条第2項第3号の解釈としては、同号に定める「弁護士」に弁護士会、弁護士会連合会又はこれに関連する職務に従事する弁護士が含まれる、あるいはそれに準ずるものとして解釈されなければならない。
(3)本件について
本件において申立人が発信申請を行った各信書は、受刑者との自由かつ秘密のコミュニケーションが保障されなければならない弁護士等との信書に該当するところ、京都刑務所からの回答を見る限り、本件各信書について、具体的根拠に基づき刑事施設の規律及び秩序の維持等の拘禁目的を阻害する現実的危険性が信書外の事情から認められた様子はうかがわれない。
また、当会宛の信書が法第127条第2項第3号の信書であることは、封筒の宛先のみから明らかであって、信書の内容を検査する必要性は全くない。
京都刑務所が、申立人の発信する信書に対して開披を求めたこと、また一般に信書について「ある程度の」内容に亘る検査を行っていることは、法第127条1項及び2項の趣旨に反する行為であるとともに、受刑者に対して憲法第21条第2項が保障する通信の秘密を侵害する行為である。
(4)再度の警告の必要性
当会は、本件と同様に受刑者の発信する全ての信書を開封したまま職員に提出させていた事案に関して、2010年(平成22年)10月21日付で京都刑務所に対し警告を行っている。
しかし、同警告に関わらず、京都刑務所においては依然として受刑者の信書の発信に関し、弁護士会宛の人権救済を求める信書であると否とに関わらず、一律に全ての信書を開封したまま職員に提出させていること及び封緘した状態で発信を願い出た場合は封緘せずに開封して提出するように指導していることが伺われる。
京都刑務所におけるかかる運用は、実質的に旧監獄法時代の運用をそのまま踏襲するものであり、当会が京都刑務所に発した前記警告を何ら受け入れようとはしないものであって極めて遺憾である。
よって、当会は、京都刑務所に対し、新法の趣旨を尊重し、受刑者の信書発受権や憲法第21条第2項の趣旨を尊重する観点から、法第127条に基づく検査は必要最小限に止めるべきことを引き続き求めるべく、京都刑務所に対して、警告の趣旨のとおり警告を行う次第である。

以  上


(参考条文)

刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律

第126条(発受を許す信書)
刑事施設の長は、受刑者(未決拘禁者としての地位を有するものを除く。以下この目において同じ。)に対し、この目、第百四十八条第三項又は次節の規定により禁止される場合を除き、他の者との間で信書を発受することを許すものとする。
第127条(信書の検査)
第1項  刑事施設の長は、刑事施設の規律及び秩序の維持、受刑者の矯正処遇の適切な実施その他の理由により必要があると認める場合には、その指名する職員に、受刑者が発受する信書について、検査を行わせることができる。
第2項  次に掲げる信書については、前項の検査は、これらの信書に該当することを確認するために必要な限度において行うものとする。ただし、第三号に掲げる信書について、刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認めるべき特別の事情がある場合は、この限りでない。
1  受刑者が国又は地方公共団体の機関から受ける信書
2  受刑者が自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇に関し調査を行う国又は地方公共団体の機関に対して発する信書
3  受刑者が自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇に関し弁護士法第三条第一項に規定する職務を遂行する弁護士(弁護士法人を含む。以下この款において同じ。)との間で発受する信書



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