意見書

内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」についての意見書(2015年9月17日)


2015年(平成27年)9月17日


内閣総理大臣                              安  倍  晋  三  殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  山  口  俊  一  殿
消費者庁長官                              板  東  久美子  殿
内閣府消費者委員会委員長                  河  上  正  二  殿
内閣府消費者委員会事務局  御中

京  都  弁  護  士  会

会長  白  浜  徹  朗



内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会

「中間取りまとめ」についての意見書



内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会(以下「専門調査会」という。)が2015年(平成27年)8月に公表した消費者契約法(以下「本法」という。)改正についての「中間取りまとめ」につき、以下のとおり意見を申し述べる。

第1  意見の趣旨
  1  「勧誘」(本法第4条第1項ないし第3項)要件の在り方について(中間取りまとめ9頁以下)
不特定の者を対象とした広告や表示であっても、事業者が消費者に対して特定の取引を誘引する目的をもってした行為については誤認取消ができる旨の明文の規定を置くべきである。
  2  「重要事項」について(中間取りまとめ15頁以下)
      本法4条4項の「重要事項」の列挙事由として、「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」を付加すべきである。また、「重要事項」の列挙事由は例示列挙であることを明示すべきである。
3  不当勧誘行為に関するその他の類型・その1「(1)困惑類型の追加」について(中間取りまとめ17頁以下)
不退去・退去妨害以外にも、執拗な勧誘、威迫による勧誘を困惑取消の対象とすべきである。
  4  不当勧誘行為に関するその他の類型・その2「(3)合理的な判断を行うことができない事情を利用して契約を締結させる類型」について(中間取りまとめ20頁以下)
      合理的な判断を行うことができない事情を利用して不必要な契約を締結させる、いわゆる「つけ込み型不当勧誘」について、契約を取り消せる旨の規定を設けるべきである。
  5  取消権の行使期間について(中間取りまとめ24頁以下)
    消費者取消権の行使期間を、少なくとも短期3年、長期10年とすべきである。
6  不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果について(中間取りまとめ27頁以下)
    消費者取消権を行使した場合の返還義務の範囲に関して、消費者が現に利益を受けている限度においてのみ返還義務を負う旨の規定を設けるべきである。また,事業者の勧誘行為が信義誠実の原則に反すると認められる場合には,事業者は消費者に対し,利益の全部又は一部について返還を請求することができない旨の規定を設けるべきである。
7  損害賠償額の予定・違約金条項について(中間取りまとめ31頁以下)
本法第9条第1号の「平均的な損害」の主張・立証責任を事業者に転換することを明文で規定すべきである。
8  不当条項の類型の追加について(中間取りまとめ30頁以下、36頁以下)
(1)下記の契約条項については、例外なく無効である旨の規定を設けるべきである。
  ア  生命・身体侵害の軽過失一部免責条項
  イ  消費者の解除権・解約権を放棄させる条項
  ウ  契約文言の解釈権限を事業者のみに与える条項
(2)下記の契約条項については、当該条項が消費者に与える不利益を上回る業務上の必要性・相当性が認められる場合を除いて無効である旨の規定を設けるべきである。
ア  消費者の解除権・解約権を制限する条項
イ  事業者に当該条項がなければ認められない解除権・解約権を付与し又は当該条項がない場合に比し事業者の解除権・解約権の要件を緩和する条項
ウ  消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったものと擬制する条項
エ  当事者の権利・義務の発生要件該当性若しくはその権利・義務の内容に関する決定権限を事業者のみに付与する条項

第2  意見の理由
1  社会経済状況の変化への対応の必要性
2001年(平成13年)に施行された消費者契約法は、消費者が取消し得る契約及び無効となる不当な契約条項を定めた、消費者の権利実現にとって重要な法律である。しかし、同法の実体法部分は2001年(平成13年)以降一度も改正されておらず、この間、現在に至るまで、高齢化、高度情報化といった変化に伴い、高齢者の判断能力低下につけ込んだ勧誘やインターネット上の不当な広告・不当条項等による消費者被害が増加してきた。独立行政法人国民生活センターの「消費者契約法に関連する消費生活相談の概要」によると、例えば、「判断能力に問題のある人の契約」の相談は、2011年(平成23年)で7,644件、2012年(平成24年)で8,717件、2013年(平成25年)で10,252件と年々増加している。
こうした社会経済状況の変化に対応すべく、内閣府消費者委員会において専門調査会が立ち上げられ、2015年(平成27年)8月、「中間取りまとめ」が公表された。中間取りまとめにおいては、同法改正の方向性として評価できる部分もあるものの、法施行後の社会経済状況の変化への対応として不十分と言わざるを得ないものも存在する。そこで、本意見書では、中間取りまとめで整理されている事項のうち、特に重要と思われる論点につき、意見を述べるものである。
    
2  「勧誘」要件の在り方について(中間取りまとめ9頁以下)
    消費生活相談事例等では,不特定多数向けの広告や表示に掲載された不実告知に相当する内容を信じた消費者の事例が見受けられる。また、これまでの裁判例においても、不特定多数向けのパンフレットや説明書も「勧誘」であることを前提とする立場に立ったものが存在する(神戸簡判平成14年3月12日消費者法ニュース60号211頁、京都簡判平成14年10月30日消費者法ニュース60号212頁)。さらに、近年のインターネットの普及に伴い,インターネットの画面上で不実告知に相当する内容が掲載され、それを信じた消費者がトラブルに巻き込まれる事例も多く見受けられる。不特定多数向けの広告、パンフレット、チラシ等が「個別の契約締結の意思形成に直接影響を与えているとは考えられない」といった理解は、消費者契約の実態や被害から乖離している。
また、不特定の者を対象とした広告等であっても消費者の個別の契約締結の意思形成に直接影響を与えることはあり得る。
そこで、不特定の者を対象とした広告等であっても、事業者が消費者に対して特定の取引を誘引する目的をもってした行為については誤認取消ができる旨の明文の規定を置くべきである。

  3  「重要事項」について(中間取りまとめ15頁以下)
      本法第4条第4項の「重要事項」については、第1号、第2号に挙げられた事由を「重要事項」の例示と解釈するか、また、動機を「重要事項」に含めて解釈するかといった解釈上の争いがある。
実務上、契約動機など契約締結の前提となる事実に関して不実告知がなされている事案は極めて多く、そのような事案の消費者被害を救済する必要性は極めて高い。他方、現行法上、動機の錯誤による錯誤無効の主張等の救済手段も考えられるが,契約動機の表示があったこと等の立証が困難であることから十分な救済につながっていない。
特商法においては,既に同法第6条第1項第6号で「顧客が…契約の締結を必要とする事情に関する事項」が列挙事由とされ、契約動機に関する事項が不実告知取消の対象として明文化されている。これは、契約動機に関する不実告知の被害事例への対応が看過できない問題であることの証左である。
そこで、本法第4条第4項の「重要事項」についても、特商法第6条第1項第6号を参考に「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」を付加し、契約動機に関する事項も不実告知の対象に含まれることを明確化すべきである。また、本法第4条第4項の列挙事由が「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」の例示であることを法文で明示すべきである。

4  不当勧誘行為に関するその他の類型・その1「(1)困惑類型の追加」について(中間取りまとめ17頁以下)
    事業者の不当な勧誘行為で消費者が困惑して契約を締結してしまったという事案は、現行法が定める不退去・退去妨害が存在した事案に限られない。そこで、不退去・退去妨害と同視できるような困惑惹起行為を追加すべきである。
    第一に、事業者が消費者の自宅や職場への執拗に電話勧誘や訪問勧誘を繰り返すといった執拗な勧誘によって消費者が困惑して契約を締結してしまったという被害事例は多い。したがって、「執拗な勧誘」を困惑惹起行為として付加すべきである。
第二に、粗野・乱暴な言動を伴う勧誘行為で威迫し、消費者を困惑させて契約を締結させるといった被害事例についても、被害者を救済する規定が必要である。特商法第6条で「威迫して困惑させてはならない」といった規定が存在していることは、威迫行為への法規範の必要性・相当性を裏付ける。したがって、「威迫」を困惑惹起行為として付加すべきである。

  5  不当勧誘行為に関するその他の類型・その2「(3)合理的な判断を行うことができない事情を利用して契約を締結させる類型」について(中間取りまとめ20頁以下)
      認知症、躁鬱病等の事情で合理的な判断ができない状況にある消費者を狙った消費者被害は極めて多い。社会の高齢化が進む我が国において、高齢者が安心して暮らしてゆける社会にするためにも、かかる被害を放置しておくことはできない。消費者に合理的判断ができない事情があることを利用して不必要な契約を締結させる、いわゆる「つけ込み型不当勧誘」に関する規定を設けることは、今回の法改正で必要不可欠である。
具体的な規定の在り方としては、まず、主観的要素として、典型的な被害類型である「判断力の不足、知識・経験の不足、心理的な圧迫状態、従属状態」などを例示列挙したうえで、当該事情があるために一般的・平均的な消費者であれば通常することができる判断ができない状況を指すという趣旨で「消費者が当該契約をするかどうかを合理的に判断することができない事情」という要件を設けるべきと考える。また、事業者の取引の安全への配慮という観点から、事業者の主観的態様として、上記のような事情を事業者が「利用」したという要件を付加すべきと考える。
客観的要素として、事業者の当該行為がなければ、一般的・平均的な消費者であれば通常締結するとは考えられない契約を締結させられたという意味で「不必要な契約を締結したこと」を要件とすべきである。客観的に不必要な契約であると認められるならば契約の効力を否定することが相当であるし、要件としても明瞭である。
法律効果については、取消とすべきである。

  6  取消権の行使期間(中間取りまとめ24頁以下)について
    消費者取消権の行使期間を、少なくとも短期3年、長期10年とすべきである。
  消費者契約被害の相談現場では、「騙されて恥ずかしい等々と思い悩むうちに6ヵ月以上経ってしまった」といった事案が存在する。また、マスコミ報道などが契機となって被害に遭ったことが判った時には「契約してから5年以上経っていた」といった事案も存在する。さらに、消費者契約をめぐる法律関係については、権利が転々流通するといった事情や、身分関係のように時間の経過と共に権利義務関係が積み重なっていくといった事情は稀薄である。消費者の被害救済を犠牲にしてまで法律関係の早期安定化の要請が特に強く働く法律関係ではない。
上記のような観点から、現行法の消費者取消権の行使期間(短期6か月、長期5年)は、消費者を救済するために取消期間を伸長する必要がある。少なくとも「短期3年、長期10年」に伸長すべきである。

7  不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果について(中間取りまとめ27頁以下)
  現在国会に提出中の民法改正法案では、契約が取消された場合、原則として原状回復の効果が生じるものとされる。もし消費者契約権を行使しても提供された役務の対価相当額の原状回復義務を負担しなければならなくなるとすると、契約上の対価の支払義務を負担しているのと同じであり、消費者は全く救済されない結果となる。のみならず、不当勧誘行為を行った事業者の「やり得」「利得の押し付け」を許す結果となってしまい、社会正義に反する不合理な結論となってしまう。不当勧誘行為の抑止という観点からも問題である。したがって、本法の規定に基づく消費者取消権を行使した場合の返還義務の範囲に関して原状回復義務を免除又は縮減する特別規定を設けることは必要不可欠である。

8  損害賠償額の予定・違約金条項について(中間取りまとめ31頁以下)
    当該事業者に生ずべき平均的な損害は、通常は当該事業者にしか知り得ない事柄であり、消費者に主張・立証責任を課すのは不可能に近い困難を強いるものである。一方、事業者においては、自らの帳簿その他の内部資料によって、平均的損害を主張・立証することは容易である。したがって、主張立証責任の公平かつ合理的な分担という観点から、「平均的な損害」の主張・立証責任を事業者に転換すべきである。
そこで、「平均的な損害」の主張・立証責任を事業者に転換する旨規定すべきである。

9  不当条項の類型の追加について(中間取りまとめ30頁以下、36頁以下)
(1)いわゆるブラックリストを追加すべきであること
生命・身体は最も要保護性が高い法益であり、生命・身体侵害の免責条項については、もともと合意による処分に適さないように思われる。
また、民法等で認められた消費者の解除権は、事業者が債務を履行しない場合等において消費者が契約から解放させる重要な権利である。この解除権を排除する契約条項は、消費者の重要な権利を奪うものである。
      さらに、事業者に契約条項の一方的な解釈権や契約適合性の判定権を認める契約条項が存在する場合、事業者が消費者に対する法的責任の存否や契約内容を自らの意思で決定できることになってしまい、消費者の地位は極めて不安定なものになってしまう。
      加えて、サルベージ条項は、全部無効であるはずの不当条項の存在を許容し、消費者の泣き寝入りを招く点において、現実的な危険性は著しく大きい。
これらの契約条項は類型的に信義則に反して消費者の利益を一方的に害する契約条項であり、かつ、有効とすべき合理的な場面を想定し難い。
したがって、これらの契約条項はおよそ無効である旨の規定(いわゆる「ブラックリスト」)を設けるべきである。
(2)いわゆるグレーリストを追加すべきであること
      民法等で認められた消費者の解除権を制限する契約条項は、消費者の重要な権利を制限するものである。
      また、事業者の解除権・解約権を新たに付与したり、緩和したりする条項は、消費者に対する事業者の契約責任を一方的に消滅させたり、緩和させる条項であり、消費者の地位は極めて不安定なものになってしまう。
      さらに、消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったものと擬制する条項は、当該消費者の真意に反する法律効果が擬制された場合には当該消費者に予期せぬ不利益を与える。
      加えて、当事者の権利・義務の発生要件該当性若しくはその権利・義務の内容に関する決定権限を事業者のみに付与する条項は、契約の一方当事者が他方当事者に対する自らの法的責任の存否や範囲の決定に関与できることになる点において、消費者の地位を極めて不安定なものにする。
これらの契約条項は類型的に信義則に反して消費者の利益を一方的に害する契約条項である。もっとも、個別具体的な契約条項としては、多様なものがありえることから、原則として無効としたうえで、当該条項が消費者に与える不利益を上回る業務上の必要性・相当性を事業者が明らかにした場合には有効とすること(いわゆる「グレーリスト」として規定すること)が合理的である。

以  上

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